15.ぴとっとくっつくニワトリスと諦める俺

 大きな建物に入って、俺は目を見張った。

 なんというか……言っちゃなんだがハゲ率が高いのである。おじいさんを見た時感じた違和感にようやく気づいた。

 つるっぱげの人たちは眉毛までないのである。幸いハゲなのは男性のみのようだが、これはこの村に住む人たちの遺伝子の関係でこうなっているのだろうかと考えてしまった。


「疲れたでしょう。お飲みなさい」


 おばさんから白湯をもらってほっとした。


「ありがとうございます。図々しいことはわかっているのですが、この子たちにも水をいただけますか?」


 川から離れたので草や木の汁などが主な水分だったのだ。シロちゃんとクロちゃんには苦労をかけたと思う。その分解体とかはがんばったけど。……でも毛を毟る作業がとにかくたいへんだったことは絶対忘れないだろうな。なにせ水がないからお湯も沸かせないし、ただひたすらに手でぶちぶち毟るとかいったいなんの拷問なんだよ……。だからって解体用のナイフで皮をそのまま剥ごうとしたってうまくいかないしさー。あ、考えたら泣けてきた。

 おばさんは戸惑うような顔をしたが、すぐに浅めのお皿に水を入れて持ってきてくれた。


「ありがとうございます。ほら、シロちゃん、クロちゃん飲みな」


 白湯を啜る。別に何かの味がするわけではないから毒などは入っていないことが確認できた。入ってても大丈夫なんだけど、ここの人たちが俺たちに敵対意識を向けているかどうかがすぐにわかる。二羽も普通に飲んでいるから普通の水をもらったのだろう。よかったよかった。

 それにしても、まずハゲ人口が多いことで驚いたのだが、痩せている人が多い気がする。やはり北にある村だから作物はあまり採れないんだろうか。

 しかもハゲの人たちがやたらとじろじろ見てくるんだよな。そんなによそ者が珍しいのか、それともやっぱり何かあるんだろうか。


「キルー」

「オトカー」


 二羽は水を飲むと、そう俺に声をかけた。


「……しゃべった……」

「やはり魔物なのか……」


 周囲からそんな声が届いたが、俺は気にしないことにした。それよりも、「キルー」ってシロちゃんはもう。


「うーん、頼むことはできると思うけど、きっと半分ぐらい分けないとダメだと思うよ」


 大人がいるからでかいボアの解体も頼めばやってくれるとは思うが、ここはあまり食糧事情がよくなさそうだからお礼に肉を半分ぐらいは分けないといけない気がする。

 二羽はショックを受けたような顔をし、


「ヤダー」


 と言った。


「じゃあ諦めよう。もう少し大きな町へ行ったら解体できるかもしれないしさ。なっ?」

「エー」

「エー」


 そんな不満そうな声を出されても困る。だいたい、何かしてもらったら礼をするのは当たり前だしな。

 俺は一応冒険者になるつもりで夜逃げしてきているから、どこかの町でどうにかして冒険者登録をすれば解体とかについても教えてもらえると思う。それは雑貨屋のばあちゃんが教えてくれたし、村の大人たちもそんなような話をしてくれた。

 確か冒険者になるのには冒険者ギルドに行かないといけないんだけど……この村には残念ながらなさそうなんだよな。


「……解体って、そのニワトリスが獲った獲物でもあるのか?」


 先ほど櫓の上から声をかけてきたひげ面のおじさんに、そう声をかけられた。


「あ、はい。この子たちが獲ったんですけど、解体したのを食べたいみたいで。でもかなりでかいから僕ではどうしても解体できないんです。ここで頼めればいいとは思うんですけど、お肉を分けないといけませんよね。それは嫌だっていうので……」


 俺はすまなそうに肩を竦めた。


「ボウズも難儀だな。おい、じいさん。どうする?」

「そうじゃのう……確かに肉を少しでも分けてもらえればありがたいが……ニワトリスは魔物だし、いっそのことアレの対処を頼んでみたらどうだ?」


 おじさんとおじいさんが何やら話し始めた。あれ? これってなんか……なんかないか?

 やっぱりなんか事情がありそうだ。


「アレ、かよ……。いくらなんでもアレはまずいんじゃねえか?」

「話だけでも聞いてもらったらどうだ?」


 あ、なんか嫌な予感がする。ここにいたらよくないことに巻き込まれそうな気配を感じて、俺は立ち上がろうとした。

 が、両肩に手を置かれて押さえられてしまった。シロちゃんとクロちゃんが咄嗟におじさんをつつこうとするのを止める。


「だめっ! 僕は大丈夫!」


 ここで二羽がおじさんをつついたりしたらたいへんだ。俺が手を広げて腕を伸ばしたことで、二羽はどうにか止まった。

 危ない危ない。


「ほー。ボウズの言うことはよく聞くんだな」


 おじさんが感心したように言う。そんなのん気でいないでほしい。こっちだってひやひやなのだ。


「シロちゃん、クロちゃん、僕は大丈夫だからね? 絶対につついたりとかしちゃだめだよ?」

「エー」

「エー」


 不満らしい。これはもう手を放してもらうしかないだろう。

 俺はため息をついた。


「……わかりましたから手を放してください。でも話を聞くだけですよ? 聞いたら解体、手伝ってくださいね?」

「ああ、聞いてくれるだけでも十分だ!」


 おじさんが肩から手を放してくれたことでほっとする。シロちゃんとクロちゃんが俺にぴとっとくっついた。うん、うちの子たちはとてもかわいい。二羽の羽を撫でさせてもらう。

 そして村の人たちからするとどうも藁にもすがる思いだったらしく、みな口々に話し始めたのだった。

 ……頼むから誰かが内容を整理して話してほしかったな……。

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