31.解体の目途がたって喜ぶニワトリスと胸を撫でおろす俺

「獲物……?」


 ひげもじゃのおっさんは不思議そうな顔をした。俺たちの中で荷物を持っているのは俺だけだし、その俺も自分の荷物が入る程度のカバンしか持っていない。獲物はどこにあるんだ? と思ったんだろうな。


「ドルギ、少年の連れているニワトリスたちはアイテムボックス持ちなんだそうだ。少年、数はどれぐらいあるんだ?」


 バラヌンフさんが補足してくれた。アイテムボックスと聞いておっさんと副ギルド長だというルマンドさんが目を見開く。関係ないけどルマンドっておいしそうな名前だよな。甘そう。


「ええと、多分けっこう狩ってきたんじゃないかと……」


 ニシ村で解体してもらった時も相当な量があった。青虎とニワトリスがタッグを組むととんでもない量の魔物を狩ってくるみたいだ。つーか、自分たちが食べきれる分だけ狩ってきてほしいものである。


「けっこうと言うと?」

「何頭もって意味です」

「なら倉庫に直接行った方がいいな。ドルギも付き合ってくれ」

「お、おう……なんか情報が多すぎてついていけねえが、俺も行くわ。ルマンドも付き合え」


 おっさんが引いている。気持ちはわかる。


「……はい」


 ということでまた俺は先ほどのように羅羅ルオルオの背に乗せられて、ギルドの裏手にある倉庫へ移動した。

 その間にひげもじゃのおっさんがここのギルド長だと教えてもらった。それにしてもギルド長の名前がドルギってのはどうなんだ? それともギルド長を勤めている人の名前はみんなドルギさんなんだろうか。まさかな。

 倉庫には恰幅のよいおじさんが二人いた。二人ともエプロンを付けている。そのエプロンは返り血で汚れていた。今まで解体していたのか、それとも汚れが落ちないだけなんだろうか。なんか浄化魔法をかけたくなってしまった。(別に潔癖というわけではないが不衛生なのは嫌だ)


「おうい、このボウズが獲物の解体を頼みたいんだとよ。やってやってくれ」


 ドルギさんが二人に声をかけた。

 二人は俺たちの姿を見るといぶかしげな顔をしたが、羅羅とニワトリスたちの首輪を確認したのか、頷いた。


「で、獲物はどこだ?」

「すみません、今出します。ええと、僕ろくにお金とか持ってないんですけど、解体した物を一部買い取りしていただいて払うってことは可能ですか?」


 今更だけど金額は聞いておかなければいけない。


「お、ボウズはしっかりしてんな。それは全然かまわねえが……」


 おじさん二人は俺たちを不思議そうに見た。俺は羅羅の背から降り、自然とくっついてくるクロちゃんの他にシロちゃんを手招きした。


「獲物ってどこで出したらいいですかね」

「……そこでいいが?」


 おじさんたちからすると何を言っているのかわからないみたいだ。やっぱアイテムボックスって誰でも持ってるわけじゃないんだな。マジックバック的なものもないんだろうか。それともこんな子供がマジックバックを持っていると思わないだけか。

 考えるのは後だ。

 少しスペースを開けてもらい、シロちゃんに頼む。


「シロちゃん、昨日狩ったのを出して」

「ハーイ」


 はーい、って返事かわいいなーと思った途端、目の前にどどーんと魔物が積み上がった。

 待って?

 これ、あの短時間でどんだけ狩ってきたの?

 うちのニワトリスと青虎がタッグを組むと何が起きるワケ?

 っていうような量がばばーんと。

 ニシ村でもどうなのこれは? って思ったけど、こうして見るととんでもないなー。

 さすがにみんなあんぐりと口を開けてなかなか戻ってきてはくれなかった。


「羅羅、シロちゃん、どんだけ狩ってきたんだよー……」

「ここにあるだけだが?」

「イパーイ?」


 羅羅も当たり前のように言わないでほしい。シロちゃんもかわいくコキャッと首を傾げるんじゃありません。さすがにこれは狩りすぎだろう。

 つーか、どこまで走ってったらこんなに狩れるんだよ?


