3.ニワトリスが卵を産んだのと魔法
子どもの能力は無限である。
俺が住んでいる国では国を挙げて子どもの能力の発現を助ける為、八歳になると教会でその能力を視ることができる。
教会で主に視られるのは生涯魔法をいくつ覚えられるかという能力だ。
どういう原理でそれがわかるのかは理解できないが、それが子どもの将来を決めると言っていい。(小国だから有能な人材は国に縛り付けておきたいのではないかと俺は勝手に思っている)
普通の人は生涯で魔法を三つまたは四つぐらい覚えられるものだという。うちは貧しいから使える魔法は多ければ多いほどいい。一番上の兄貴は五つ魔法が覚えられるということがわかり、親はとても喜んだ。昨年二番目の兄貴も能力を見てもらったら魔法が四つだった。
八歳になった俺の能力はどうだろう?
さて教会へ行く前に、俺のかわいいニワトリスの状況についても整理しておこう。
ニワトリスというのは魔物で、前世の俺がニワトリと認識していた生き物にとてもよく似ている。ニワトリの魔物というと真っ先にコカトリスを思い浮かべるが、獲物と見なした物を石化させたりも、尾が蛇だったりもしない。なんというか、強いけどニワトリが恐竜化したらこうなるのかな? って思うような魔物だった。
コカトリスより断然かわいいと思うし、俺によく懐いているので仲良く暮らしている。
そんなニワトリスのヒナをその親? からもらい受けてから約1年が経った。
ヒナはニワトリスとなった。体高が約1mぐらいになり、カタコトだけどしゃべるようになった。灰色っぽかった尾は鱗のある黒っぽいそれとなり、成鳥のように長く凶悪である。シロちゃんは真っ白いニワトリスになり、クロちゃんは真っ黒いニワトリスになった。
俺にはかわいいニワトリスたちだけど、雑食で、草だけでなく虫も食べるしたまに他の魔物も狩る。おかげで我が家の食糧事情は一気に改善した。
狩った魔物は村の人たちにも一部提供したから、ニワトリスたちは怖がられながらも村で一応受け入れられた。
しかもこの二羽、メスだったらしくうちに来て半年を過ぎた辺りから卵を産むようになった。
それも、こちらで食べられる一般的な卵(ガーコ産)より二回りぐらいでかい。
それに狂喜したのはうちの家族である。
反射的に卵を取ろうとした家族はシロちゃんとクロちゃんにつつきまくられた。それは妹たちも同様だった。
「いたーい! お兄ちゃん、ニワトリスを止めてよ!」
一番下の妹が涙目になったけど、いきなり取ろうとした奴が悪いと思う。
俺の妹たちは年子で、それぞれ7歳と6歳だ。最近かなり口が達者になってきてあんまりかわいいとは思えない。え? 妹なんだからかわいがれって? 年が近い兄弟なんて反発するもんだろ。
まぁ俺は43歳だった自分を覚えているから、適当にあしらってるけどな。ちゃんと兄ちゃんとして手加減はしている。
「勝手に卵を取ろうとするからいけないんだろ?」
一番つつかれた長兄なんかまた動けなくなっている。しょうがないからポンと肩を叩いて麻痺を解除してやった。
「ぶはー! オトカ、卵を寄こすようにニワトリスたちに言え!」
ずっと身体が動かなくてもよかったんじゃないか?
「そうよそうよ!」
妹たちが兄貴に追従する。
今まですごく怖がって、かわいくないとか文句を言っていたクセに卵を産むとわかった途端関わってこようとするとかありえない。
シロちゃんは足で器用に卵を転がし、俺の足元に持ってきた。クロちゃんもそうしようとしている。クロちゃんは細かい作業がちょっと苦手だ。そんなところもかわいい。
「シロちゃん、クロちゃん、ありがとなー」
卵をありがたく受け取ってカバンに入れた。
「オトカ! 卵を独り占めする気か!?」
兄貴の目が血走っている。なんか怖い。
「独り占めも何も……シロちゃんとクロちゃんは俺のニワトリスだし……」
「イナガ、ナーオ、いいかげんにしな!」
見かねた母さんが声をかけてきた。
「でもさぁ……」
「お兄ちゃんだけずるい……」
兄貴と妹が拗ねた顔をする。なんつーかいいかげんうんざりしてきた。
母さんが困ったような顔をした。
「オトカ。ニワトリスの卵は貴重品だって知ってるかい?」
「あー、うん。聞いたことはあるよ……」
そういえば冒険者とかがたまに村に来て、依頼だとかなんだとか言ってニワトリスを森の奥に狩りにいくことがあった。ニワトリスを狩るのもそうだけど、卵を取ってくる依頼というのは難易度が高いらしいなんて聞いたことはあった。
それに、ニワトリスに限らず卵は大事だ。村では共同でガーコを何羽も育てている。ガーコというのはアヒルみたいな鳥で、二日に1個卵を産む。その卵は村の家庭に順番で回ってきて、大体十日毎に2個もらえるのだ。
十日で、7人家族に卵が2個。どれほど貴重な物なのかわかろうというものだ。
「もちろんそれだけじゃなくてね、あたしたちもニワトリスの卵は食べてみたいのさ。2つとも寄こせなんて言わない。たまに1個、家族に分けてもらえるようにニワトリスに頼んでみてくれないかい?」
ニワトリスに頼む、という言い方はいいと思った。
俺ももしニワトリスたちがいいと言ったら分けるのはかまわないと思う。毎日2個卵を食べられるのは嬉しいけど、兄弟に睨まれながら独占するというのはさすがにいたたまれない。
「シロちゃん、クロちゃん」
「ナーニ?」
「オトカー」
シロちゃんがコキャッと首を傾げ、クロちゃんが俺を呼ぶ。
「さっきもらった卵なんだけど、1個家族にあげてもいいかな?」
シロちゃんはじっと俺を見た。そして側にいる俺の母さんを見る。そうしてから首を頷くように動かした。
「イッコー」
「オトカー」
「タベルー」
「うん、ありがとう。1個は俺が食べるよ。もし卵を産んだら、これからもたまには家族にあげてもいいかな?」
「イイヨー」
「イイヨー」
ニワトリスたちがそう言ってくれたことで、母さんはとても喜んだ。
「ありがとう、シロちゃんクロちゃん! もちろんオトカもね!」
母さんだけはニワトリスたちを怖がらないで、先に「触ってもいいかい?」と聞いてから二羽を撫でたりすることもある。だから二羽も母さんだけは認めていた。
俺はカバンから1個卵を出し、母さんに渡した。もう1個はフライパンを借りて目玉焼きにした。卵1個がけっこうでかかったので、目玉焼きもそれなりにでかかった。兄貴と妹が羨ましそうに見ていたから、自分でフライパンは買わないといけないと思った。森で薬草とかを見つけて雑貨屋で売ればフライパンぐらい買えるかもしれない。
ニワトリスが卵を産むことは村中に知れ渡ったが、獲物を時折村の人たちに提供しているということもあり、十日に2個ガーコの卵をもらうのは継続となった。よかったよかった。
八歳になり、俺は浄化魔法の他に鑑定魔法というのも手に入れていた。魔法2つ目である。このままいけば兄貴みたいに魔法5つとか覚えられるんじゃね? と思っていた。
そう、この時までは。
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