5.ニワトリスによる護衛と野営

「……へー、ニワトリスって懐くんだ……」


 思った通り、野営地で会ったのは冒険者パーティーだった。五人いて、二人が女性という一組である。

 俺の膝に座っているクロちゃんを見てそのうちの一人の女性が呟いた。

 あの時、俺の前に無理矢理出てこようとするシロちゃんとクロちゃんをどうにか羽交い絞めにし、「だめっ! かわいいからだめっ!」と訴えた。(俺も気が動転していたらしく、何を訴えていたのかよくわからない)それで冒険者たちも気が抜けたらしい。俺はその後二羽から軽く何度かつつかれた。しょうがないだろ、だってうちの子大事だし。めちゃんこかわいいし。(大事なことなので何度でも言う)


「オトカ君は八歳なんだろう? それなのにニワトリスを捕まえるなんてすごいな」

「捕まえたんじゃないですよ。昨年ヒナのうちに拾ったんです」


 冒険者パーティーのリーダーだという男性に話しかけられて、そう答えた。正確には二羽の親からいただいたんだけど。


「いやいや、今の動きだよ。とっさの判断だってあれほどは動けないだろう」

「? そうなんですかね?」


 普段から森に行っているから体力とか瞬発力も人一倍あるのかもしれない。ニワトリスたちと一緒に森の中を駆けてるしな。ま、話半分で聞いておこう。


「おい、オトカ。手伝え」

「はーい」


 クロちゃんに膝から下りてもらい、鍋に近くの川から汲んだ水(浄化魔法はかけた)と途中で摘んできた草を入れて煮込む。クロちゃんとシロちゃんが持ってきてくれたキノコとかを鑑定し、毒以外の物を鍋に突っ込んだ。(毒キノコは二羽に各自食べてもらう)味付けは森の奥で見つけた岩塩と胡椒の実である。鑑定魔法とかマジパない。


「……ニワトリスが食べられる物取ってきてくれるんだねー」

「はい」


 ニワトリスがいるからそれほど近づいては来ないけど、先ほどの女性は興味津々だった。


「スープできたよ」

「おー、オトカがいると便利だな~」


 父さんは干し肉と硬いパンを渡してくれた。このパン、そのまま食べると歯が折れそうになるんだよな。

 それを作ったスープに浸しながら食べる。


「オトカが一緒でよかったなー」


 モリーの父さんがにこにこしながら言う。隣村には物々交換に行くことがあるらしいけど、その道中で食べるのは基本干し肉と硬いパンだけだという。俺は浄化魔法が使えるから川で水が汲めると聞いて鍋を持参したのだ。ちなみに浄化魔法は母さんと妹たちも使える。男はあまり覚えないものだと聞いた。それで一番上の兄貴にからかわれたりもしたけど、絶対使えると便利だよなぁ。


「このスープ、すごくおいしい……」


 モリーが感動したように言う。まぁ普通は味付けっつったら塩だけだもんな。胡椒は前世の世界でも昔は金と取引されてたぐらいだし。


「それはよかった」


 クロちゃんは俺の側で座っている。シロちゃんは自分で餌を探しに行ったみたいだ。クロちゃんは自分で時々毒キノコを出して食べている。手がないのに器用だよなー。

 俺達の食事が終わった頃、シロちゃんが嘴を真っ赤に染めて戻ってきた。なんか食ってきたんだなと苦笑する。


「シロちゃん、おかえり。キレイにしよう」


 寄ってきたシロちゃんに浄化魔法をかけると羽をバサバサ動かして喜んでくれた。かわいい。

 ごはんを食べている辺りからずーっと冒険者たちからの視線は感じていたけど敢えて無視した。分ける程の量はないし、冒険者たちからしたらうちのニワトリスも獲物扱いだろうしな。

 夜は二羽が、


「ミハルー」

「オトカー」


 というので任せ、荷車の上でぐっすり寝た。ニワトリスは何日も寝なくてもけっこう平気なものらしい。さすがは魔物である。

 翌朝、起きた時には冒険者たちが出かけるところだった。依頼で、この野営地から南の村まで行くらしい。ここから南というと大人の足でも丸一日はかかるという場所である。冒険者ってたいへんなんだなと思った。


「また会えたらいいわね」


 そういう女性に手を振って見送り、また朝ごはんにスープを作って出発した。


「いやー、オトカのスープはうまいな。温かいものが食べられるなんて最高だよ」


 モリーの父さんが喜んでくれたようでよかった。さすがにあんな歯が折れそうなパンをそのまま食べるのはごめんだったから、鍋を持参すると言い張ってよかった。

 隣村には昼過ぎに着いた。

 荷車を一番安い宿に預け、どきどきしながら教会へ向かう。

 教会に十字架とかはかかってなかった。壁が白っぽく塗られている、屋根の高い建物である。屋根の色は白ではないようだった。茶色かな?

 入口に白っぽい服を着た人がいたが、俺たちを見ると目を見開いた。


「な、何故ここに魔物が……」

「俺が飼ってるニワトリスです。手を出さなければおとなしいのでよろしくお願いします」


 一応こちらの村の入口でも困った顔はされたけど、俺のこの無邪気(?)な笑顔で乗り切った。俺の膝にクロちゃんが座ってもふっとしていたからかもしれない。

 俺の少し前を歩くクロちゃんを後ろからそっと抱きしめる。ほら、おとなしいでしょというアピールをする。

 教会の入口にいた人は目を白黒させた。


「飼っている、んですか……? ですがさすがに教会の中には……」

「僕と一緒じゃないと、誰かに狩られちゃうかもしれないから……だめですか?」


 お願い、というオーラを出して言ってみる。父さんたちが顔をスッと逸らしたけど、見なかったフリだ。


「き、聞いて参ります……」


 さすがに判断はできなかったらしく、その人は慌てて中に入っていった。

 しばらくして、ちょっと偉そうな人と一緒に出てきた。


「おお……本当にニワトリスですな」

「はい、ヒナの時から一緒に暮らしているんです。僕……この子たちと一緒じゃないと」


 必死に純真な少年アピールをしてみる。クロちゃんとシロちゃんが不思議そうにコキャッと首を傾げた。その態度はどうかと思うぞ。かわいいけど。


「ヒナからですか……それならばいいでしょう。八歳になった子どもの能力を見るのは国が定められたことです。ですが、必ずおとなしくさせてください」

「わかりました。シロちゃん、クロちゃん、絶対に俺の父さん以外つついちゃだめだからねっ!」

「ワカッター」

「オトカー」

「だから、なんで俺はいいんだよっ?」


 一人ぐらいつつける相手がいないとストレス溜まるかもしれないだろ?

 教会の人が苦笑した。


「ははは……なかなか肝が据わった息子さんですな。どうぞこちらへ」


 そうして俺たちは教会へ足を踏み入れたのだった。

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