30.従魔になったニワトリスたちと冒険者ギルドへ向かう
バラヌンフさんは、俺に
どうしてかというと、その方が俺の従魔だというアピールがしやすいからだそうだ。
「従魔だとわかったって怖いものなんだ。だが少年が乗っていれば道行く奴らも安心するだろう? そういうことだ」
確かにいらん混乱を避けるのは大事だ。俺も「わかりました」とそれに頷いた。
「羅羅、悪いけどまた乗せてね」
「主もニワトリスも重くなどない。乗るがいい」
羅羅は素直に伏せてくれた。
「クロちゃんは俺の前で、シロちゃんは後ろね」
「オトカー」
「ワカッター」
クロちゃんの語尾って絶対ハートとか音符が付いてるよなって思う。嬉しそうでとてもかわいい。
後ろからだけどつんつんつつかれた。
「なーに? シロちゃん。つついちゃだめだよー」
「オトカー」
「うん、どうしたの?」
シロちゃんは俺の名を呼んでから、俺にぴとっとくっついた。かわいい……これはこれでたまらん。
「もー、シロちゃんもクロちゃんもかわいいなー」
ついにまにましてしまう。横を歩いているバラヌンフさんが苦笑した。ハッとする。ここは往来だった。ちょっと恥ずかしい。
「少年は本当にニワトリスが好きなんだな」
「ええ、とってもかわいいですし……ヒナの時から一緒にいますからね」
「ヒナを助けたのだったか」
「はい」
ニワトリスと羅羅が俺に付き従っている理由は、詳しくバラヌンフさんに伝えてある。それを聞いたバラヌンフさんは深くため息をついた。そう簡単に従魔にできないということがわかったんだろう。
そういえばこの世界ってテイマー的な魔法ってないんだろうか。聞くのを忘れていたから、今夜チャムさんにでも聞いてみよう。
バラヌンフさんの家から体感として1kmぐらいだろうか。町の真ん中から西の方へ向かった通り沿いに冒険者ギルドはあった。
わかりやすく建物の看板に剣と盾が斜めに描かれている。これって武器屋と勘違いされないのかなとも思ってしまった。
「ここが冒険者ギルドだ。荒っぽい者が多いが、少年が絡まれることはないだろう」
「? そうなんですか?」
「そのまま入るぞ」
冒険者ギルドの入り口はけっこう広かった。きっと大形の魔物とか運び込むことがあるからなんだろうな?
羅羅がバラヌンフさんに付いて建物の中に足を踏み入れた。(もちろん俺とニワトリスたちは乗ったままである)
建物の中は思ったより広かった。入って正面に机が置かれ、その後ろに二人いる。そこがどうやら受付らしい。受付の左側には高さのあるテーブルと椅子がいくつか並べられ、その奥にはカウンターがあって、カウンターの後ろの棚に飲み物の入った瓶が並べられていた。あれはたぶん酒瓶なのだろう。酒が飲めるようになっているみたいだ。
受付の右側の壁にはボードのようなものがあり、そこに紙がいくつも貼られていた。
そのボードを三人ぐらい柄の悪そうな男たちが眺めていたが、俺たちを見てギョッとしたような顔をした。受付にいた男性たちもガタタッと音を立てて立ち上がる。みなとても驚いたような顔をしていた。
「バ、バラヌンフ隊長……そ、それは……」
受付の人がおそるおそる声をかけてきた。
「ドルギはいるか? 後ろの少年たちのことで話がある」
「は、はい! 呼んでまいります!」
「上にいるならこっちから行く。ブルータイガーは階段は上れるよな?」
「造作もない」
「しゃべった……」
「……タイガーだ……」
「本物か……?」
建物内にいた人たちがざわめく。ん? と思った。
「ギルド長は二階にいます……」
「わかった」
バラヌンフさんは受付の左側から受付の中に入り、その後ろの階段を上り始めた。羅羅がそれに付いていく。ニワトリスたちが危なげなく羅羅の上に乗っているのがへんなかんじだ。俺は慌ててクロちゃんをぎゅっと抱きしめた。
「オトカー」
嬉しそうにクロちゃんが俺の名を呼ぶ。うちのニワトリス、やっぱかわいすぎる。
階段を上ると正面に扉があったが、バラヌンフさんは左側の扉をがんがんと叩いた。
「おい、ドルギ! 俺だ、バラヌンフだ。開けるぞ」
そう言って相手の返事を待たずに扉を開ける。そんな扱いでいいのだろうか。
「朝からうっせーな! なんだなん……だ……」
