4.ニワトリスがかわいいのと隣村への道程(みちのり)
子どもたちの能力を視ることは国に義務づけられているので、必ず教会へ行かなければならない。
しかし俺が住んでいる村に教会はない。教会は、東の方角へ休まず歩いて半日以上いった先にある隣村にはあった。
つまり、子どもの能力を視る為には泊りがけで出かけないといけないのだ。
俺の住んでいる村で今年八歳になったのは俺ともう一人の少年、モリーだけだった。俺たちを乗せた荷車を親父たちが引き、えっちらおっちらとがんばって隣村まで行くのだ。村に馬もいるはいるのだが、隣村までの道には魔物が出ることもある。大事な馬をそんなことには使えないというのが村の大人たちの判断である。
ま、うちの村は本当に貧しいからしょうがないだろう。
「ってことだから、シロちゃんとクロちゃんはどうする?」
「イクー」
「イクー」
二羽のニワトリスはバッサバッサと羽を動かして同行することを主張してくれた。かわいい。
「ありがとなー」
「イッショー」
「オトカー」
あんまり嬉しくて二羽をそっと抱きしめた。でもシロちゃんはくっつかれるのがあまり好きな子ではないから、反射的に俺をつつく。ちょっと痛い。でも俺は麻痺しないからへーき。クロちゃんは嬉しそうに目を細めている。ああもううちの子かわいい。たまらん。
思わずなでなでしてしまい、またシロちゃんに軽くつつかれてしまった。ごめん、でもかわいい。
「……ニワトリスは荷車には乗せないぞ」
父さんが嫌そうに言う。
「乗せなくてもいいよ。父さんにはもう卵はあげないでって母さんに言っておくから」
ニワトリス自身が荷車に乗るかどうかはともかく、そんなことを言う父さんにはもう卵はあげなくていいと思った。
「なっ……そ、そんな殺生な……」
父さんが頭を抱えた。俺は毎日二羽から卵をもらい、1個は母さんに渡している。母さんはその卵をとても喜んで受け取ってくれる。
母さんはまず俺に礼を言い、それから二羽に礼を言う。そうすると二羽も嬉しそうに目を細めるから、やっぱ母さんはすごいなって思う。
でもなぁ、他の兄妹たちはなぁ……きっと父さんの真似をしてるのかな。困ったもんだ。
「リュウダー、オトカのニワトリスは獲物も捕ってきてくれるんだからいいよいいよ」
モリーの父さんがにこにこしながらそう言ってくれた。
「だがなぁ、けっこうでかいだろう? かなり重いんじゃないか?」
父さんが渋ってそう言うと、シロちゃんが途端に父さんをつつき始めた。失礼なことを言われたってわかったんだろうな。じゃなくてー。
「シロちゃん、つついちゃだめだよー」
「いてっ、いたっ、あいてて、あー……」
何度もつつくから父さんの身体が麻痺してしまったみたいだ。慌ててシロちゃんに抱き着いて止め、父さんにポンと触れる。それで父さんは動けるようになった。うん、この能力は本当にチートかも。でもこれ、魔法じゃないんだよな。
一応鑑定魔法については家族にも教えていない。(浄化魔法は前世の記憶を取り戻す前に覚えたから家族には言ってしまった)なんとなく鑑定魔法って普通は持ってないような気がして、普段家で使うものでもなさそうだしと言っていないのだ。ま、俺自身は森で重宝してるけど。
「つつかれたら運べなくなるだろーが!」
父さんが怒っている。怖がらないだけ大物かもしれない。
そんなこんなでああでもないこうでもないと言っていたが、最終的にはニワトリスも荷車に乗るなら乗せて隣村まで向かうことになった。ちなみに、うちのニワトリスは俺がだっこできるぐらいなのでそれほど重くはない。重くてもせいぜい10kgぐらいだと思われる。俺より少し背が低い程度だから元の世界のニワトリより重いのはしょうがない。
翌朝、ガタゴトと揺れる荷車に乗り俺とモリーは隣村へドナドナされることとなった。
シロちゃんは基本荷車には乗らないらしく、荷車の横をトテトテと歩いている。クロちゃんは荷車に乗った俺の膝にもふっと座った。かわいいし柔らかくてついなでなでしてしまう。うちのニワトリス最高。
「……そうしてるとかわいいね」
モリーがおそるおそる声をかけてきた。
「うん、うちのニワトリスはとてもかわいいんだよ。シロちゃんもクロちゃんも、モリーとモリーの父ちゃんはつつかないようにしてくれなー」
「オトカ! 俺のこともつつかないように言ってくれ!」
父さんからさっそくツッコミが入った。
「荷車を引いてる時は父さんのこともつつかないようにしてくれなー」
「ワカッター」
「オトカー」
シロちゃんはちゃんと返事してくれるんだけど、クロちゃんの返答はどこまでもオトカだ。どんだけ俺のことが好きなんだとまた撫で撫でしてしまう。それとも返事が「オトカ」だと思ってんのかな。かわいいからいいけど。
ニワトリスの羽毛はとても柔らかい。この世界にはいないらしいけど、俺が想像するコカトリスとかのモンスターって羽も硬そうなんだよな。うちのシロちゃんとクロちゃんはよく羽づくろいしていて、それなりに汚れると浄化魔法をかけろとねだってくる。かわいいから惜しみなくかける。おかげでうちのニワトリスたちはいつも清潔だ。
「荷車を引いてる時以外もつつかないように言えよ!」
父さんは一番上の兄貴と同じくいきなりニワトリスを捕まえようとするからアウトだ。俺のかわいいニワトリスたちは俺の言うことを大体聞いてるから舐めてんのかな? 何度も言うけどニワトリスって魔物なんだけど?
ガタゴトと揺れる道を父さんたちが荷車を引いていくから進みはゆっくりだ。確かにこれだと泊りがけなのはしょうがないよな。それでもほぼ一日中荷車を引ける体力はすごいと思う。
途中休憩を取った時にニワトリスたちと食べられる草などを摘んだ。おいしい毒草などはこっそり摘んでアイテムボックスにしまった。これらは俺とニワトリスしか食べられないし。いいおやつだ。
暗くなる前に隣村との間にある比較的広い野営地に着いた。そこには冒険者と思しき人たちがいて、ゲッと思った。
「えっ? ニワトリスっ?」
皮鎧を着た人たちがとっさに武器を構える。敵意を向けられたニワトリスは一気に戦闘態勢を取る。俺は慌ててニワトリスの前に走り出て両手をバッと広げた。
「こ、これは俺が飼ってるニワトリスですっ!」
大声で叫ぶ。
絶対に攻撃なんかさせないっ。
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