34.みなの反応に慣れたニワトリスたちと依頼者に会いにいく
「俺、身体強化の魔法を使えるんで、もっと速く進んでも大丈夫ですよっ!」
歩いているうちに俺たちに慣れてきたのか、ツコソさんがそんなことを言い出した。
「へえ、身体強化の魔法が使えるなんてすごいですね。……それを使って何かしたりしました?」
「ああ……ちょっと力の加減ができなくて薬草を握りつぶしちゃったりはしたかなぁ。それがどうかしましたかー?」
「……その魔法は僕たちと一緒にいる間は使わないでくださいね?」
「あ、ハイ……」
にっこりと笑いかけて、魔法を使おうとするのを阻止した。身体強化魔法なんて恐ろしい物を持ってるのか。そりゃあ依頼を失敗してもおかしくはない。普段から使い慣れてるならともかく、ツコソさんはなんかへんな時に使っていろいろ台無しにしてしまいそうだ。
困ったものである。
「そういえば……ツコソさん、その魔法っていつ頃覚えたんですか?」
「覚えたばっかりなんですよ! ここ三カ月ぐらいで。嬉しくて覚えたその日に使いまくったら魔力枯渇で倒れてしまって」
そう言いながらツコソさんは頭を掻いた。
「教会で調べてもらったら、俺あんまり魔力量が多くないって言われたんですよねー。しかも次の日にはひっどい筋肉痛になりましたし。それからはここぞという時だけ使ってます!」
……もう何をどこから突っ込んだらいいのかわからない。魔法は使わなければ使い方を覚えないし、しかも身体強化魔法なんて下手したら自分自身を殺しかねない諸刃の剣だ。
「あのー……その魔法を使ったから依頼失敗したんじゃないですかねー……」
言いすぎかと思ったが、言わずにはいられなかった。
「もっと鍛錬が必要ってことですよね!」
話聞いてない。この人大丈夫かな……。
まぁ、俺と従魔たちに不利益がなければいいか。
「僕たちと一緒の時、絶対にその魔法は使わないでくださいね? 万が一何かあったら、ツコソさんうちの従魔たちに……」
「は、ははははいっ!?」
怖いので念押ししてみた。まぁ使いそうになったらシロちゃんかクロちゃんにつつきまくってもらえばいいかな。麻痺したら身体強化魔法があってもたぶん自力では解除できないし。(俺もかなり雑になってきたかも)
話しているうちに町の西側に着いたようだ。家の住所をツコソさんが確認して、
「ここですね!」
と案内してくれた。まずは一件目である。もう一件もこの辺りの家からの依頼らしいから、両方話を聞き、まとめて解決してしまおうという寸法だ。
この辺りは比較的裕福な住宅地みたいだった。家は平屋だけどそれなりに広さがある。さすがは町だなと思った。
さて、俺は
「オトカー」
クロちゃんが嬉しそうに声を上げた。こうしてるともふもふのふわふわで、見た目は本当にかわいいのだ。手を出されたら困るけど、怖くないよアピールはしておかないといけない。クロちゃんや、嬉しいのはわかるけど尾が動いてだっこしづらいよ。
ツコソさんがノッカーでカンカンとノックした。
いや、一応そこは俺に準備ができたかどうか確認しようよ……。
「こんにちはー、冒険者ギルドから来ましたー!」
そして声が大きい。周りの家にみんな聞かれてしまうのではと危惧してしまう。少ししてバタバタと音がし、扉が開いた。
「はーい! 冒険者ギルドって……」
出てきたのはおばさんだった。
ツコソさんがおばさんに依頼の紙を見せる。
「飼い猫の……」
ツコソさんが玄関で話を始めようとするので、だっこしているクロちゃんにつついてもらった。
「すみません、依頼を受けてきたのですが、依頼者はいらっしゃいますか? これは僕の従魔です」
二、三歩離れたところからおばさんに話しかけると、おばさんは僕とクロちゃんを見て目を向いた。
「ま、魔物!?」
「従魔なんです! 大丈夫です! きっとお役に立てますから!」
そう言って、どうにか家に入れてもらうことになった。一応おばさんに羅羅とシロちゃんを見せる。おばさんは手を額に当て、「神よ……」と呟いていた。
