38.単純なニワトリスたちとお昼の時間になりました

「……え?」


 でっかいインコは俺に話しかけたみたいだ。俺の前にずいずいっとシロちゃんとクロちゃんが出る。ルマンドさんは慌てて二、三歩俺から離れた。すみませんすみません。


「ダメー!」

「オトカー!」


 シロちゃん、何がだめなんだい? そしてクロちゃん、なんでまた俺の名前をインコに教えているのかな? 教えちゃいけないってわけじゃないけど……。

 シロちゃんはクロちゃんをつんつんとつつき始めた。クロちゃんが俺にくっついて縮こまる。つっつかれるのは嫌だけど俺の側は絶対離れないぞという意志を感じた。


「シロちゃん、だめだよつついちゃ……」


 クロちゃんが俺にへばりついているからシロちゃんを抱きしめられない。


「ンー? ニワトリスー? フワフワー、カワイーイ!」


 すると俺たちを見ていたインコが歌うようにそんなことを言い始めた。


「ニワトリスー、カワイー!」


 シロちゃんはクロちゃんをつつくのを止め、じっとインコを見た。平静を装っているが、尾がびったんびったん揺れて床を叩いている。あんまり強く叩かれるとギルドの床が抜けるんじゃ? とひやひやした。


「カワイー?」


 クロちゃんは俺にくっついたまま首をコキャッと傾げた。

 なんでこの、鳥たちが首を傾げる仕草ってとんでもなくかわいいんだろうなぁ。


「ピーチャン、カワイー、ニワトリス、カワイーイ!」

「カワイーイ!」


 クロちゃんの尾までびったんびったん暴れだしてどうしたらいいのかわからなくなった。


「……あー、その、だな……インコ君、頭から下りてもらっていいか?」

「ワカッター!」


 そう言ったかと思うと、インコはルマンドさんの頭から俺の頭の上に飛び乗った。


「わぁっ!」

「ピーチャン、カワイー! ニワトリス、カワイー! ダレー?」


 インコは俺の上で身体を揺らしながら歌うようにそう言う。誰ー? ってやっぱ俺に言ってんのかな?

 それにしてもインコの足、爪が頭に刺さるみたいで微妙に痛い。


「ピーチャン、俺に聞いてんの?」

「オレー!」


 あ、やべ。素が出た。


「オトカだよ。オトカ」

「オトカー、カワイー!」

「おー、ありがとー」


 これ、いつになったら収拾付くのかな?

 でも俺たちがこんなやりとりをしている間に、ギルドの職員たちは青年たちを縛るだけでなく口にも縄をかけてしゃべれないようにした。魔法を唱えさせないようにだろう。でも俺みたいに頭の中で使えたら口に縄をかけても意味がない気がするけど。そこらへんどうなんだろうな?


「コイツらはどうしますか?」


 職員がルマンドさんに尋ねた。ルマンドさんは少し考えるような顔をしたけど、


「そうだな……ギルドをたばかろうとした罪状だけなら登録を抹消して二度とこの国では活動できなくする程度なんだが……たばかろうとした依頼が依頼でなぁ……」


 そう言いながら、青年たちの襟首を掴む。


「防衛隊を呼べ。それまで外に吊るしとけ」

「承知しました!」


 吊るすと聞いてさすがに引いてしまった。生きる為に魔物や動物は捕まえてさばいたりするけど、ちょっと同じ人間は……という忌避感はあるのだ。


「木の板付けて外に吊るしますね」


 木の板には罪状を書くらしい。いわゆる見せしめってやつだ。


「頼んだ。で、オトカ君?」


 ルマンドさんは、今度は笑顔で俺に向き直った。怖い。目が笑ってない。


「な、なんでしょう……?」

と言ってそのインコに触れたね? もしかして、何かあったのかな……?」


 一応話すつもりではいるけど、ルマンドさんが怖い。

 とその時、ぎゅるぎゅるぎゅるぎゅる~~~とでかい音が冒険者ギルド内に響いた。


「えっ?」

「なんだなんだ?」


 みなできょろきょろする。俺の後ろにいた羅羅が頭を前足で隠していた。どうやら今のは羅羅の腹の音だったらしい。


「あ……そういえばお昼ご飯まだだったね。ルマンドさん、先にごはんを食べてもいいですか?」

「ああうん、かまわないよ……」


 ルマンドさんは真面目な表情を保とうとしていたみたいだったけど、口元がひくひくしていた。別に笑ってもいいんですよ?

 そして俺たちは裏の倉庫の一角を借りて、まずはお昼を食べることにした。ちなみに、でっかいインコは揺れながらも俺の頭に乗っかったままだったので、腕に移動してもらった。頭の上でジタジタされていたら頭がハゲそうだったので。

 かわいいと言われたことで、シロちゃんとクロちゃんはインコが俺の腕に止まることを容認したみたいだ。羅羅が、


「インコよ、我はどうなのだ?」


 と聞いたら、インコはコキャッと首を傾げた。


「デッカイー、カッコイー!」


 どうやらタイガーは知らないらしい。カッコイイと言われたせいか、羅羅も「それならばいい」と呟いた。尻尾がぶんぶんと振られている。うちの従魔たち、何気に単純である。

 さて、倉庫の一角でクロちゃんに横に来てもらい、解体済みの肉を出した。このちょっとしたやりとりは面倒だが、俺がアイテムボックス持ちと知られるわけにはいかないのだ。


「ピーちゃんは何を食べるの?」

「ピーチャン、ニクー、タベナーイ」

「そっかー」


 こちらの世界のインコの生態はわからないけど、多分穀物なら食べるのではないかと思った。そういえば途中で大麦の穂をいくつか採ってきた気がする。


「これなら食べる?」

「オトカー、スキー!」


 カバンから出してあげたら(カバンの口をアイテムボックスにこっそり繋げてみた)すりすりされてしまった。でっかいけどかわいい。

 羅羅の上に乗ったままの犬と猫には一度降りてもらい、肉をあげた。

 んで、俺の昼飯はというとギルドから用意してもらえた。野菜スープとパン、そして厚切りのハムも付いている豪華セットである。(自分で頼んだら銅貨7枚はかかる)従魔たちは俺から離れる気はないので、俺も倉庫の一角でごはんを食べることとなった。

 そこにギルド長のドルギさんとルマンドさんがやってきた。


「お手柄だなぁ。で、何があったんだ?」


 ドルギさんに聞かれて、俺は迷子ペット捜索中に起きたことを話したのだった。



ーーーーー

10万字到達。まだまだ続きます~

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