12.また狩りをしたニワトリスと十日後

 そういえばでっかいネズミモドキを解体し、内臓を出したらそこになんか小さな石みたいなのがあった。


「え? これってもしかして魔石とかいうやつ?」


 初めて見た。

 ってことはこのネズミモドキも魔物だったわけか。まぁ、魔物でもなきゃあんな上まで登ってこないか。

 ん? でも前にも見たことがあったような気がするぞ。

 とりあえず石を取り出して浄化魔法をかけ、アイテムボックスにしまった。内臓はシロちゃんとクロちゃんが食べたそうに見ていたから全部あげた。また二羽には浄化をかけないといけないな。一応少し離れて食べてもらうよう伝えた。

 昼間はあまり魔物が出ないようなのでとても助かる。それでも遭遇する時は遭遇するんだけどさ。

 二羽に浄化をかけてからまた北へ向かって歩き始めた。

 感知魔法は二羽が常時展開しているらしく、今のところ脅威となる生き物には遭遇していない。

 足元に気を付けながら歩いていて、ふと思い出した。

 魔物を解体して手に入れた石の件だ。そういえば前に二羽がボアを倒した時、でかいから村の大人たちに解体してもらったんだよな。その時石みたいなのを見た気がしたけど俺の手元には来ていない。ボア系のでかい魔物を倒したのは一度や二度ではなかった。

 あいつら、着服しやがったな~。

 腹が立ったが過ぎたことだ。それよりも怪我をしないように歩く方が大事だ。

 そういえばさっきは一頭丸々二羽にあげたけど、石はどうしたのだろうか。後で聞いてみようと思いながら、二羽が足を止めるまで一緒に進んだ。

(石のことは聞いてみたけどよくわからなかった。今度観察できたらしてみよう)



 川に沿って北の方角へ進み、約十日が経った。

 北とは言っても川に沿ってだから北東に向かっていたかもしれない。ほぼほぼ森の中を歩いていたから方角がわかりづらいのが玉にキズだった。

 しっかしこの森どんだけ広いんだよ?

 村からだと最低でも十一日は歩き続けた計算だ。子どもの足だから何とも言えないけど、一日最低でも六時間ぐらいは歩いていたと思う。おかげで足の裏にまめができた。足の裏にも靴にも浄化魔法はかけていたのと適度に休んでいたから足の裏の皮が剥けるようなことはなかった。

 まぁ物心ついた時にはずっと森でなんかやってたから、けっこう丈夫なんだろうな。

 周りの木はどんどん太くなり、巨木といってもいいような大きさの物が沢山生えている。ここまで立派だと伝説のエルフとか出てきそうでわくわくする。

 さて、この十日間だがいろいろあった。

 ニワトリスたちが狩ってくれたネズミモドキのおかげで肉は食えていたのだが、二羽はもっと肉が食べたくなったらしい。五日目に二羽は俺が朝飯を作っている間に出かけていき、すんごくでっかいワイルドボアとかいうのを連れて戻ってきた。

 連れて、というか、正確には怒らせたのかなんなのかすんごい勢いで追いかけられてきたのだ。

 ドドドドドドド……という地響きに似た尋常でない音に「なっ、なんだなんだっ!?」と周りを見回したら、その音がどんどん近づいてきてシロちゃんとクロちゃんがこちらへ向かって駆けてきた。


「えええええ?」


 ニワトリスって走る時あんな音しないよな? と思ったら後ろになんかでっかい物が見えた。


「オトカー!」


 クロちゃんが走りながら嬉しそうに俺の名を呼ぶ。いやー、やっぱうちの子はかわいいなー、じゃなくて。

 二羽は俺から少し離れたところを走っていったのだが、いきなり足を止めた。そしてその鱗のある強靭な尾を追いかけてきたボアに向かってバシーン! と叩きつけたのである。


「うわあああ……」


 ボアは吹っ飛びはしなかったがその場でたたらを踏んだ。その後も二羽はバシーン! バシーン! と尾をボアに叩きつけ、シロちゃんは飛び上がってボアの上に飛び乗り、その首に噛みついた。そしてクロちゃんはその鋭い鉤爪でボアの首をかき切ったのだった。

 ボアはしばらくジタバタしていたが、やがてその場にバタッと倒れた。そう、生き物ってはそう簡単には死なないものである。

 二羽がうまく誘導して倒してくれなかったら、俺がボアに轢かれる運命もあったかもしれない。そう思ったら背筋をゾーッと寒気が伝った。

 とりあえずボアはこと切れているようだった。

 ほっとする。


「キルー」

「オトカー」


 二羽が機嫌よさそうに俺のところへやって来た。クロちゃんなんて褒めて褒めてと言いたそうである。とてもかわいいはかわいいのだが、シロちゃんは嘴が血まみれだし、クロちゃんは鉤爪も身体も真っ赤だ。かき切った時血が飛んだのだろう。

 しかし、「キルー」と言われてもこんなでかいボアは俺では解体できない。


「シロちゃんもクロちゃんもすごいなー。でもさ……俺じゃこんなでかいの解体できないよ」


 そう告げると二羽がショックを受けたような顔をした。羽毛で覆われててもわかるもんなんだな、なんてのん気に考えているヒマはなかった。

 シロちゃんが、クエエエエーーーッッ! と叫んだかと思うと俺に突撃してきて俺をつつきまくった。


「いてっ、いてっ、痛いっ、痛いってばっ! こんなでかいの俺じゃ無理だってー! 大人とかじゃないと! いてててっ!」


 ここで逃げると更につつかれそうな気がしたから、俺は頭を隠すようにしてシロちゃんにつつかれるままでいた。

 そしたらシロちゃんも無理だと気づいたのか、やがてつつくのを止めてくれた。

 あー、痛かった。しかもシロちゃんの嘴は血まみれだったから俺まで血で汚れてしまった。


「とりあえずキレイにしよう……」


 二羽に浄化魔法をかけて、でっかいボアを見つめる。


「これ、アイテムボックスに入れていこうよ。解体できる大人を見つけたら手伝ってもらおう。その時は少し肉を分けなきゃいけないかもしれないけどさ」

「……ワカッター」

「オトカー」


 ボアはそうしてどうにか俺のアイテムボックスにしまった。

 それからも二羽はさほど自重してくれなかった。

 小さめのボアを狩ったので、それはたいへんな思いをしながら毛を毟った。いくら熱湯をかけたって毟るのはたいへんなんだぞ。しかも大きければ大きいほど必要な熱湯の量も増えるしさ。


「あー、一瞬で脱毛とかできる魔法があればいいのになー。そうすりゃ解体もけっこう楽になるのに」


 もう俺は魔法を覚えられないが、うちのニワトリスがそんな魔法を覚えてくれないだろうか。ってそんな魔法、あるかどうかもしらないけど。

 あったらいいなと切実に思ったが、それで俺がハゲにされてもかなわないので、まさかな程度で忘れることにした。



ーーーーー

明けましておめでとうございますー!

今年もよろしくですー

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