そういえばこの世界の神様って誰だっけ? 村には教会とかなかったしなー。でも履修しといた方がいいよな、絶対。
「両方とも僕の従魔です。家の中がダメなら玄関先に置いていただけると……」
「……家の前にいられたりしたら事だわ。入りなさい。その従魔たちには水でいいかしら?」
「ありがとうございます!」
家の外に置いておくデメリットを考えたら、おばさんは僕を信用することにしたようだった。
「コロネ、貴方にお客さんよ! 出ていらっしゃい!」
通された居間から奥の部屋におばさんが声をかける。ツコソさんの麻痺を解除して、逃げようとする彼に「もう一件ありますよね?」とにっこりしてみた。この町の人たちがうちの従魔たちに慣れるまではワンクッション必要なのである。彼はがっくりと首を垂れた。
「……交渉は自分でしてくださいよ」
「はい、もちろんです!」
「……お客さん?」
扉が開いて居間に入ってきたのは、僕よりも小さい女の子だった。女の子はクロちゃんをだっこしている僕を見て、目を見開いた。
「……かわいい」
「こんにちは。これは僕の従魔なんだ。冒険者ギルドに依頼をしたのは君かな?」
「……あっ、はい! 受けてくれるの!?」
僕は頷き、彼女の話を聞くことにした。
飼い猫の特徴を聞き、どこに行きそうとか、そういったことを聞く。飼い猫が寝床にしていたという籠を持ってきてもらい、それを羅羅に嗅いでもらったりした。
女の子は羅羅を見て目をきらきらさせた。女の子にとってはでっかい猫に見えるんだろうな。
おばさんはおそるおそる従魔たちに水を出してくれた。ありがたいことである。
「いなくなってから十日も経ってるから、無理だとは思うんだけどね……聞かなくて。明日までは探してもらってもいいかしら? そうしたら見つかっても見つからなくても依頼料は払いますから」
「ええっ? いいんですか!?」
反応したのは俺ではなくツコソさんだった。依頼を受けたのは俺なんですけど?
「いえ、依頼を受けたのは僕なので、見つからなければお金は受け取りません」
「まぁ……」
女の子だけでなくおばさんにまできらきらした目で見られてしまった。
「特徴など教えていただきありがとうございました。ツコソさん、行きましょう」
「あ、はい……」
次の依頼主は一本裏手の通りに住んでいた。そちらの依頼主は俺と同じ年ぐらいで飼い犬がいなくなってしまったのだという。
「こんな子どもが……?」
とか生意気なことを言おうとしたが、俺の従魔を見て黙った。
そちらの親御さんも恐縮して、もし依頼が失敗してもお金を払うようなことを言われたけど断った。子どものお小遣い程度の金額かもしれないがれっきとした依頼であり、契約をするのだ。依頼を失敗したのにお金をもらうわけにはいかない。
「ツコソさん、ありがとうございました。後でギルドにはしっかりやってくださったと報告しておきますね」
「ああうん、ありがとう! でも……失敗しても依頼料もらえるのに、なんで断ったんだい?」
ツコソさんはどこまでも残念な人みたいだ。
「もし失敗してもお金をもらえると思ったら、いいかげんに依頼を受ける人が出てくるでしょう? そうしたら冒険者の信用に関わるじゃないですか」
「そうかなぁ……」
今だけを生きてるわけじゃないんだから、先のことも考えないといけないのである。でもツコソさんには理解できないみたいだ。
「それから、戻られる時は身体強化魔法は使わないでくださいね。町中で使うのは危険ですから」
「? ああうん、わかったよ。ありがとう!」
ツコソさんはそう言って元来た道を戻っていった。本当にあの人大丈夫かな?
「……あんな冒険者もいるのだな……」
羅羅が呟く。呆れているようだった。
「まぁきっと、いろんな人がいるんだよ。羅羅、シロちゃん、クロちゃん、猫と犬、探せそう?」
「まかせよ」
「サガスー」
「オトカー」
クロちゃんや、それじゃ俺が探されてしまうよ。
俺は苦笑しながら、いなくなったという犬と猫を探すことにしたのだった。
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