16.もふもふしているニワトリスと事情を聞いてみる
シロちゃんは隣にもふっと座って俺にぴとっとくっついている。クロちゃんは俺の膝の上にもっふりと収まった。
これなら確かに誰も俺には触れないだろう。
それに、うちのニワトリスたちはすんごくかわいい。癒し効果抜群で、どうにか村の人たちの話を聞くことができた。(一斉に話されてたいへんだった)
話をまとめるとこうだった。
つい半月ほど前、森から青い毛並みのタイガーに似た魔物が現れたという。
その魔物はうちのニワトリスのように片言ではなく、とても流暢に話すことができたらしい。
仮にその魔物を
青虎は怯える村人にこう話しかけた。
「そなた、我の名を知らぬか?」
と。
村人は青ざめながら、「知りません」と答えた。その途端、一瞬で全身の毛がなくなってしまった。
「我の名を知る者を連れてまいれ。そうでなければ貴様を食ろうてしまうぞ!」
青虎はそう言って村人を脅し、それから毎晩一人ずつよこさせるようになったという。
ええー、と思った。
未だに青虎の名前がわからず、全身の毛がなくなってしまった者は14人を数えた。
そこに俺がニワトリスたちと一緒に現れたのである。
魔物に物を聞くことはできないが、魔物であるニワトリスたちを従えている俺であれば、ニワトリスに命じて青虎の名を聞き出してくれるのではないかと考えたみたいだ。
青い虎、青い虎ねぇ……。
クロちゃんをもふもふしながら考える。
うちの子たちが青虎に向き合ってくれると言ったとしても俺は反対だ。
全身の毛がなくなるということはいったいどういう魔法なのだろう。もし対峙してそんな魔法をニワトリスたちに使われたりしたらとても冷静ではいられない。
「……話はわかりましたけど、それだけではとても……。あのぅ、今までにその魔物を見かけたことはあったんでしょうか?」
正直期待されても困るのだけど、青い虎というのが記憶の隅に引っかかった。
「いや、ない」
「見たことは、ねえな」
大人たちが口々に否定する。
彼らの言が正しければ、その青虎は半月前に突如現れたことになる。
青虎の様子や言っていたことなどを、直接話した人から集めてみる。
曰く、青虎は落ち着かない様子だった。いらだっているようだった。「ここはどこか?」と何度も聞いた。ニシ村だと答えたが、「そんな村は知らん」と言う。それからこちらが全然知らない名前だか地名のようなことをいくつも言った。村人が知らないと答えるとひどくうろたえた様子だったという。
「うーん……」
クロちゃんをぎゅうぎゅう抱きしめて考える。そんなクロちゃんはご機嫌なようで少し身体を揺らしている。ああもうかわいい。
虎、と言われると白虎とか、山月記の虎を思い出す。青虎だから白ではないし、山月記の虎は普通に黄色っぽい毛並みだったはずだ。
青い虎なんて聞いたことがないと思った時、かすかに思い出した。
俺はラノベが好きで元の世界では読み漁っていた。それらを読みながら知らないことがあると調べたりもしていた。その中に山海経という文献の話があり、なんだろうと調べた。山海経は中国の戦国時代に中国古代の神話や地理をまとめたものである。作者はわからないらしい。
その中の『海外北経』という章に、「北海内有獸~有青獸焉、状如虎、名曰羅羅。」(北海内に獣がいる~青い獣あり、虎のような姿をしており、名は羅羅という)下りがあった。
けれどそれがどんな性質を持った獣なのかは知らない。
そして、この辺りに出た魔物がその羅羅なのかも不明だ。
とりあえず青虎によって毛がなくなった人たちを、すぐ近くまで連れてきてもらった。
話を聞きながらこっそり彼らに鑑定魔法をかけると、(状態)脱毛、と出てきた。
え? 脱毛って状態異常魔法なワケ?
思わず声が出そうになった。じゃあ俺が触ったら毛が生えたりするのかな。
眉毛もなくなっているおじいさんに、本当に毛がないのかどうか確認したいと、子供特有の好奇心を称えた目で伝えてみた。
「もしかして、腕の毛とかもないんですか?」
「ああ、全てなくなってしもうた」
「おじいさんは何日ぐらい前にその魔物と話したんですか?」
「そうさのぅ……十日ぐらい前かのう」
「へぇ~」
出された腕に無邪気を装って触れる。そしてまた鑑定魔法をかけると、(状態)正常となった。でもハゲなのは変わらない。
一度抜かれた毛は戻らないが、状態が脱毛ではなくなったからまたいずれ生えてくるということなのだろう。でも、ということは状態が脱毛のままだったらこの先全く毛が生えないということになっていたのか。考えただけで恐ろしい。
そうして彼らから聞き出した情報を総合すると、名前は二回まで言っていいらしい。それで間違うと毛がなくなってしまうそうだ。
とりあえず気になったことは全部聞いてみることにした。
「あのぅ……毛がない人をまた会わせたりはしなかったんですか?」
「試しに帽子を被らせて行かせたのだが、帽子を取るように言われてしまってな……」
言われた通りに帽子を取ったら「次は命はないぞ!」と叫ばれたのだそうだ。
ってことは、青虎は鑑定魔法が使えたりはしないのだろう。
名前を言って、考えるようなそぶりを見せた名前はなかったかも聞いてみる。
「いや……」
「特には……」
「あ、でも……確か……」
つるつるの人たちが顔を見合わせて話し合う。その中に心当たりがある人がいたみたいだ。
「ルーイ、という名前を言ったら、あのタイガー、一瞬動きが止まったんだ。でもすぐに外れだと言われたんだよな……」
「ルーイ、ですかぁ……」
俺にくっついているシロちゃんと膝でもっふりしているクロちゃんは退屈だったらしく、今は船を漕いでいる。
うん、かわいくて何よりだ。
こんなにかわいいうちのニワトリスたちをそんなとんでもない青虎と対峙させたくはない。
だったらどうするか。
最悪倒してしまってもいいのだろうが、流暢に話すということと脱毛魔法が気になる。
俺は思いついたことを、村の人に話すことにした。
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