13.グルメになったニワトリスと更に三日後

 それから更に三日後、俺のアイテムボックスの中にはクソでかいボアが四頭も入った状態になっていた。

 ニワトリスたちが狩ってきた獲物は、これらとんでもなくでかい物以外は死ぬ気で解体したよ。おかげさまでほとんど前に進めていない。

 解体もたいへんなんだけど、その前の毛を毟る作業がとにかくつらいのだ。湯が大量に扱えればまだましなんだろうけど、俺用の鍋で沸かした分をかけてどうにか毟るってやり方だから時間はかかるしやってられない。本気で脱毛の魔法かなんかないかなと思ってしまうぐらいだ。

 それにしてもなかなか先に進めないというのはストレスもすごい。そりゃあ俺だって森で岩塩を見つけたり胡椒を見つけたりしたさ。おいしい毒草や毒キノコなんかも見つけたよ。森での生活もそれなりに快適ではあった。

 でもさぁ、でもさぁ……いいかげん人里を見つけたいじゃん! そろそろ。

 縄とか紐とかいちいち木の皮を剥いだり、植物の繊維だけ取り出したりして作るのはたいへんなんだってばよ。(編むだけなら丈夫そうな草を使えばいいんだけどな)

 ってことでニワトリスたちにお願いした。


「どっか、人が住んでる村みたいなところを見つけたいよ~」


 と。

 二羽は頭をクンッと持ち上げた。それは任せろと言いたいんだろーか。

 二羽は頭を持ち上げたまま、その場でうろうろと歩き始めた。もしかして、俺の言い方が悪かったんだろうかと思い始めた頃、シロちゃんが川の方を見つめ、「コッチー」と言った。


「えっ?」


 コッチー、と言われてもそっちは川なんだが……。

 川の深さはわからないし、対岸まで5,6mぐらいありそうだ。流れもあまり緩やかとは言い難い。川ってやつは舐めると非常に危険なのだ。……しかも俺、実は泳げないし。


「川を渡るのは……危険かな。俺、流されちゃうかもしれないし」


 たった5,6m、されど5,6mである。


「ツカマルー」

「オトカー」


 シロちゃんには背を向けられ、クロちゃんにはつつかれた。

 え? これってもしかしてシロちゃんにおんぶしてもらえってこと?


「いやいやいやいや……さすがに女の子におぶさるわけにはいかないよ。俺、けっこう重いしさ」


 多分。

 って木の上から降りる時はクロちゃんにしがみついてるけど。それとこれとは別なのだ。降りるだけと、平行に飛ぶのを考えたら、俺をくっつけて飛ぶのはたいへんだと思う。


「ツカマレー」

「オトカー」


 でも二羽は諦めなかった。クロちゃんには更につんつんつっつかれる。とうとう俺は根負けした。


「わかった! わかったからもうつっつかないでくれよ~」


 ってことでシロちゃんの身体にへばりつくように後ろから腕を回してくっつくと、


「トブー」


 と言われた。そして助走もつけずにシロちゃんはドドドドドと音がするぐらいに勢いよく走り始めた。


「え? えええええ?」


 どゆこと? え? 川を走って渡るのか? そんな、バカなー! と思った時、シロちゃんは俺をくっつけたままバサバサと羽を動かして川の手前でぴょんと飛んだ。

 そうして川の上をバッサバッサと飛んで渡り、対岸を少しスイーッと飛んでから降りた。


「……あ……ありがと……」


 強張っていた手を放し、そっと立つ。うん、地面だ。クロちゃんもバッサバッサと羽ばたいて飛んできた。

 ニワトリスのおかげで難なく川を越えてしまった。


「シ、シロちゃん、俺、重くなかった……?」


 心配になって聞いたけど、「ンー?」だって。コキャッと首を傾げられてしまった。うん、かわいい。クロちゃんも側で同じ方向にコキャッと首を傾げている。ダブルでかわいい!

 ってそうじゃないだろ、俺。


「じゃ、じゃあ行くかー……」


 気を取り直して、シロちゃんが「コッチー」と言った方向へ進むことにした。



 その日の夜はいつも通り大きな木の上で休むことにした。

 シロちゃんの言うことが本当なら人里が近いせいなのか、毒草や毒キノコが少なくなってきているように感じられた。それでもおいしいのが採れるから文句はない。


「明日は人に会えるといいんだけどな……」


 普通の村ならいいが、隠れ里だったりすると厄介かもしれないとは思う。こっちの世界に隠れ里があるかどうかまではわからないんだけどさ。って、村と隣村以外の世界を知らない十歳の男子が知ってるわけがないわな。

 シロちゃんとクロちゃんが狩ってきた獲物や二羽が生んでくれる卵、そして森の中にふんだんに生える毒草や他の食べられる草や実のおかげで食糧事情はすこぶるいい。

 ただ、シロちゃんからすると前に狩ってきたでっかいボアが気になっているようだが……。


「誰かに解体を頼むってなると、少しは分けないといけないぞ。それでもいいか?」


 と改めて確認したらショックを受けたような顔をされた。


「オトカー、キルー」

「……でかすぎて無理なんだって。毛も毟った方がいいんだろ?」

「ムシルー」

「それがまずたいへんなんだってー」


 そのままでも食べられないわけではないが、毛を毟った方がおいしいと二羽は学んでしまったらしい。どうしても毛を毟らせたいみたいだ。困ったものである。

 脱毛魔法、誰か持ってないかな。まぁそもそもそんな魔法があるかどうかさえ知らないんだが。(大事なことなので何度でも言う)

 ついつい考えてしまう。

 明日は人里に着けるといいな。そんなことを思いながら寝た。

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