14.ニワトリスの感知能力と人里

 翌日も二羽に先導を頼んで歩いていくと、獣道のようなものを見つけた。


「シロちゃん、クロちゃん、ちょっと止まって」


 二羽は何事かと振り向き、歩みを止めた。


「あっちの道ってさ、人が使ってるかどうかってわかる?」

「チガウー」


 シロちゃんは即答した。


「じゃあ魔物とか?」

「カモー」


 人でないことは確からしい。確かにその道の方を見るとところどころ毛のような物が落ちているのがわかる。足元も踏み固められたかんじではないから、靴を履いた人が歩いたところではないんだろう。こういう観察力とかはまだまだだなと反省する。


「そっかー。でもこっちの方向に行けば人が住んでそうなんだよな?」


 二羽は頭を頷くように前に動かした。

 どういう能力でそれを感知しているのかはわからないが、俺にはさっぱりわからないので付いていくしかない。

 しかしだんだんと森の木々の太さとか、高さとかが明らかに変わってきた。何故か木々が細く、低くなってきたのだ。植生が変わってきているせいか魔物を見かけることも少なくなってきている。

 これは人里が近いことをうかがわせた。

 昼に魔物を二羽が狩り、それを捌いて食わせたりしている間に日が落ちてきた。今日もあまり先に進めなかったなと思ったのだけど、シロちゃんが飛んでいった木の上に登った時、西の方向に明かりのような物が見えた。

 今までは全然あんなもの見えなかったのに、と目を凝らす。


「なぁシロちゃん、あれってもしかして……人が住んでるのかな?」

「カモー」


 シロちゃんがそう答えてくれて、俺は笑んだ。

 でも、悪い人が隠れて住んでいる可能性とか、もしかしたら人型の魔物の里っていう可能性も0じゃないから気を引き締めなければいけない。それでも久しぶりの自分以外が灯した明かりを見て、泣きそうになってしまったのは確かだった。(二羽のことは信頼している。たぶん魔物ではないだろう)

 そうして翌朝そちらの方向へ二羽に案内してもらったら、いきなり森が途切れた。


「う、わぁ……」


 森からすごく近いところに柵があり(30mぐらい)、その中には木造の家が何軒か建っているのが見えた。

 それを確認した途端、クロちゃんが俺の服を噛んで引っ張った。


「えっ?」

「何者だ!?」


 柵の上の方、やぐらの方から警戒するような男性の怒鳴り声がした。顔が覗く。ひげ面のおじさんがその手に弓を持っているのを見て、シロちゃんとクロちゃんを下がらせる。二羽は前に出ようとしたが俺は手で制した。うちのニワトリスが怪我をするとは思えなかったが、攻撃されたくなかったのだ。


「み、道に迷って南の方から来ました! この子たちは僕が小さい頃から飼っているニワトリスです。どうか、道を教えていただけませんか!」


 ここ数日、人里を見つけたら言おうと思っていたことを言うことができたと思う。敵対されるようならニワトリスたちと森に戻るけど、どうだろうか。


「こ、子供、か……?」


 おじさんは戸惑ったみたいだった。

 俺が子供だからって弓を下ろそうとするなんて、人がいいのかなとは思う。


「はい、十歳です!」


 元気に自分が子供だとアピールしてみる。


「ちょっと待ってろ!」


 そのおじさんでは俺をどうするのか判断できなかったらしく、一度その姿を引っ込めた。俺は二羽と顔を見合わせた。

 なんというか、無防備だなという印象である。

 近くに毒草が生えていたのでこっそり二羽と共に摘まみながら待っていたら、また櫓の上から声がかかった。


「そのニワトリスたちは人に危害は加えないか!?」

「僕を攻撃しなければ大丈夫です!」

「じゃあ入れ!」


 櫓から少し離れたところにある木の門の方へ行くよう指示された。俺が子供だからなんだろうけど、ちょっと心配になってしまった。

 門の方へ移動すると、


「ニワトリスは置いてこれるか?」


 と聞かれた。

 それは先に聞いてほしかった。


「ニワトリスは僕の家族です。一緒に入れないなら、どっちへ行けば人が住むところへ出れるのかだけ教えてください。そちらへ向かいます」

「そ、それならしょうがない……ニワトリスも入れ。いいか、絶対に俺たちに攻撃させるんじゃないぞ!」

「はい。シロちゃん、クロちゃん、絶対につついたりしちゃだめだからね」


 うちの子たちは頭がいいからいちいち言わなくてもわかるだろうけど、一応言っておく。二羽はなんとなく不満そうだったけど、首を前に動かすようにして頷いてくれた。

 ギイ……と木の門が少しだけ開けられた。俺は二羽を促して、ようやく人里へ足を踏み入れたのだった。

 しかし入れたからといってそれで終わりではない。シロちゃんが俺の前に陣取り、クロちゃんは俺に寄り添った。もうなんていうかすっごくかわいいけど顔を崩してはならない。俺はにやけそうになる顔をキリッとした状態で保つのがやっとだった。


「ようこそ、ニシの村へ」


 ひげ面のおじさんと、他の村の衆と思しき人たちの後ろから、つるっぱげのおじいさんが顔を覗かせた。


「こんにちは。僕はオトカと言います。こっちはニワトリスのシロちゃんとクロちゃんです。どうぞよろしくお願いします」


 俺はおじいさんに向かって深々と頭を下げた。第一印象ってのは大事だからな。おじいさんの風体が如何に怪しく見えようとも。

 なんか違和感があるんだよな。なんだろうか。


「……おお……少年は南の方からやってきたと言うが……どこの村出身かな?」

「ナカ村です」

「はて……聞いたことがないのぅ」


 聞いたことはないだろうなと思う。何せ魔物が活動している『帰らずの森』を半ば横断してきたのだから。


「僕も、ニシ村という名前は聞いたことがないので……」

「お互い様か。道に迷ったということは疲れただろう。白湯でも飲むがいい」

「ありがとうございます」


 そして俺は、ニワトリスと共に大きな建物(たぶん集会所みたいなところ)に案内されたのだった。

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