9.ニワトリスと北へ。キノコがうまい

 ……とりあえず情報が足りない。

 どこへ向かうにしても情報は大事だ。

 俺は村の北にある森に入り、そのまままっすぐ北の方角へと駆けてきた。で、今は川の側にいる。川は北から南に向かい、少し西に傾くようにして流れている。おそらくうちの村の西の外れに流れている川へと繋がっているに違いない。あの川はこれほど川幅はないけどな。このまま川に沿って北へ向かうか、東へ向かうかなんだけど。

 雑貨屋のばあちゃんの話だと、北には高い山があってそこには恐ろしい魔物が住み着いていると言っていた。東に行くとこの国の王都があるらしい。10歳の俺が王都に行って仕事とか探せるもんなのかな? そもそも王都にニワトリスって連れてっていいもんか? 殺されたりしたらやだし。でも北の魔物ってのもどうなんだろう?


「うーん……」


 自分一人では決められないので、シロちゃんとクロちゃんにも聞いてみることにした。


「なー、シロちゃんクロちゃん」


 声をかけると地面をつついていた二羽が頭を上げた。クロちゃんがこちらを見る。

 ナーニ? と言いたそうである。とてもかわいい。

 ってだからそうじゃなくて。


「家を出てきたはいいんだけど、どっちへ行けばいいと思う? 北か、東か」


 腕を伸ばして方角を指し示した。

 なんで西の方角が選択肢にないかというと、西の方角には川が流れているからだ。川幅は思ったより広く、多分5mぐらいある。流れは穏やかだが、深さもわからないので渡るのはできれば避けたかった。南へ向かったら村へ戻っちゃうしな。

 シロちゃんもこちらを見た。

 そして俺の伸ばした腕を見て、北の方角へ伸ばした方をつついた。


「北? シロちゃん的には北なのか。クロちゃんは?」


 クロちゃんも同じ腕をつついた。


「じゃあ北に行くかぁ……」


 もしかしたら意味がわからなかったかもしれないけど、最初はニワトリスナビで北へ向かって進むことにした。

 まー、特にこれといった目標も今のところはないしな。できれば冒険者になりたいから、冒険者ギルドとかあるところだといいんだけど。

 フライパンと箸に浄化魔法をかけてキレイにし、アイテムボックスにしまう。一応カモフラージュで母さんお手製のリュックも背負っているから大丈夫だろう。どうやら任意の場所にアイテムボックスの入口を出すことができるらしく、なかなかに重宝している。ニワトリスの加護、すごすぎる。

 しかもなんとなくなんだけど、ニワトリスの加護ってアイテムボックスだけじゃなさそうなんだよな……。まだ確信は持てないけどさ。

 鑑定魔法を使っていくうちにもしかしたら判明していくかもしれないし、まずは行動してみよう。


「シロちゃん、クロちゃん、行くよ~」

「ワカッター」

「オトカー」


 返事をしてくれる二羽がすごくかわいい。

 そうして俺たちは北へ向かった。



 北へ進んでいくにつれ、どんどん森が鬱蒼としてきた。ここまでは人の手が全く入っていないってことなんだろう。

 森を歩くのには慣れていた俺だったけど、それはあくまでも手入れされた森限定だったみたいだ。けっこう疲れる。

 前を行くシロちゃんが足を止めた。

 クケエエエッッ! と木の上から野太い鳴き声がした。それにシロちゃんとクロちゃんがクァアアアアアーーーッッ!! と更に大きな声で鳴き返す。それで木の上の主は黙ったようだった。

 なんか、木の上の存在感が薄くなった気がする。


「イクー」

「オトカー」


 シロちゃんとクロちゃんに促されて先を進むことにした。途中でキノコの群生地を見つけたので、そこでお昼にすることにした。


「シロちゃん、クロちゃん、ちょっと休んでいい?」

「イイヨー」

「オトカー」


 二羽も俺の側でキノコをつつき始めた。俺は見慣れたキノコ以外には鑑定をかけて調べていく。中には見た目は違っても同じキノコだったりするものもあるから難しい。俺は状態異常無効化があるからどんな毒キノコを食べてもなんともない。むしろ毒キノコの方が味わいがあってうまいぐらいだ。

 こうなってくると、毒があるからって食べられないのもったいないなとか変な思考まで浮かんでくる。いかんいかん。


「あっ、シロちゃん。それ全部食わないでくれよ~」


 うまい毒キノコは二羽が見つける方が早い。シロちゃんが俺をつつく。


「1個ぐらい食べたいじゃん」


 しょうがないわね、と言うようにシロちゃんが食べていた場所からどいてくれた。


「シロちゃん、ありがとー! 愛してるー!」


 2つばかりもらって食べてみる。うん、さすがニワトリスが真っ先に食べるだけのことはある。うまい。


「オトカー」


 クロちゃんが俺の服の袖に軽く噛みついて引っ張った。


「えっ? クロちゃんなになにー?」


 服が破れそうなので慌てて付いていくと、でっかいキノコがいっぱい生えている場所があった。


「うわ、でかっ」


 それの一つをクロちゃんがつつく。そして頭を上げ、コキャッと首を傾げた。


「え? おいしいの教えてくれるの?」

「オイシイー」

「か、かわいい……」


 クロちゃんのかわいさにやられました。思わず四つん這いになってしまう。目の前にでかいムカデが……と思ったらシロちゃんがガッと咥えた。そしてコキャッと首を傾げる。うん、かわいい。ムカデを咥えてなかったらもっとかわいい。

 どーぞ、とされそうになったので、


「それはシロちゃんが食べて」


 とお願いした。シロちゃんは頷くように首を前に動かすとバリバリと食べ始めた。

 うん……どうしても食べ物がなかったら考えるけど、見た目的に虫はあんまり食べたくないかなー。

 クロちゃんが食べていたでっかいキノコはうまかった。他の似たような見た目のキノコは別種であまりおいしくなかった。これだからキノコは難しい。

 きっと木が生えすぎて太陽の光が地面に届かないから、じめじめしててキノコ天国になっているんだな。ありがたくおいしいキノコを一部採取して先へと進むことにした。

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