28.守ろうとするニワトリスたちとお泊りする俺

「待たせて悪かったな。隊長ともなると書類仕事もあってなー」

「そうなんですね。よろしくお願いします」


 書類仕事は嫌だけど、できるってことは言葉の読み書きが普通にできるってことだよな。どっかで学べないものだろうかと考えてしまう。

 チャムさんに、「明日は絶対泊まりに来てくださいね! おいしい料理をごちそうしますから!」と釘を刺されてしまった。どんだけ魔物の肉が食べたいんだろうな。……うまいから食べたいか。

 魔物って一般的にでかい個体の肉はうまかったりする。ワイルドボアの肉うまいよなー。羅羅ルオルオ曰くけっこう倒しやすいらしい。俺? 倒せるわけないだろ。毛え抜いてもらってどうにか解体できるぐらいだ。

 さて、今日はバラヌンフさんの家にご厄介になる。俺の前を羅羅が歩く。バラヌンフさんのすぐ横だ。彼はさすがに顔をひきつらせていた。すみません、うちの青虎が怖くてすみません。(俺は何を謝っているのか

 バラヌンフさんの家は町の中ほどにあった。途中会う人会う人に足を止められる。でも首輪はしっかり見えるらしく混乱は起きなかった。首輪に何か魔法がかかっているわけではないから、きっとそういう素材を使っているのだろう。魔法の方にばかり目がいって素材の方は見ていなかった。後で鑑定することにしよう。


「ちょっと待っててくれ」


 バラヌンフさんの家はそれなりに大きかったけど、屋敷というほどではない。でも俺の家に比べればはるかにでかい。たぶん日本で言うところの60坪ぐらいだろうか。日本の都市部の家よりは広いかんじだった。(個人の感想です)

 彼は家に入ると、家の人に何やら話してから俺たちを手招きした。


「少年が先に頼む」

「はい。お邪魔します」


 先に、と言われたけど俺の前にいたクロちゃんはくっつきながらののののと俺の後ろに移動した。なんだこのかわいい動き。その後ろに羅羅とシロちゃんである。俺に何かあったらすぐに出てこれるようにしているのだろう。ホント、守られてるよなーと思う。


「こちらの少年を一晩泊めることにした。従えている魔物は従魔登録をしているから安全だが、魔物には違いないので少年の許可を取ってから近寄るようにしなさい」

「まぁ……」

「はーい!」

「はーい!」

「お世話になります」


 バラヌンフさんちは4人家族だった。奥さんと、俺と同じぐらいの歳の男の子と、それより二つ三つ下ぐらいの女の子がいる。いきなり触られたりしたらうちの子たちが驚いてしまうだろうから、バラヌンフさんに伝えてもらえたのは助かった。つっても相手は子供だから何をするかわかんなくてちょっと怖いんだけど。


「初めまして、オトカと言います。今日はタイガー、ニワトリス共々一晩お世話になります。よろしくお願いします」


 そう言って挨拶をすると、奥さんは驚いたように目を見開いた。


「……まぁどうもご丁寧に……」

「一晩の宿代になるかどうかわからないのですが……」


 後ろにもふっとくっついているクロちゃんに、俺の横に来てもらう。

 そして自分のアイテムボックスから魔物の肉を取り出した。まるでさもクロちゃんが出してくれたように。


「すっげー! 魔法だー!」


 それを見ていた男の子がたまらず声を発した。


「これっ」


 奥さんが男の子を窘める。


「えーと……」


 取り出した肉に鑑定魔法をかける。ブラックディアーの肉と出てきた。黒いシカ? そんな魔物もいるんだな。解体されてるとどれがどれだかわからない。アイテムボックスから取り出す時はけっこう漠然としている。物を思い浮かべて出す時もあれば、ただ肉、とだけ考えて出てくる時もある。何が入ってたっけ? と思うと入れた物の映像が頭に浮かんでくる。なんともファジーだ。


「ブラックディアーの肉なんですけど」

「ブラックディアー!?」


 奥さんがすっとんきょうな声を上げた。

 あれ? 俺なんかダメなやつ出しちゃったかな?

 ちなみに、お世話になるのでお礼に肉をあげるということは羅羅もニワトリスたちも承知している。明日はシロちゃんのアイテムボックスに入っている獲物を解体しにいく約束をしたからだ。図らずしも冒険者になってしまった俺だが、明日には絶対冒険者ギルドへ行くつもりである。シロちゃんの圧が強い。


「ブラックディアーか……さすがはタイガーとニワトリスだなぁ」


 バラヌンフさんは苦笑した。奥さんは困っているようだったけど、「泊めるお礼だとよ。受け取ってやってくれ」とバラヌンフさんに言われてためらいながらも受け取ってくれた。俺としても受け取ってもらえてほっとした。

 そして奥さんが調理してくれたブラックディアーのステーキは絶品だった。


「……こりゃあ、なんかお返しをしなきゃいけねえなぁ……」


 バラヌンフさんが呟く。


「こんなうまい肉初めて食べた!」

「おかわり!」


 子供たちは猫まっしぐら状態だった。

 俺も料理を習えばこれぐらいうまく作れるようになるだろうか。料理の可能性についてちょっと考えてしまった。

 羅羅とニワトリスたちには生肉を適当にあげた。家の中を汚すとまずいので庭を借りる。んで、食べ終えてから浄化魔法をかけたので庭もキレイになったはずだ。明日の朝改めて確認しよう。

 バラヌンフさんには気になったことを尋ねて教えてもらった。やはりブルータイガーという個体は見たことも聞いたこともないらしい。普通のタイガーは黄色に黒の縞っぽい模様だと。これは元の世界の虎と一緒だな。色が違うということで、みな必要以上に恐れたのだと聞いて納得した。ただ北の山の魔物にはホワイトサーベルタイガーというのがいるそうだ。北の山からは出てこないので、依頼や被害がない限りは手を出さないという。

 羅羅は気になったみたいだが、とんでもなく強いと聞いて考えてしまったみたいだ。それは羅羅より強い相手かどうかという力試し的なものなのだろうか。それとも同じ虎系と聞いて気になるだけなのか、その場では聞けなかった。

 そうして客間を借り、俺はやっと快適に寝ることができたのである。

 ベッドにはクロちゃんシロちゃんも上ってきたからけっこう狭かった。でも二羽に抱きついて寝るのが気持ちいいから、それに勝る幸せはないと思ったのだった。

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