「こ、これをブルータイガーとニワトリスが……すごいな……」


 最初に戻ってきたのはバラヌンフさんだった。

 獲物の山がでかい倉庫の半分ぐらいまでの高さに積み上がるとか普通じゃない。これいったい何頭狩って来たんだろう。

 ちなみに、今回は前回の反省を生かして脱毛はしてこなかったみたいだ。ものによっては毛皮の方が貴重とかあるって伝えたからなんだろうな。


「ええとすみません……僕が使えそうな毛皮があれば一枚取っておいてほしいのと、できれば肉は全部こちらに……毛皮と他の物は買い取りでお願いしたいんですが……。あ、でも武器とか防具に使える素材があれば一人分取っておいてほしいです」


 そう伝えると、やっと大人たちは起動したみたいだった。すみません、本当にうちの従魔たちがすみません。


「オトカー、キルー?」


 シロちゃんがバサバサと羽を動かしてまた首をコキャッと傾げた。かわいいけどね。すんごくかわいいけどね。

 言ってることがかわいくないよー。

 クロちゃんは俺にぴとっとくっついたままだ。精神を落ち着かせる為にクロちゃんを抱きしめてもふもふする。


「解体してもらうよ。だからちょっと待とうなー」

「オトカー」


 クロちゃんが嬉しそうに俺の名を呼ぶ。ああもうなんてかわいいのうちの子は!(現実逃避中)


「……ブルータイガーとニワトリス、おっそろしいな」

「ですね。彼らが従魔でよかったです……」


 ドルギさんとルマンドさんが呟く。


「……これを、全部解体するのか?」


 エプロン姿のおじさんに聞かれた。


「はい、できましたら……」


 比較的小さい個体だったら羅羅に脱毛だけしてもらって俺がどうにか解体するけど、本職じゃないからそんなにうまくはできないんだよな。できれば解体しているところを少しだけでも見学させてもらえたらいいんだけどそれは無理かな? もちろん今日じゃなくていい。


「これを一度に出したってことはアイテムボックスか? 初めて見たぞ」

「さっそくやっちまうか。ボウズ、肉は全部必要か?」

「はい。全部いただきたいです」


 エプロン姿のおじさんたちが腕や肩を回しながら聞く。それに頷いた。


「肉に毒を含む魔物もあるんだが。このポイズンオオカミとか、ポイズンディアーとかな」


 ポイズンオオカミだけじゃなくてポイズンディアーもいたのか。どんな味がするんだろう。


「コイツらは毛皮とか角は重宝されるんだが、肉は毒を含んでてとても食えたもんじゃねえ。捨てた方がいいぞ」

「教えてくれてありがとうございます。うちの従魔たちは食べますから……って、羅羅?」


 ポイズンオオカミと聞いてか、羅羅の口元からよだれが垂れた。昨日食べさせたけどおいしかったみたいだしなー。


「主、その肉を決して捨てるでないぞ」

「大丈夫だよ……」

「肉は全部回収させてください。お願いします」


 それに、焼けば毒も無害化するしな。俺に毒は効かないけど。

 さすがに量が多いので一日仕事になるみたいだ。ニシ村と違って二人しかいないんだもんな。それでも一日で解体できてしまうというのはすごいと思う。


「夕方に一度取りに来ますので、その時までに解体できたものは受け取ってもいいですか?」

「おう、いいぞ」

「腕が鳴るぜ」


 ドルギさんにアイテムボックスを持っているのはニワトリスだと解体のおじさんたちに伝えてもらい、解体についてはやっと目途がついたのだった。


「キルー?」


 シロちゃんがコキャッと首を傾げた。


「うん、ここのおじさんたちが明日までに全部解体してくれるってさ。僕でもできる依頼がないかどうかちょっと見てみよっか」

「カルー」


 シロちゃんは昨日狩った魔物が無事解体されることを確認したせいか、更にやる気を出したらしい。こら、ここで尾をぶんぶん振るんじゃありません。危ないでしょ。


「……まだまだいっぱいお肉あるじゃんかー。しばらく狩らなくていいよ。依頼とかがあれば別だけど」


 そう言うとシロちゃんはショックを受けたような顔をした。

 全く、うちのニワトリスはどんだけ好戦的で食いしん坊なんだよ?


「はははっ、少年はもう大丈夫そうだな。じゃあ俺は行くわ。日が落ちたら詰所に来てくれ。今夜はチャムのところに泊まるんだろ?」

「はい、なにからなにまでありがとうございました!」


 バラヌンフさんには本当に親切にしてもらった。俺は彼に深く頭を下げた。クロちゃんも俺を見習ってか、頭を下げる。


「ははっ、ニワトリスに頭を下げられるなんて日が来るとは思わなかったよ。じゃあ少年、またな」

「はい、またのちほど」


 たぶん詰所に行けばまたバラヌンフさんに会えるだろうし。彼を見送ってからドルギさんとルマンドさんに向き直った。


「すみません、依頼の受け方とかも何も知らないので教えてもらっていいですか?」


 そう尋ねると、二人は苦笑したのだった。

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