26.待ってくれているニワトリスたちと大人と話す俺

 門番が門の前で待っていた人たちを全て捌いた後(みんな逃げるように門の中に入っていった)、なんか偉そうな人が出てきた。

 やっぱ魔物を町に入れるって大事おおごとなんだなと理解する。

 でもせめて冒険者にはなりたいし。

 俺は羅羅ルオルオに乗ったままだし、クロちゃんをだっこして、後ろにはシロちゃんが乗っているという状態だ。ここでヘタにうちの魔物たちから離れて攻撃されたら困るし。クロちゃんは時折身体を揺らすから、その都度抱き直す。


「オトカー」


 と嬉しそうに呼んでくれるのがかわいい。語尾にハートとか音符とかついてそうだ。

 って今はそんな状況じゃないんだって。偉そうな人がこちらに向かって一歩前に出る。


「少年よ! その魔物は人に危害を加えないか!?」


 朗々とした声だった。


「僕に危害を加えようとしなければ大丈夫です!」


 さすがに絶対に危害を加えないとは言えないから、正直に答えた。


「わかった。キタキタ町は少年たちを迎え入れよう!」

「ありがとうございます!」


 偉そうな人の側にいた護衛とか門番とかが驚いたような顔をする。でもここで押し問答してもしょうがないし。それは偉そうな人もそう思ったんだろう。

 なにせ魔物が一頭と二羽だ。入れないといって暴れられるのも問題だろうし。

 手招きされたので羅羅に動いてもらった。門の前はとても物々しい状況になっている。いきなり攻撃とかされないといいなとひやひやしたけど、さすがにそんなことはなかった。


「私はキタキタ町の防衛隊の隊長であるバラヌンフという。ニシ村から来たと言ったが、ニシ村にはブルータイガーが生息しているのだろうか?」


 正確にはニシ村の方角からだけど、ナカ村と言ってもわからないだろうからそれはいいだろう。


「ええと、僕がこのブルータイガーと知り合ったのはニシ村で間違いありませんが、今まで見たことがないと聞いています」

「そうか……私もタイガーのことは聞いているがブルータイガーがいるなど聞いたことがない。もしかしたら変異種なのかもしれんな……」


 バラヌンフさんは呟くように言った。やっぱ青虎は聞かないみたいだ。少なくともここら辺では。


「それで、少年はまだ冒険者にはなっていないんだな?」

「はい、冒険者ギルドがあるのはこちらの町だと聞いて来たんです。この子たちの従魔登録もしたいですから」

「従魔登録については誰かに聞いたのかね?」

「ニシ村と、あと先ほどアイアンという冒険者グループに会って教えていただきました」

「そうか。ではもう少し待っていてもらえるかな? おい、少年たちをそこの詰所に案内しろ」

「は、はいっ!」


 そろそろ門を閉める時間だったみたいで、僕たちが門から中に入ると門番が門を閉じた。そして門のすぐ横にある建物に案内された。僕たちは羅羅に乗ったままだ。礼儀うんぬんを考えたら降りた方がいいのはわかっているが、ここの人たちが敵か味方かわからないうちはどうにも行動できない。

 詰所は狭かった。羅羅が入る為に机と椅子を動かしてもらったぐらいである。


「……す、すみませんがここでお待ちを……」

「あ、おかまいなく……」


 門番の人もびくびくしている。やっぱり羅羅が怖いんだろうなぁ。気持ちはわかる。

 羅羅は詰所の部屋に入るとあくびをして伏せた。俺はクロちゃんをだっこしているだけで癒される。後ろにいるシロちゃんが、「マダー?」と言っていた。


「シロちゃん、もう少し待ってねー」

「オソイー」

「もう少しだよー」

「……しゃべった……」


 あれ? ニワトリスがしゃべるって知らないのかな? この辺りってニワトリスはいないのか?

 そんなことを考えていたらバラヌンフさんが扉をノックして入ってきた。扉は開いていたからすぐにわかった。密室で魔物といたくないよね。


「ご苦労だった。もう帰ってもいいぞ」

「はっ、ありがとうございます」


 バラヌンフさんは一人ではなかった。後ろから杖を持った人が来た。バラヌンフさんより細身で神経質そうな男性だった。そして部屋にいた門番に声をかけた。門番は顔をひきつらせながら部屋を出て行った。お疲れ様だ。


