37.嫉妬するニワトリスたちと冒険者ギルドに到着
「着いたぞ」
「……わ、わかった……ちょっと、待って……」
ぐらんぐらん揺らされても酔ったりしないのはいいんだが(状態異常無効化による恩恵?)、それでもつらいことはつらい。振り落とされない為に変な筋肉を使うのか、身体が痛かった。
猫と犬が心配そうに俺を見ている。
「大丈夫だから、ちょっと待ってね。できるだけ早く家に帰してあげるから」
そう言って笑むと、犬と猫はほっとしたような顔を見せた。意外と表情ってわかるもんだよな。
「うおっ!?」
何故か
「クロちゃん、痛いよー……」
つつかれないようにぎゅっと抱きしめる。ああもうもふもふのふわふわかわいい……。
抱きしめてしまえばつつきようがないのでつつかれない。そして柔らかい羽毛も堪能できる。まさに一石二鳥だ。
「……主よ、まだであるか?」
羅羅に呆れたように声をかけられてハッとした。こんなことをしているヒマはないのだった。しかも道行く人たちや、冒険者ギルドに用がありそうな人たちに遠巻きに見られている。
「おっほん……入るか」
仕切り直して、冒険者ギルドに足を踏み入れた。
受付にいた職員のおじさんが「また出た!」みたいな顔をした。失礼だなぁ。
「今ギルド長を呼んで参ります!」
「おかまいなく」
階段の近くにいた職員がそう言って階段を駆け上っていった。コケないといいけど。
その剣幕に、タカぐらいの大きさの黒い鳥を連れたガラの悪そうな青年たちが振り返った。鳥の足には輪のような物が付いていて、飛んで逃げていかないように捕まえているのだろう。
「うおっ!? そ、そりゃあ従魔か?」
そのうちの一人が反応した。
「はい、僕の従魔です」
「そりゃすげえな……」
焦ったような顔をしている。彼らはすでに受付で何やら話していたみたいだった。
ギルド内を見回したが、彼ら以外に動物というか魔物のようなものを連れている人はいない。黒い鳥を連れている青年以外の二人は落ち着かない様子だった。
普通なら、羅羅とニワトリスたちを見て怖がっているのかなと思う程度だが、鳥の様子がおかしい。嘴をしきりに開けるのだが、声を発しないのだ。
十中八九これは黒だろうと思った。でも勝手に鑑定魔法を使うわけにもいかないし……。
「それで、依頼は達成でいいんですよね?」
黒い鳥を連れている青年が受付の職員に話しかける。
「確かにそれっぽい鳥ではありますが……鑑定魔法をかけてもいいですか?」
「どうぞ」
青年は自信満々だった。
「主よ……」
「ちょっと待とう」
今職員がギルド長を呼びに行ったのだからそれを待った方がいい。俺はクロちゃんとシロちゃんにくっつかれながら羅羅を制した。ちなみに犬と猫は羅羅の上に乗ったままである。おとなしくていいことだ。
職員は黒い鳥に鑑定魔法をかけたようだった。
「……確かにブラックケアオウムですね」
そう言いながらも職員は不思議そうな顔をしている。俺も眉を寄せた。
俺は森でブラックケアオウムを見かけたことがあるが、もっと大きかった気がするし、こんなにおとなしくできる鳥ではなかったはずだ。ブラックケアオウムは飛ぶ魔物の中でもニワトリスと張るぐらい獰猛なのである。
それに、なんか嘴ももっと鋭かった気がするんだけど?
首を傾げそうになった時、副ギルド長のルマンドさんが降りてきた。
「もう戻ってきたのかい?」
「はい。一応引き渡せば依頼完了だと思ったんですが、ちょっと気になることがありまして」
「じゃあ依頼達成ですね。報酬をください」
黒い鳥を連れている青年が、職員にそう言って手を出した。
「気になること? 何かあったのかい?」
ルマンドさんに問われて、俺はにっこりして頷いた。
「ええ……。ブラックケアオウムって初めて見ました。触ってもいいですか?」
そして青年が連れている黒い鳥に、俺はそう声をかけて触れた。
「おいっ、貴重なブラック……」
青年たちが文句を言おうとした途端、鳥の姿が一瞬で変わる。
頭の方は黄色く、羽と胸の辺りが鮮やかな緑になる。目は先ほどとは違いくりくりのかわいい目になり、頬の辺りには紺色のヒゲのようなものがある。タカぐらいの大きさは変わらなかったが、それは誰がどう見てもでっかいインコだった。
「ピーチャン! ピーチャン、インコ! オウム、チガウ! ピーチャン!」
インコには沈黙の魔法もかかっていたらしい。いきなり堰を切ったように話し始めた。羅羅がそれに嫌そうな顔をする。うるさいけどここで怒鳴らないだけの分別はあるのだろう。
クロちゃんとシロちゃんは気にしないみたいで俺にぎうぎうくっついている。
……うん、インコだ。
この世界のインコって、こんなにでかいのかな?
インコは青年の腕の上からバサバサとはばたいて飛ぼうとしたが、足環が付いているから無理だった。
「くそっ、このっ!」
青年の一人が俺につかみかかろうとしたところでクロちゃんが素早く何度もつついて無力化した。ニワトリス最強だなー。
「ちくしょう!」
インコを連れていた青年が足環に繋がっていた鎖を捨て、もう一人と共に逃げ出そうとする。
「彼らを捕まえてください!」
職員が叫ぶが早いが受付横のテーブルにいた冒険者たちが動き、その前に羅羅が扉を塞いだ。
「くそっ!」
すかさず冒険者たちが二人を捕まえて床に引き倒した。
「……インコをブラックケアオウムに仕立てようとしたなんて……これは重罪ですよ?」
ルマンドさんがため息交じりに言う。そして麻痺している青年も職員に縛らせて、「解除してもらってもいいかな?」と俺に声をかけた。
「すみません」
謝って青年の麻痺を解除した。
「やり方はあまりよくありませんでしたが、お手柄ですね」
ルマンドさんが笑む。
「ピーチャン、ピーチャン! ダレー?」
でっかいインコはのんきにギルド内を飛び回り、ルマンドさんの頭の上に乗ると俺を見てコキャッと首を傾げたのだった。
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