36.魔物を見ると獲物認定するニワトリスたちと宥める俺(ペット捜索中)
「うっ……」
階段を降りた先の、地下の空気は淀んでいた。しかも真っ暗である。人がいないから灯りも点けていないみたいだ。
急いで空気に対して浄化魔法をかける。この空気に浄化魔法をかけるという方法は、空気があるという前提で空間全体にかけないと効かなかったりする。日本の教育制度万歳である。
「主よ、助かった……」
ましにはなったが、臭いが消えたわけではない。
「?」
生き物が動く気配や音はするが、鳴き声がしないのが不気味だった。暗い中、すぐに目が慣れてきたので周りを見回したら、檻のようなものがいくつもあった。
空気自体に浄化魔法はかけたけど、根本的な解決にはなっていない。何故なら、臭いの元はここにいる動物たち(魔物も含む)だからだ。檻の中に壺のようなものが置かれている。一応そこで用は足しているみたいだが、それにしてもひどい臭いだ。(ペットであればトイレの躾はされているし、魔物は知能が高いから自分が汚れるのを嫌うらしい)
「ひどいことするな……」
「主よ、探しているのはこれとこれだ」
「えっ?」
ある檻の前で、羅羅が立ち止まった。確かに形状は大きめの犬と猫なのだけど(もちろん檻は別々だ)、探している犬と猫とは見た目が違うかんじがした。暗いからはっきりとは模様などが見えていない。
「ちょっと火を点けるよ」
よく火が点く火打石をカンカンと合わせ、クロチャンに頼んで火花によく燃える藁を近づけてもらう。何回か打ち付けていると、やっと火が点いた。アイテムボックスからユーの実から取った油を少しだけ入れた器を出し、燃えている藁をそこに落としてもらった。これで少しの間は明るいだろう。
「あれ? やっぱ模様が違うし……羅羅、この子、子虎みたいだけど?」
「だが匂いも感知もこれだといっている」
ということは……。
「もしかして変装魔法か?」
「その可能性はあるな。この犬も同様であろう」
かわいそうに、檻の中の生き物は縮こまっている。これはきっと羅羅が怖いんだろうな。でも鳴き声は一切聞こえない。そんなに衰弱とかしているんだろうか。
「触れば解除できるんだよな」
「貴様ら、我の側に来るがよい」
羅羅が命令すると、縮こまっていた子虎とおとなしそうな形状のオオカミが震えながらこちらへやってきた。羅羅の言葉には強制力もあるみたいだ。俺には効かないけど。
「鑑定させてもらうね」
魔力に反応する動物や魔物がいても面倒だと思い、断ってから鑑定魔法を使った。
猫(ミー) 状態:変装/沈黙
と出た。やはり変装魔法が使われていたみたいだ。しかも沈黙魔法まで使われている。この魔法は口が聞けなくなるだけではなく、魔法も使えなくなるのだ。さっき無力化した者の中に、こういう魔法を使える者がいたんだろうか。
ここの子たちを解放したら話を聞かないといけないな。
「触るよ。そうしたら声も出せるようになるからね」
優しく声をかけて、檻の中へ手を延ばし猫に触れた。途端に薄灰色の大きな猫に変わった。
んにゃああああ~~~~!
「おおう……」
今まで声を出せなかった反動か、猫はすごい声で鳴き始めた。
「……やかましい。少しは静かにせよ」
でも羅羅が言うと猫は黙った。
同じようにオオカミに見える犬に鑑定魔法をかけてから触れた。
茶色と白の毛並みの犬に変わった。よかったよかった。
「他にどこかで飼われていた子はいるのかな?」
どうせだからみんなまとめて連れていけばいいと思った。
「飼われていた子と、魔物を教えてもらっていい?」
クロちゃんとシロちゃんがトテトテと歩いて、「カイー」「カルー」と檻ごとに教えてくれたけど、なんか物騒だよな。「カルー」ってことは出したらお肉にしちゃうってこと? それはさすがに困る。
「狩らないからね? 狩るのは町とか村の外で暮らしてるのにして?」
苦笑しながら言えば、シロちゃんがトテトテと近づいてきて俺をつついた。
「シロちゃん、痛いからつつかないでよ、もー」
つつかれないようにぎゅっと抱きしめたらつつかれなくなった。はー、かわいい。
「主よ、して、どうするのか?」
「そうだね。飼われてた子たちは解放して、魔物たちは一旦保留かな。でもなんか、全部変装魔法がかかってたのはなんでかな?」
「そこな魔物の話だと、変装魔法を使ってより貴重な魔物に見せかけて売るようなことを人間が言っていたらしいぞ。だいたいここにいるのはおとなしい魔物ばかりだ。捕まえるのはたやすいが、あまりうまくはないのぅ」
「そうなんだ?」
そういえば魔物同士は会話が通じるみたいだよね。羅羅が力のある魔物だからみなと意思の疎通が可能なのかもしれないけど。
「オイシイー」
「タベルー」
シロちゃんとクロちゃんが不服そうに言う。
「シロ殿、クロ殿、ここにいる魔物はおいしくないですぞ」
「ワカッター」
「オトカー」
クロちゃんや、それじゃ俺が餌になるじゃないか。
ハリネズミみたいな魔物はほっとしたみたいだった。
「羅羅、もう少し詳しい話を聞くことってできる?」
みんなの状態異常を解除しながら羅羅に聞いたら、ここにいる人間たちは二、三日中に売れそうな生き物だけを持って他の町へ移動するつもりなのだという。売れなそうな生き物はこのままここに置いていくようなことを言っていたとその魔物は泣いた。
「えええっ?」
そして今日、冒険者ギルドとかいうところに一羽の鳥(魔物)を持っていったという。
「それって、変装と沈黙魔法をかけた鳥だよね? ……羅羅、急いでギルドへ戻ろう!」
何をするつもりか知らないが、その鳥にとって不幸なことが起きないという保証はない。
とりあえず犬と猫を檻から出して羅羅の上に乗せ、俺も飛び乗った。先頭はシロちゃんで殿はクロちゃん、地下室からバババッと飛び上がり、シロちゃんがクケエエエーーーーッッ! と叫ぶ。その後を羅羅が追う。どうやらこの建物に入ってきた者がいたようで、更に四人固まっていた。それをクロちゃんが何度もつついて無力化してくれた。
「シロちゃん、クロちゃんありがとう! 冒険者ギルドへ行くよ!」
舌を噛みそうになりながら羅羅に掴まり、俺たちは一路冒険者ギルドまでの道を走ったのだった。(俺は揺らされまくって死ぬかと思った)
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つつかれて麻痺しても、呼吸はできるから大丈夫!(ぉぃ
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