「待たせてすまなかった」

「いえ……」

「彼はチャムという。防衛隊の魔法師だ。魔道具の管理なども彼が行っている為連れてきた」

「? 魔道具、ですか?」


 魔道具ってなんだろうと思う。


「み、水をお持ちしました……」


 門番ではない少年が震えながら水を運んできた。ごめんねえと思ってしまう。

 チャムさんがお盆を受け取り、少年を帰らせる。

 そうして机に載せた。


「少年も飲んでくれ」

「ありがとうございます」


 木のコップを受け取る。うん、無臭だ。確認してから飲んだ。……何も入っていない。よかった。


「……少年は、慎重なのかそうでないのかわからんな」


 バラヌンフさんが苦笑した。さすがにここで状態異常無効化があるとは伝えない方がいいだろう。


「まぁいい。本来ならば自分で冒険者ギルドに行って登録してもらうんだが、今回は魔物たちもいるから例外的措置を取らせてもらいたい。ここで冒険者登録をし、この場で従魔登録を行ってもらいたいのだがいいかな?」

「えっ? いいんですか?」


 羅羅が恐ろしいせいなんだろうけど、随分破格だなと思った。でも気は抜かないでおく。

 まだ町の入口に入っただけだ。


「このまま君たちが町に入る方が問題だ。まず少年の登録から始めよう」

「お名前を教えてください」


 チャムさんが口を開いた。


「オトカです」

「出身は、ニシ村でよろしいですか?」

「あの……出身地を登録することでなにかあります? もし村に迷惑がかかるようなことがあったらと、思うんですが……」


 そう尋ねると、二人は目を見開いた。


「特にはないが……まぁいい。ならばキタキタ町にしておこう」

「よろしいので?」

「聡明な少年だ。問題あるまい」


 二人のやり取りをじっと聞く。俺の出身地はキタキタ町になったみたいでほっとした。


「ではこの板に手を置いてください。冒険者カードを作ります」

「はい」


 俺の手のひらよりも一回り大きい板に手を置く。これらの作業も羅羅の上に乗ったままだ。今更だけどホント俺ってば態度が悪い。

 チャムさんが、「オトカ、キタキタ町を登録する」と言った。

 板が即座に縮み、俺の手のひらに収まるサイズになった。


「オトカさん、これで貴方はFランクの冒険者になりました。おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 板には俺の名前が確かに刻まれていた。それ以外はたぶんこれがキタキタ町って書いてあるんだなとか、これがFランク冒険者というのを表しているんだなということぐらいしかわからなかった。字を学べるところとか、そういう本ってないかなぁ。


「では次に従魔登録を行います」


 チャムさんはそう言って、三つの茶色い首輪を出した。

 ええって思った。


「首輪、を付けるんですか?」

「これは遠くからも見える魔法がかかっていますので、これを付けていればすぐに従魔だとわかります」


 それは便利だとは思うけど、首輪の効果がとても気になる。


「教えてください。これは簡単に外すことはできますか?」

「管理は冒険者ギルドになりますので、ギルドの職員に言えば外すことは可能です。ですが魔物ですので、外した後の責任は取れません」


 確かに魔物は魔物だ。


「この首輪の効果を教えてください。従魔登録をする以外に何か魔法がかかっていたりしますか?」


 チャムさんは困ったような顔をした。言えない効果があるのは困るんだが?


「それには首輪を付けた者への登録以外に、強制の魔法がかかっている」


 バラヌンフさんが答えてくれた。チャムさんが慌てた様子を見せる。


「隊長!」

「隠してもいいことはないぞ。強制の魔法とは、首輪を付けた持ち主の言うことを聞くというものだ。だが、ブルータイガーやニワトリスに通じるかどうかはわからない。従魔と言っても普通手なずけられるのはもっと小さな弱い魔物だからな」

「ああ……」


 確かにそれはそうだろう。


「だからこそこの首輪を付けてもらわなければ困る。強制の魔法は効かないかもしれないが、これを付けているだけで町の者たちは安心するんだ。それから、私たちの目の前で”人に怪我をさせたり襲ったりしないという約束”をさせてほしい。これが少年たちを町に入れる条件だ」


 ……うん、バラヌンフさんは誠実だ。町の治安についても考えているんだろう。


「わかりました」


 強制ということはおそらく状態異常だろう。それならば俺が無効化させることはできる。


「羅羅、シロちゃん、クロちゃん、この首輪付けてもいいかな」

「かまわぬ」

「イイヨー」

「オトカー」


 クロちゃんや、俺には首輪は付けないよ?

 そうして快くOKしてもらえたので首輪を付けさせてもらい、「人に怪我をさせたり襲ったりしないこと」という約束をさせた。

 バラヌンフさんは軽く嘆息し、チャムさんは明らかにほっとした顔を見せた。そしてチャムさんが一頭と二羽を従魔登録してくれた。よかったよかった。

 そうしてやっと俺たちはキタキタ町に入ることができたのだった。



ーーーーー

魔物は怖いんです、ってことで。

また明日~

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