2.ニワトリスの名づけとチート

 毒キノコは全部ニワトリスのヒナにあげた。

 魔物には毒は効かないって聞いたし。

 ヒナたちは嬉しそうにそれらをガツガツと食べている。

 ……状況を整理しよう。

 森の奥に入ってしまい、ニワトリスのヒナを助けた。そして何故かニワトリスの大人からヒナを譲り受けた。

 育てるって言ったら、アイテムボックスなるものをもらった。きっと魔法の一種だな、これは。

 んで今。

 俺は生まれる前の記憶を一気に思い出した。

 なんだこのジェットコースターに無理矢理乗せられた感。あ、ジェットコースターってのも多分この国にはないな、うん。

 俺は生まれる前、別の世界の日本とかいう国の会社で働いていたサラリーマンだったらしい。43歳、男性、独身。趣味は読書。つってもライトノベルを読み漁ること。そのライトノベルの原作がアニメになったのを見ること。

 それがどういうわけかとある村の貧しい家の三男坊に生まれ変わった。日本では黒髪黒目。今は茶髪茶目というんだろうか。顔は川とかで映して見るぐらいだけど、地味だけど西洋風っていうのかな。そんなかんじだ。

 ラノベを読み漁っていた俺からしたら、これって絶対異世界転生だなと思う。

 元いた世界には魔法もなかったし、魔物もいなかった。

 しっかし前世とやらを思い出したところでできることなんかない。せいぜいニワトリスから譲り受けたっぽいアイテムボックスとやらを確認するぐらいだ。

 ヒナはまだ毒キノコを食べている。よっぽどおいしかったんだろう。


「……ん?」


 なんか、ヒナが食ってるの以外の毒キノコも消えた。

 じーっと見ていると他の毒キノコも姿を消す。

 これは食べてないな?


「こら、食べないなら出しなさい」


 ヒナはビクッとした。こっちの言っていることがわかるみたいだ。頭いいな。

 ヒナたちは手もないのに毒キノコをいくつも出した。しぶしぶというかんじである。やはりニワトリスはアイテムボックス持ちらしい。これは魔法……とは違うものだな。そういうのを持っているのが当たり前の魔物なんだろう。


「素直に出してえらいな」


 ヒナを撫でたらつつかれた。何度もつつかれて冷や冷やしたが、身体が動かなくはならなかった。もしかして身体が動かなくなるのは成鳥につつかれた時なんだろうか。ヒナの嘴でつつかれても大丈夫なのかなと思った。


「餌はー、森に来ればいいから問題ないな。うまそうなキノコを採って帰ろう」


 カバンにヒナを入れ、毒キノコはアイテムボックスに入れた。アイテムボックスの大きさとか、中は外と同じように時間経過するのかどうかとか今度じっくり調べよう。時間経過とかないと楽でいいんだが。

 ヒナたちがカバンから顔を覗かせた。

 なんつーかもう、すっごくかわいい。


「あ、そうだ。名前をつけないといけないな」


 つぶらな瞳を見て考える。黄色いヒナは、多分大人になった時さっき見た真っ白いニワトリスみたいになるんだろう。黄色いヒナと黒いヒナを見て閃いた。


「君はシロちゃん、黒い君はクロちゃんでどうかな?」


 安易なネーミングだと思ったけど、その方がわかりやすいし呼び方としてもかわいい。


「シロちゃん、クロちゃん。うん、かわいいじゃないか」


 ヒナを撫でるともうつつかれなかったから、名前を受け入れてくれたのだと思う。それにしても手触りがいい。いくらでも撫でていられるかんじだ。

 そうして食べられる草や木の実などを籠に入れ、やっと帰路についたのだった。


「……おい、オトカ。それはなんだ?」


 ニワトリスのヒナたちはさっそく一番上の兄に見とがめられた。


「ニワトリスのヒナだよ。俺が飼うことにしたんだ」

「うちは俺たちが食うのにも困ってるっていうのに、そんな魔物を飼うだと!?」

「この子たちの餌は俺が探してくるよ。家のごはんは何もあげなくて平気だし」

「そんなこと言って、畑を食い荒らしたりしたらどうするんだ!?」


 確かにその懸念はないとはいえない。


「シロちゃん、クロちゃん、俺が食べていいよって言ったの以外は食べないでもらえるかな?」


 二羽はピイピイと鳴いた。わかったと言ってくれたみたいだった。


「大丈夫だと思うよ」

「オトカ、その二羽が何かした時の責任は取れるのかい?」


 母さんに心配そうに聞かれ、首を傾げた。食べ物なら森から取ってこれる。ただ、危害を加えたとなると厄介だなと思った。

 ヒナたちは俺を見て、同じようにコキャッと首を傾げた。それを見た母さんは一瞬で陥落したらしい。

 即オチってやつかな。いや、それはエロいやつか。俺はいったい何を言っているのか。


「ちゃ、ちゃんとオトカが面倒を看るんだよ……」


 と言って後はもう何も言わなかった。ニワトリスのヒナは本当にかわいい。

 ちなみに、一番上の兄貴はヒナたちにちょっかいをかけてつつきまくられた。それで身体が動かなくなったりしたので、慌てて兄貴に触ったら兄貴はすぐに動けるようになった。


「……?」


 ヒナの嘴にも成鳥と同じような効果があるみたいだ。

 これは麻痺なんだろうか。俺は前世読んだラノベの知識からいろいろ考えてみることにした。

 その結果、俺は毒が効かない体質ではなく麻痺なども含む状態異常を無効化する体質を持っていることがわかったのである。

 状態異常無効は嬉しいけど、なんてチートなんだ。しかも俺が触れた相手にもそれは適用されるみたいだし。

 そりゃ病気にもかからないはずだよ。

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