17.食いしん坊なニワトリスと対策を考える俺
虎の魔物としてまず浮かぶのは、山月記の李徴だろうか。
でもあれは中島敦の創作で、って。元は中国の人虎伝という話があったはずだ。となると李徴の可能性がないではない。でも李徴だとすると、人も生き物も全て捕らえて食べてしまうはずだ。人食い虎であるのならば、倒さないとまずい。
でもここ半月、己の名を聞いて間違っていたら全身の毛をなくすだけで、誰も食べられてはいないという。
ということは、李徴である可能性は低い。
かといって山海経に記載のある羅羅だという確信も持てない。
話を聞いたら、という約束だったのででかいボアを一頭解体してもらうことにした。ニワトリスたちに交渉して、少しは村人たちに分けてもいいと許可をもらった。全く、飼い主は俺なんだけどなぁ。
でも狩ったのはシロちゃんとクロちゃんだしな。
その際に、毟った毛を集めてもらい簡単なかつらのようなものを作ってもらった。衛生面に関していうと浄化魔法が使えるから問題ない。
それよりも俺がアイテムボックスからボアを出してしまったことの方が問題だった。
……しばらく人に会ってなかったからこれが異常だってことを忘れてたんだよ。
「ボ、ボウズ、今どっから出した……?」
ひげ面のおじさんが目を剥いた。
「……ニワトリスにはそういう能力があるんですよ」
間違ったことは言ってない。
「オトカー」
「オトカー」
シロちゃんとクロちゃんにお前が出したんだろとツッコまれたが、「そういう能力あるじゃん」と言って宥めた。シロちゃんにはつんつんつつかれて、クロちゃんにはプイッとされてしまった。ショックがでかい。
「クロちゃあん……」
でもすぐにすりっとしてくれたからたまらなかった。あざと女子、かわいすぎる。
さて、そんなちょっとしたことはあったが、ボアの解体は無事してもらえた。俺と村の中で浄化魔法を使える人たちががんばったせいか、みなあまり汚れず解体も楽で済んだと喜ばれてしまった。
「浄化魔法って、こういう時に使ってもいいのね。でもあんまり使うと疲れてしまうわ。貴方は疲れないの?」
と村のおばさんに聞かれてしまった。
……疲れたこととかないな。
「そんなに使ってないのでわかりません」
と無難に答えておいた。もしかしたら俺の魔力量って多いのか? でもうちのニワトリスたちは魔法とか普通に使ってるしなー。
って、魔物と比べちゃいけないかー。うちの子たちは俺にくっついてると魔物ってかんじは全くしないけど。
それにしてもやっぱり毛を毟る作業が苦行すぎる。どうにかならないもんか。
ボアの毛はゴワゴワしているけど、どうにかかつらモドキが五つはできた。多分もっと作れただろうけど、これで当座しのいでもらえたらと思ったのだ。
え? 俺とニワトリスが青虎に対峙するんじゃないかって?
そんなこと絶対にしたくない。おそらく「ル」が付く名前がキーワードな気がするから、「ル」の付く名前を考えようという話になった。
もし、だけど……青虎が俺の知っている青虎だったら羅羅(ルオルオ)という名前のはずだ。
でも突然現れたと言ったって、俺みたいに異世界転生とか、異世界転移とかそんな都合のいい話はないと思う。
流暢に話せるというから会話はできるんだろうけど、その性情はわからない。名前がわかった途端襲われてしまうかもしれないし、こればっかりはまず名前を突き止めなければいけないのだ。
そんなこんなで解体したボアの肉を一部村の人たちに分けた。ニワトリスたちには内臓を全部あげる。村人たちは、
「内臓を食べるのか……」
と嫌そうな顔をした。俺は食べたことはなかったけど、どうやら魔物の内臓には毒が含まれているらしい。ただしその肉は美味なので、下手に内臓を損傷させて倒したりしていなければおいしくいただくという。
……ってことは内臓もうまいのかな。
ちら、と内臓をおいしそうに食べているシロちゃんとクロちゃんを窺ったら、シロちゃんにギンッ! とすごい目で睨まれてしまった。
大丈夫、取ったりしないって。
思わず苦笑してしまった。取ったりしたら思いっきり蹴られそうだ。食い物の恨みは怖いんである。
でもいつか味見ぐらいはさせてもらえないかなとは思う。当然火を入れてからだけどさ。
村人たちは俺たちにとても感謝して、ボアの肉を焼き始めた。俺も一緒にと言われたので遠慮なく参加させてもらう。
いやあ、ボアの肉なんて久しぶりだなぁ。
そんな風に飲めや歌えで楽しく過ごしていたら、
「貴様ら、何がそんなに楽しいのだ!?」
と、低くてとても大きな声が聞こえた。
「ひ、ひぃいいい~~~!」
「お許しを! お許しを!」
ハゲてる人たちが我先にとボアのかつらもどきを被った。
ってまだ夜も遅い時間じゃないのにもう出てくるとかなんなワケ? しかもわざわざ村内にとか。
ニワトリスたちは変わらずマイペースに内臓をつついている。ってことは、うちの子たちにとっては脅威にはならないのかな?
なんて、先ほどまで噂をしていた青虎がのっそりのっそりと近づいてくるのを見ながら思ったのだった。
うわあ、けっこうでかいなぁ。(現実逃避中
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青虎登場~
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