6.ニワトリスによる付き添いと魔法の数

 すでに魔法を2つ覚えている俺である。

 きっと一番上の兄貴と並ぶ5つとか、もしかしたら6つ以上魔法が覚えられるかもしれない。

 ……そんな期待を胸いっぱいに抱えていたわけですが。


「……それでは始めましょう」


 厳かに始まった祈りに、俺も手を合わせて目を閉じた。


「貴方が魔法を生涯覚えられる数は……」


 どきどきである。確か勇者とかだと20ぐらい魔法を使えるんじゃなかったっけ。


「……2つです」

「……えっ?」


 俺は耳を疑った。

 ちょっと待ってほしい。俺はすでに魔法を2つ覚えてしまっている。ってことはもうこれから1つも魔法が覚えられないってことなのか? 嘘だろ!?


「ふ、2つ、ですか?」

「はい」


 ご愁傷さまですとか言いたそうな顔で教会の人は返事をした。


「なんだってえええっ!?」


 父さんが叫ぶ。とてもうるさい。その声でほんの少しだけ冷静になれた。シロちゃんもうるさいとばかりに父さんをつつく。


「いてえっ!」


 余計にうるさくなったかも。

 シロちゃんが解せぬというようにコキャッと首を傾げた。かわいいなぁ、ってそうじゃなくて。


「お待ちください。魔法を覚えられる数は確かに2つですが、彼にはその他に加護が付いています」


 教会の人がそう言ったことで俺はギクリとした。魔法を覚えられる数だけわかるんじゃなかったのかよ? 加護が付いていることまでわかるなんて想定外だった。


「カゴ? カゴってなんだ?」


 父さんがいぶかしげな顔をする。普通は聞かないもののようだ。それより麻痺しなくてよかったな。


「加護はめったに得ることがないものの総称です。魔法の他にこの加護があることでご子息の将来は安泰でしょう。しかし……ニワトリスの加護とはどのようなものでしょうね。ご自身で何かわかりますか?」

「あー、えっとー……」


”~~の加護”とかも見えるのかよ。

 こんなことなら教会にこなければよかったと冷汗が流れる。

 俺は鑑定魔法を得てから面白がっていろんなものを鑑定していた。自分もうちのかわいいニワトリスたちも、家族も村の人も、もちろん森にあるあらゆる物に対して使いまくったのである。そうして使っていくと、最初は名前しかわからなかったものに情報がどんどんついてきた。鑑定魔法というのは魔力消費が少ないのか、俺は思う存分使うことができた。

 森でこっそり、「ステータス、オープン!」とかへんなポーズをつけて叫んだこともある。残念ながら何も起こらず、シロちゃんとクロちゃんには何してるのー? と言いたげな視線で見られた。あれはなかなか恥ずかしかった。

 あの時はぐおおおお……とあまりの恥ずかしさにうずくまったらシロちゃんにつつかれ、クロちゃんにはすりすりされた。シロちゃんの愛がちょっと厳しいです。

 じゃなくてだな。

 ニワトリスの加護である。”~~の加護”という情報は鑑定魔法をかなり使ってから最後に出てきたものだった。それなのにここの能力判別? みたいなところでもバレるとは思わなかった。でも加護の内容まではわからないらしい? いったいどういうシステムなんだろうな?


「う、うーん……」


 アイテムボックスと答えるわけにはいかなくて俺は困ったような顔をしてみせた。

 クロちゃんは俺の後ろにいて、俺を慰めるようにすりすりしてくれている。ああもう抱きしめたい。


「ニワトリスの加護だぁ!? どんだけニワトリスづいてるんだよっ、ははははは!」


 笑い出した父さんをシロちゃんがさっきよりもつつきまくる。ああ、そんなにつついたら……。


「いてっ、こらっ、痛いだろっ、ぐっ……」


 父さんはシロちゃんから逃げようとしたけど逃げられず、そのまま固まってしまった。あ、麻痺ったなコレ。


「こ、これは……」


 教会の人が目を見開いて絶句した。俺は急いで父さんのところへ行き、ポンと肩を叩いた。それで父さんが前へつんのめる。ここでコケて鼻とか打つと面倒なので支えた。


「ちゃんとニワトリスを見とけっつってんだろ!」

「父さん、あんまり言ってるとまたつつかれるよ……」


 いいかげん学ばないよなー。

 呆れたように言えば、父さんはうっと詰まった。


「そ、それなのですか? ニワトリスの加護というのは……」


 教会の人が信じられないというような顔で俺を見る。

 それって……ああ、麻痺を解除するのがニワトリスの加護だと思われたのかな? まぁつつかれたら五回に一回ぐらいは麻痺するしなー。


「……たぶん、そんなかんじです」


 そう思わせておいた方がいいだろう。俺は困ったなというように笑ってみせた。


「麻痺を解除するとは……それは素晴らしい加護です」

「あのー、すみません。うちの子は……」


 教会の人は天を仰ぎ、祈るように手を合わせた。それを見てモリーの父さんが苦笑する。そういえばモリーはまだ見てもらっていなかった。

 俺は二羽と共に避けた。


「あ、はい。どうぞどうぞ」


 モリーが一歩前に出て、緊張した面持ちで能力を視てもらった。


「貴方が魔法を生涯覚えられる数は……」


 こっちもどきどきである。


「5つです」

「よっしゃー!」


 モリーの父さんの方がグッと拳を上げた。そうだよね、5つと2つじゃえらい違いだよね。

 モリーは苦笑していたが、俺の方をちらと見てふふんと笑った。くそう。


「全く、2つじゃどうにもなんねえな。オトカ、お前は13歳になったら出て行けよ」

「……わかった」


 まぁそうだろうなと思った。どうせ三男坊だしな。

 そうして教会の人にお礼を言って立ち去ろうとしたら、呼び止められた。


「オトカ君」

「はい?」

「もし、13歳になっても仕事が見つからない時は、是非教会に来てほしい」

「え?」


 教会の人はしごく真面目な顔で俺を見た。目がなんかマジでちょっと怖い。シロちゃんとクロちゃんが俺の前に出る。危害を加えないようにと、俺は二羽を後ろから抱きしめた。


「えっと……?」

「オトカ君の加護は素晴らしい。麻痺を解除する魔法というのはあるにはあるが、魔力が尽きれば一時的に使えなくなってしまう。だが加護ならばずっと使えるのではないかな?」

「まぁ、たぶん? そうです、ね……」


 アイテムボックスとか常時展開だし、魔力は使ってないだろうしな。俺の状態異常無効化も同じだ。


「オトカ君さえよければ是非教会で働いてくれないか? もちろん待遇も約束しよう」

「その……考えておきます」


 食いつかれすぎて若干引いた。

 やんわりとお断りして、急いで出ろと促す父さんについて教会を出た。


「全く……たった2つかよ~」


 まだ父さんはぼやいていた。ぼやきたいのはこっちの方だ。腹が立ったからシロちゃんに、


「……つついてきていいよ」


 とこっそり許可を出したのだった。

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