29.狩った魔物が気になるニワトリスたちと朝飯をいただく俺

 子供たちは肉に夢中だったせいか、昨夜はうちの魔物たちにそれほど興味は示さなかった。

 でも朝、居間に顔を出したら子供たちの目がキラキラしていた。手がわきわきしているのがわかって、どうしようかと思う。

 もふもふは魅力だよなぁ。


「おはようございます。うちのに餌をあげたいので庭をお借りしますね」


 敢えて”魔物”という言葉を強調した。うちの子たちはペットではないのだ。


「ああ、わかった。終わったら声をかけてくれ」


 バラヌンフさんは頷いた。しかし子供たちは我慢ができなかったらしい。


「あのっ、餌って俺もあげてもいいかな?」

「私もあげたいっ!」


 ……これは困ったぞ。バラヌンフさんを窺う。


「やめなさい。少年が困っているだろう。ブルータイガーもニワトリスもペットじゃない。魔物なんだぞ? 勝手なことをすればお前たちの方が餌になってしまうんだ」


 さすが町の防衛隊隊長、よくわかっていらっしゃる。


羅羅ルオルオ、シロちゃんクロちゃん行こう」

「返事っ、聞いてないっ!」


 男の子の方は納得がいかなかったらしい。俺に再度声をかけてきた。


「……お父さんの言う通り、魔物だから僕以外には懐かない。餌なんてあげようとしたら君たちも餌になってしまうかもしれないからごめんね」


 男の子は不満そうだったが、「……わかった」と言って引き下がった。女の子の方もお兄ちゃんが諦めたせいか言わなくなった。よかったとほっとした。

 うちの兄妹もこれぐらい聞き分けがよかったら……と考えても詮無いことだ。現に俺は遠く離れた町にいるし。

 庭ですでに解体済みの魔物の肉を朝飯として出した。卵は朝ニワトリスたちが客間で産んでくれたのを回収してある。その際にベッドを汚してしまったから浄化魔法もかけてきた。浄化魔法って本当に便利だよな。

 さて、羅羅とニワトリスたちが肉をこれでもかと食べてから庭を片付けて、居間に戻った。


「庭を貸していただきありがとうございました」

「いいのよ~。それにしてもオトカ君って礼儀正しいわねぇ。どこかいいところのお坊ちゃんなのかしら? うちの子たちも見習わせたいわ」

「いえ、僕は貧しい村の出身です。読み書きもできません」


 奥さんに言われてとんでもないと手を振った。


「まぁそうなの? ここでも読み書きができない子は多いけどねぇ」

「そうなんですか?」


 町だから学校みたいなところがあるのかなと思っていたけど、そうでもないみたいだ。

 バラヌンフさんに聞いたら、8歳で教会に能力を見てもらった後特定の職業に就きたい者は寺子屋のようなところに行ったりするらしい。もしくは直接その職業の店に修行に行ったりするので識字率は高くないようだ。

 でもさすがは町だなと思う。うちの村には寺子屋みたいなところってなかったし。ただ寺子屋だと、読み書きはできるかもしれないけど本当になりたい職業特化になるからやっぱりいろんなことが学べるわけではないんだよな。俺が考えている寺子屋ならばってことだけどさ。

 俺が朝飯をいただいている間、俺の椅子の後ろにはクロちゃんがぴっとりとくっついていた。その後ろに羅羅が横たわっており、羅羅の上にシロちゃんが乗って待っていてくれる。

 朝食には、固めのパンとスープ、そして昨日渡したブラックディアーの肉をイモと炒めた料理が出てきた。このイモ、ジャガイモっぽいけどなんかちょっと味わいが違うんだよな。でもうまい。


「少年、肉を分けてくれてありがとな。朝からこんなにうまい肉が食えるなんて幸せだ」

「そうねぇ、オトカ君。いつでも泊ってくれてかまわないからね」


 奥さんは現金だ。でもそれぐらいの方が楽でいい。子供たちも魔物の肉に夢中だが、まだ諦めきれないらしくてちらちらと視線がこちらにくる。それもニワトリスの方にだ。

 どうしたもんか。

 ペットだって勝手に触ってはいけないと俺は思っているし、許可を取ったにしろ優しく扱ってもらえなければ困る。ニワトリスはもっふもふで見た目はかわいいけど凶暴だ。ちょっと気に食わなければすぐつつく。