部屋にいたのはひげもじゃのおっさんだった。頭はハゲている。もう生えてこないかんじだ。なんで頭の毛と別の場所の毛って生え方が違うんだろうな? とかどうでもいいことを考えてしまった。
おっさんは高そうなソファに寝転がっていたようだが、バラヌンフさんが扉を開けたことで身体を起こした。そして目を見開いた。
「……おいバラヌンフ、そりゃあ、なんだ?」
「昨日町に来た少年でな。ブルータイガーとニワトリス二羽を従魔にする為に冒険者になりたいというんだ。それで詰所の方で昨夜登録したからその報告も兼ねてきた」
「……ブルータイガーとニワトリスを従魔だと? 何かの間違いじゃないのか?」
「よく見ろ」
ひげもじゃのおっさんは信じられない物を見るような目で、バラヌンフさんたちと俺たちを眺めた。
「そ、その首輪は……」
「少年が話したら素直に付けさせてくれたぞ。だから従魔登録もしてある。少年、ギルドカードを出してくれるか?」
「あ、はい」
俺はカバンから昨日作ってもらったギルドカードを出した。本当はなくさないように紐でも付けた方がいいのかもしれないな。
「おう、見せてくれ……」
ひげもじゃのおっさんがバラヌンフさんを通して俺のギルドカードを受け取る。
「……確かに。ん? 出身がこの町になってんのはどういうことだ?」
「何かあった時責任の所在が必要だろう。俺が後見人になるから出身はこの町でいいかと思ってな」
え? バラヌンフさんが俺の後見人になってくれるのか? 俺何も彼のためになるようなことしてないんだけど?
「……ああ、お前が後見人なら問題ないだろ。10歳か。親はいねえのか?」
「いますけど……うちすんごく貧しい上に、僕は五人兄妹の真ん中なんです。ニワトリスもいるので冒険者になろうと思って家を出てきたんです」
「そりゃあまぁ……親孝行だなぁ」
父さんはともかく、母さんには親孝行できたならいいかな。俺はへへへと笑った。
「じゃあそのブルータイガーとニワトリスは安全なんだな?」
「……僕に危害を加えられるようなことにならなければ大丈夫だと思います。一応約束もしましたし。あ、でも危害を加えるつもりはなくてもニワトリスはつつくことがあるので、あまり近寄らないようにはしてほしいです」
「ああ……ニワトリスにつつかれると麻痺しちまうからなぁ。全く厄介な嘴だぜ」
安全だということがわかったところで、俺はやっと羅羅から降りてバラヌンフさんと共にひげもじゃおっさんの向かいのソファに腰かけた。ソファはとても大きくて、三人掛けぐらいある。その間にテーブルが置かれていた。
「おおい、湯を出せ!」
ひげもじゃのおっさんが大きな声を出すと、しばらくもしないうちに青年が運んできた。青年は部屋の中に羅羅とニワトリスたちがいるのを見て一度扉を閉めた。そしてまた開ける。
まぁ普通は見ない光景かもしれない。
「……失礼しました」
羅羅とニワトリスたちを避けるようにして、青年は僕たちの前にコップの載ったお盆を置いた。
僕の前に白湯の入った木のコップが置かれる。
「ありがとうございます」
青年に礼を言うと青年は一瞬目を見開いた。
僕が座っているソファの後ろに羅羅が横たわっており、その上にクロちゃんとシロちゃんは乗ったままだ。その方が部屋がいっぱいにならなくていいとは思うけど、随分なくつろぎっぷりである。
「コイツは副ギルド長のルマンドだ。冒険者登録をしたってことはこの町でも少しは活動するつもりなんだろ?」
「はい、どんな仕事があるのかわかりませんができればお金を得たいと思っています」
ひげもじゃのおっさんは満足そうに頷いた。
「そうだろうな。従魔の飯代も稼がにゃならんだろ」
そう言われて思い出した。途端にシロちゃんが、「キルー!」と声をあげた。おっさんと青年がビクッとする。すみません、うちの子が本当にすみません。
「……ええとすみません。うちの魔物たちが獲物を獲ってきたんですけど、こちらで解体ってできますか?」
そう、ここに来た目的はそれだったのだ。
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引き続き修羅場ってますががんばりまーす! シロちゃんは食いしん坊さん
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