でっかくてかわいい凶悪なもふもふと旅に出る

8.ニワトリスと夜逃げして一晩が経った

 月がないっていうのに、意外と森の中はよく見えた。

 餞別にと俺が使っていた裏が透けそうな程薄い毛布と、一番上の兄貴の靴をもらってきた。勝手に。

 一番頑丈そうな靴だったから履けるようになったらありがたく履かせてもらうつもりだ。俺は浄化魔法も使えるしな。

 とりあえず追手があることを想定して森の奥へ、奥へと入っていく。俺がニワトリスたちを見つけた更に奥まで。

 そういえばこの森ってかなり広いけどどこまで続いてるんだろーな?

 途中で水音が聞こえてきたので二羽に声をかけてそこまで慎重に向かい、手頃な石の上で休憩することにした。動物の皮で作った水筒には水を汲んできたけど、ここで汲めるならばありがたい。兄貴の水筒ももらってきていて、それはアイテムボックスの中に入れてある。どこまで兄貴の物を持ち出してきているんだと言われそうだが(誰に?)、せいぜい持ち出してきたのはこれぐらいだ。兄貴は嫌いだけど母さんに苦労をかけたいわけじゃないからな。

 台所にはありったけの食材を置いてきた。それから椿みたいな種から採った油も。雑貨屋のばあちゃんに聞いたら髪に塗ってもいいと言っていたから、母さんにそう言って渡したことがある。

 母さんは、


「髪に、かい? 料理に使えるものなんだろう?」


 と不思議そうな顔をして言った。

 できれば髪に塗ったりして少しでもキレイになってほしいと思ったけど、子どもが5人もいたらそれどころではなかったんだろう。

 油はできるだけいっぱい抽出して置いてきたから、少しは使ってくれるといいな。

 ま、俺一人分の食い扶持が減れば少しは楽になるだろう。

 ふーっとため息をついた。

 シロちゃんとクロちゃんが警戒しないで水を飲んでいることから、この周りには危険な生き物はいないらしいということがわかる。

 夕飯食ってきてよかった。

 水筒の水を飲み、川の水と入れ替えて浄化をかけた。これで飲める水が補給できた。

 つっても俺は状態異常無効化があるからどんな水を飲んでも腹も壊さないに違いない。でも浄化をかけると嫌な匂いなんかも消えるので積極的に使っている。

 いくら危険な生き物が周りにいなそうだといっても、警戒するに越したことはない。

 この辺りで洞穴とかを見つけていればよかったんだが、残念ながら見つけられなかった。だが一晩ぐらいなら休む方法はあるのだ。


「シロちゃん、クロちゃん、俺朝まで休みたいから、安全な木を探してもらえるかな?」

「イイヨー」

「オトカー」


 二羽は快く引き受けてくれて、バサバサと飛んで近くの木の上を調べてくれた。


「オトカー、ココー」

「わかった」


 シロちゃんが見つけてくれた木に張り付いてどうにか上っていく。真っ暗で何も見えないんじゃないかって? よくわからないけど、暗闇に目が慣れたのか意外と見えるんだよな。手探りで上り、シロちゃんがいるところまで着いた。けっこう枝がしっかりしてるし、足場っぽくもなっている。更に近くに枝が集まっているのでどうにか過ごせそうだ。

 その枝にクロちゃんがバサバサと飛んでくる。

 俺は木に浄化魔法をかけ、自分と木を草で作った簡単な縄で結んでから寝ることにした。寝転がることはできないがそれはしょうがない。


「ありがと、シロちゃん。もう寝るなー」

「オヤスミー」

「オヤスミー」


 シロちゃんは見張りをしてくれるらしい。クロちゃんは俺にぴとっとくっついてくれた。ああこのもふもふがたまらん。そうして俺はクロちゃんをだっこするようにして眠ったのだった。

 薄い毛布も持ってきておいてよかったなぁ。



 翌朝、木の下に降りると二羽が卵を産んでくれた。


「うおー、ありがとなー」


 一応森の中ということもあり、これらのやりとりは昨夜からすべて小声である。いろいろな音がし始める時間ならいいのだが、まだ静かなので。とはいえ二羽の卵を見ると腹は減ってきた。

 どーすっかな。

 川の水をフライパンに汲み、浄化をかけてから顔を洗う。直接川で顔を洗ってもいいのだが、見た目はキレイだけど寄生虫とかいないとも限らない。状態異常は無効化はされるけど寄生虫に対してはわかんないしな。

 これから一人と二羽で生きていかなければいけないのだ。絶対に病気とかかかるわけにはいかない。(しかし生まれてこの方病気にかかったことはないらしい)

 鳥の声や何かが動くような音は少しずつし始めた。森の中はまだ暗いが日の光は確実に強くなっている。シロちゃんとクロちゃんは俺の側にいて地面や草などをつついている。危険はなさそうだと判断し、二羽の卵をいただくことにした。

 この世界にサルモネラ菌がいるかどうかは知らないが、生で卵を食べている人はいなかったのでやはり焼いた方がいいだろう。

 森で採れるユーの実は砕いて搾れば油が取れる。自分で毎日卵を一個調理して食べることもあり、ユーの実はそれなりに採っていた。村の人たちも森の恵みを採ることもあるので、ニワトリスたちがそれなりに育ってからは普段村の人が入らない奥まで入って採取していたので問題はないだろう。

 しかもこのユーの実、搾った後の実も焼いて食べるとなかなかうまい。だからとても重宝している。

 俺がいなくなるとユーの実を採る人がいなくなるから母さんが困るだろうと、それだけは餞別として抽出した油とも別に多めに置いてきた。俺は森で採ればいいしな。

 さて、顔を洗う為に汲んだ水は川に捨て、フライパンに再度浄化をかけてから油を垂らして目玉焼きを作る。おいしい毒キノコも一緒に焼いたので超贅沢な朝飯になった。

 これからは毎日2個ずつ卵が食べられるなんて幸せだなぁ。

 今までは2個産まれたら1個は母さんに渡していたのだ。母さんはたまにでいいと言ってくれたけど、母さんには健康でいてほしいと思い渡していた。思えば、森で採れる食材とかも母さんに食べてほしくて採っていってたんだよな。すごく喜んでくれたし……。

 家から離れてたった一晩しか経ってないというのにしんみりしてしまった。

 地面や草をつついていた二羽が近づいてきて、シロちゃんは俺に一瞬すりっとし、クロちゃんは俺にすりすりしてくれた。シロちゃんはまた地面をつつき始めた。


「そうだよな。シロちゃんとクロちゃんがいるんだから、俺は幸せだよな」


 朝飯を食べ終えてうーんと身体を伸ばす。

 さーて、せっかく狭い世界から出てきたんだから広い世界を見に行こう。

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