 そのつつきが問題なのだ。すぐに麻痺するわけではないが、何回かつつかれると麻痺してしまう。さすがに人様の子をそんな目に遭わせるわけにはいかない。

 となると、恐れられている羅羅はどうだろう。

 でかいということもあるが、タイガーはかなり恐れられている魔物のようだ。北の山の魔物の中にはホワイトサーベルタイガーもいるみたいだし。

 でもなぁ、うちの羅羅は人に危害を加えない方向でいろいろ考えてたみたいだから、ニワトリスよりは穏やかなんだよな。

 ニワトリスは羅羅よりも小さく見えるし、俺にぴっとりくっついているから触れそうと思うのかもしれない。ここはニワトリスから気を逸らさせる為にも羅羅に頼むか。


「羅羅はさ、誰かに触られるのって平気?」

「うん? 危害を加えられるのでなければ構わぬぞ」

「そうなんだ? じゃあ、バラヌンフさんのご家族が触りたいって言ったら触らせてくれるかな」

「よいぞ」

「えっ? いいの!?」


 真っ先に反応したのは男の子の方だった。俺は両手を目の前に上げて制す。


「触ってもいいけど、まず手をよく洗って。それから羅羅に聞いて許可を取ってね。優しく、少しの間だけ触るようにして。あんまり長いと怒るかもしれないから。ニワトリスは羅羅よりも怖いから触っちゃだめ」

「わ、わかった……」

「わかりました……」


 子供たちは急いで手を洗いに行った。バラヌンフさんが苦笑する。


「少年、ありがとな。でもブルータイガーなんて触っていいもんか?」

「うちの羅羅はニワトリスより穏やかなんです。ニワトリスだとちょっと気に食わないことがあるとつついてきますし。ニワトリスに危害を加える気がなくてもそっちの被害の方が怖いです」

「ああ……ニワトリスにつつかれると麻痺するんだよな。状態異常を解除できる奴なんてそうそういないから、けっこう困るんだ」

「えっ? そうなんですか?」


 生まれつき状態異常無効化がある(たぶん生まれつきだと思う)俺としては意外だった。


「能力的に地味だからどれぐらいの奴が持ってるかも把握できないんだよ。教会が積極的に雇用してるから、状態異常になったらまず教会に運んだ方が早い。……金はかかるがな」

「教会でお金取るんですね」


 まぁ金がないと生きていけないからそれはしょうがないんだろうけど。


「お布施と奴らは言ってるがな。状態異常を解除できる魔法を持ってる奴が少ないせいか一回の解除にけっこう金がかかる。毒だけなら薬師から毒消しを買えばいいんだが、麻痺とかの状態異常はどうにもならん。だから俺は、そこのブルータイガーよりもニワトリスの方が怖いとは思ってるよ」

「ですね」

「手ぇ洗ったよ!」

「私も!」


 子供たちが戻ってきた。そして羅羅の前でガチガチに緊張しながら触っていいかどうかお伺いを立てた。羅羅は「構わぬ」と許可した。

 シロちゃんが羅羅の上からどき、俺の横にぴとっとくっつく。ああもうかわいいなぁ!

 子供たちはそーっとそーっと羅羅を撫でた。


「うわぁ……ふかふかだ」

「気持ちいいー」


 二人ともにこにこで少しの間羅羅を撫でた。羅羅も穏やかな顔をしていたから、嫌ではなかっただろう。

 終わってから、「主よ、昨日狩った魔物を是非解体していただきたい」とねだられてしまったが。

 だから今日冒険者ギルドに行くって言ったじゃん。

 さすがに苦笑した。


「そういえば冒険者ギルドに行くんだったな。送っていこう。こちらで冒険者登録をしたから報告もしないといかん」

「バラヌンフさん、ありがとうございます。お世話になりました」

「あら、今夜は泊まらないの?」


 奥さんに首を傾げられてしまった。


「今夜はチャムさんのところへ泊ることになっています」

「あらぁ、取られちゃったわね」


 魔物の肉だろうか。とりあえず魔物の肉さえあれば泊るところには困らないということはわかった。

 羅羅とニワトリスさまさまである。

 シロちゃんがなんか気に食わないらしくつんつんと俺をつっついた。


「こーら、つついちゃだめだろー」


 なでなでしてシロちゃんを宥める。クロちゃんが自分も撫でてというように頭をぐりぐりしてきた。一緒になでなでする。ああもううちのニワトリスってば最高!

 バラヌンフさんの家族に盛大に見送られて、俺はバラヌンフさんと共にやっと冒険者ギルドへ向かうことになったのだった。



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現在お仕事がとても忙しいので反応が鈍いです。毎日更新はかかさずやっていく予定ですが、更新できなかったらすみません(汗

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