27.退屈なニワトリスたちと泊る宿はどうしよう
詰所を出ると、辺りはもう暗くなっていた。
これから宿を探すのかと考えたらげんなりする。
「すみません、あのー……従魔も泊まれる場所がいいんですけど、これで泊まることができる宿屋ってありますか?」
バラヌンフさんとチャムさんに今まで貯めた銅貨を見せて聞いてみた。宿になんか自分のお金で泊まったことがないから、いくらかかるのか検討もつかない。泊まれないとなるとこの詰所の横で野宿かなってかんじだ。それでも町の防壁に沿って寝れば少しは風避けになりそう。って、俺野宿に慣れすぎ。
「……うーん、これだけだとかなり厳しいな。売れる物とかはあるか?」
「肉とか、薬草は持ってますけど」
「肉とは魔物の肉ですか?」
チャムさんが食いついてきた。ちょっと怖い。
「は、はい。うちの子たちが狩ったんですが……」
「それは素晴らしい。でもそのカバンに入っている量だけですよね……」
チャムさんは残念そうに俺が背負っているカバンを見る。どうやらチャムさんは魔物の肉が食べたいみたいだ。俺は
「えーと、魔物の肉を分けたら宿に泊まれます?」
「ああ、安い宿なら飯付きで一泊はできるだろうな。もちろん魔物の種類にもよるんだが」
冒険者になったんだからアイテムボックスをニワトリスが持ってるってことぐらいは伝えてもいいか。俺が持ってるとは知られたくないけど。
「ええとですね……ニワトリスがアイテムボックス持ちってことは知ってますか?」
「何ぃ!?」
「ええっ!?」
バラヌンフさん声が大きい。チャムさんもこれ以上ないってぐらい目を見開いている。
あれ? やっぱ知らないかんじ?
それもそうか。ニワトリスって卵が貴重でたびたび討伐とか卵取りの依頼は出されてるらしいけど、飼いならすことはできないって言われてるもんな。(俺がいた村でもそう聞いたし、ニシ村でも雑談で教えてもらった)
「そ、それは初耳だ……それはとんでもない情報だが、本当か?」
「はい。けっこう自在に出し入れしていますよ。クロちゃん、ユーの実を出してもらっていい?」
「オトカー」
クロちゃんが嬉しそうに俺の名前を呼ぶと、バラバラとユーの実が落ちた。それもクロちゃんのすぐ目の前から。
「こ、これは……すごい発見だ。しかしニワトリスを飼うことができるなど聞いたことがない」
バラヌンフさんがぶつぶつと呟く。
ユーの実を拾い、またクロちゃんにしまってもらった。
「俺はこの子たちがヒナの時にヘビから助けたんです。それでこうやって懐いてくれていますけど、普通は懐かないとは聞いてますね」
「……それは間違いないな。よしわかった! 今夜はうちに泊まるといい」
「ありがとうございます!」
アイテムボックス情報で一晩の宿ゲット~。
「隊長、ずるいですよ! 私も参ります!」
「なんでお前まで泊めなきゃならんのだ!」
「魔物の肉が見たいし食べたいじゃないですか! なんだったら買い取りますし!」
バラヌンフさんとチャムさんの言い合いが始まってしまった。どうしようかなーと思っていたら、シロちゃんがクケエエエエッ! と威嚇を使ってしまった。
これはー……人に危害を加えることには入らないの、かな? まぁ直接攻撃してるわけじゃないからいいんだろう。うん、きっと。
さすがにシロちゃんを窘めた。
「シロちゃん、つまんないのはわかるけど威嚇しちゃだめでしょ。ちゃんと二人にごめんなさいしてね」
「……ゴメンー」
うん、うちの子はいい子だ。
ニワトリスに謝られたことと30秒も身体が動かなかったせいか、二人は冷静になったらしい。
「……やはりニワトリスは怖いな」
「……そうですね。お見苦しいところを……」
今日はバラヌンフさんのところに泊まることになり、明日はチャムさんの家に泊まることになってしまった。ただで泊めてもらえるのはラッキーである。二晩の宿代が浮いた。素晴らしい。
バラヌンフさんはまだ少し仕事が残っているというので、一度また詰所の中に戻り待っていることになった。
「隊長の家に向かわれるのはいいですが、その前にちょっと……」
チャムさんに小さい声で話しかけられた。
「……なんでしょうか?」
「……君、ここにいた時魔法を使ったでしょう?」
「……えっ?」
「首輪のことが気になったのかもしれませんが、世の中には私のように魔力の流れがわかる者もいます。何も言わずに魔法を使うと攻撃されてしまう危険性もありますから気を付けてくださいね。使った魔法の種類はわかりませんが、鑑定魔法ですかね?」
冷や汗がだらだら流れた。そっか、確かに魔法を使ったことがわかる人もいるんだな。これからは気を付けよう。
「……そうです」
「なんと出ていましたか?」
「契約魔法と、強制魔法、それから鍵の魔法と出ていました」
「素晴らしいですね。それぞれの効果はわかりますか?」
「……名前しかわかりませんでした」
さすがにここは嘘を吐く。本当は詳細まで見えた。気になっていた強制魔法は状態異常魔法の一種だったから、俺が手に持った時点で解除されている。だから俺はただみんなにお願いしただけだ。
ただ首輪自体に強制魔法はかけられているから、強制魔法が解除されていることはわかりづらいだろう。
「そうですか。でも鑑定魔法持ちというのは珍しいですから、もし冒険者としてやっていけなくなっても就職先には困りませんよ。よかったですね」
「……珍しいものなんですか?」
退屈なのか、ぎうぎうくっついてくるシロちゃんとクロちゃんをもふもふなでなでさせてもらっている。こうしてるとニワトリスってすっごくかわいいよなー。
「珍しいですね。おそらく百人に一人もいないでしょう。ですから鑑定魔法持ちは引く手あまたですよ」
「それならよかった」
仕事が得られるというのは大事だ。
「……それにしても、タイガーもニワトリスも大人しいですね。ものすごく狂暴で人を襲う魔物のはずですが……」
チャムさんが感心したように言った。
「僕はよくわからないんですけど、どちらの方がより恐れられているんですか?」
「どちらも恐ろしい魔物ですが、タイガーの方が怖いです。でかいですから」
「ああ、確かに……」
でかいってそれだけで怖いかも。羅羅はフンッと鼻を鳴らす。チャムさんがそれにビクッとした。
早くバラヌンフさん戻ってこないかなと思った。
ーーーーー
契約魔法:従魔契約などに使用される。人に使う場合は条件を1つ指定する。この国では犯罪者以外には使われていない。
強制魔法:状態異常魔法の一種。魔力が多い、生命力が多いものには効きづらい欠点がある。約束を強制的に履行させる。魔物だと体長50cmぐらいまでの物に効くかどうかというところ。
鍵魔法:鍵をかける。鍵魔法を使える者、または条件などで解除することができる。金庫や首輪などに使われることが多い。
また明日~
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