7.ニワトリスが使える魔法と更に二年後
さて、俺が自分に鑑定魔法をかけていたことは前述した通りだ。
自分と言わずそれこそ目に映るありとあらゆる物にかけていたわけだが……その鑑定結果によれば、俺には生まれつき状態異常無効化(麻痺・毒・睡眠・魅了等あらゆる状態異常を無効化する。だから病気にもならない)という能力があるらしい。それは俺が触れた相手にも適応される。これは魔法とも加護とも違うものだ。
覚えている魔法は浄化魔法と鑑定魔法。そしてニワトリスの加護はアイテムボックスという便利仕様。しかしもうこれ以上魔法は覚えられないから、とにかく後は自分を鍛えていくしかないだろう。なんか便利アイテムとかあればいいんだが、そんなものはこの貧しい村では売ってないし、そもそもが買えない。
13歳まではあと5年ある。その5年間でどうにかしていくしかない。
父さんはいつまでも「2つかよ~」とぼやいていた。その度にシロちゃんにつつかれていたのだが、父さんは学ばなかった。
モリーもモリーの父さんも、魔法の数の話はしなかった。それが余計にこう、なんかキた。とはいえ、モリーに多少得意そうな顔をされたぐらいだから、父さんみたいに二羽をけしかけるわけにもいかない。(それでうちのニワトリスになんかあっても困る)
まぁとにかく、ニワトリスの加護を麻痺解除だと教会の人が誤認してくれてよかった。アイテムボックス持ちなんて知られたら商人に攫われかねない。……麻痺解除だけでも教会に攫われそうだけどな。
帰宅したら母さんは慰めてくれたけど、二人の兄は「使えないヤツ」と呟いた。シロちゃんとクロちゃんが散々二人をつつき回してくれたので、しばらく(二時間ぐらい)麻痺したまんまでいさせてやった。
「オトカはとてもいい子なんだけど……うちも貧しくてね」
帰宅した次の日、兄妹たちがいない時母さんに言いにくそうにこう言われた。
「わかってるよ、母さん。13になったら絶対に出ていくから、心配しないで」
「すまないね……出ていく時にはできるだけ物を持たせるようにするからね」
「そんなこと考えなくていいから!」
どちらにせよ俺は三男坊なんだからよっぽどの能力を持っていないと家に残れるはずもなかった。
……つっても、普通の子どもならともかく俺としては家を出られて万々歳なんだが。
何せ中身が43歳のおっさん+αなわけで、兄たちも妹たちも生意気なガキんちょにしか見えない。兄貴がバラしたせいで妹たちにも「2つ? 嘘でしょ?」とか言われるし。
あ~、来年上の妹が教会に行った後を思うと気が重い。絶対役立たず扱いされるんだろうな。ま、俺は家の仕事以外ではほとんど家にいないからいいけど。
そんなわけで、畑仕事を終えてから俺はまたニワトリスたちと森へ向かった。
人目に付かないところまで移動してから改めて自分に鑑定魔法をかけてチェックしていく。
しっかし生きている間に覚える魔法の上限って、どうやって見えるものなんだろうな? 不思議でしょうがない。
たった2つと言えば2つなんだが、浄化魔法も鑑定魔法もものすごく使える魔法だ。ニワトリスの加護でアイテムボックスも得ているので、毒のある食材(?)も取り放題である。もちろん根こそぎ取らないように気をつけてはいる。
ちなみに、シロちゃんとクロちゃんもかなり魔法は使える。威嚇という声を張り上げることで相手を硬直させる魔法が一つ。硬直は最低でも30秒ぐらい続くのでなかなか有用な魔法だろう。
そして、感知魔法。元々索敵能力が高いニワトリスだけど、その精度を更に上げる魔法のようだった。それを使って森の奥にいたワイルドボアを狩ってきたんだよな。さすがにあんなにでかいのを運ぶのは骨が折れた。
更に暗視の魔法まで持っていた。ニワトリスは夜もそれなりに見えるが、魔法を使うと昼間のように見えるみたいだった。そりゃあニワトリスには勝てないだろって思った。
最後に風魔法。ニワトリスは尾の部分が頑丈で重いので、主に飛ぶ時の補助で使っているみたいだった。普通の鳥のように飛ぶのではなく、高く跳躍する補助みたいなかんじかな。一応鳥なんだし? と試しに飛んでもらったら、10mだか20mぐらいは空も危なげなく飛べたからすごいなと思った。
ニワトリスたちはこの先も魔法を更に覚えるかもしれないが、俺はできるだけ腐らないようにがんばっていきたいと思う。
そんな風にして日々を暮らして更に二年が経過した。
上の妹は魔法を4つ、下の妹は魔法を3つ覚えるということがわかったらしい。それからだ、一番上の兄貴のあほ発言が増えたのは。
「おい、オトカ」
「……なんだよ」
「お前が13になってこの家を出てくのは大歓迎だが、ニワトリスは置いてけよ」
「……は?」
最初聞いた時は耳を疑った。コイツは何あほを言っているのかと。
「聞こえなかったのか? ニワトリスたちは置いて、出てけっつったんだ」
「……なんで?」
思わず素で聞いてしまった。
「言われなくてもわかんだろーが、それぐらい! ニワトリスの卵が食いてえんだよ、俺たちは!」
そんなに声を張り上げなくても聞こえるっつーの。下の兄貴と妹たちもうんうんと頷いている。ムカついたから、
「だから?」
と聞き返してやったら、もちろん喧嘩になった。少し離れたところにいたニワトリスたちが駆けつけてきた時には、俺は兄貴たちから逃げ回っていた。情けないと言うなかれ。殴ったら手が痛いし蹴ったら足が痛くなるのだ。妹たちはおろおろしている。そこへニワトリスたちが駆けてきて、クケエエエエッッ!! と声を張り上げた。
俺には威嚇も効かなかったが、兄妹は見事に硬直した。
30秒以上も固まっているならちょうどいいと、更につつこうとするニワトリスたちを促して森へ逃げたのだった。
それで少しは懲りたんじゃないかと思ったんだが、残念ながら一番上の兄貴は懲りなかった。
俺に言ってもだめだと思ったら、今度はニワトリスたちを捕まえようとし始めやがった。金がないからニワトリスの捕獲とか依頼しないだけで、あの目は本気だなと思った。
この三年間毎日一緒にいてくれる大事なニワトリスたちである。
誰が置いていくもんか。
さすがにこれはやばいなと思い、数日かけて準備をし、月のない真夜中にニワトリスと共に家から逃げ出したのだった。
……というのが俺たちの夜逃げまでの顛末である。
ーーーーー
やっとプロローグの場面まできたー
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