1.ニワトリスとの遭遇と異世界転生

 俺、ことオトカがうちのかわいいニワトリスのシロちゃんクロちゃんと出会ったのは偶然だった。

 七歳の春、俺はいつも通り村から少し離れたところにある森に足を踏み入れていた。

 この森、浅いところはいいんだけどちょっと奥に入ると魔物が出てくる。だから木の実とか、食べられる草を採ることはできるけど奥には入らないように言われていた。

 その日も俺は草やキノコを求めて森に入った。

 うちは貧しい七人家族だ。俺は五人兄妹の三番目。上に兄貴が二人いて、下に妹が二人という一番ほっておかれるポジションである。(これは俺の考えだ)

 食事は貧しいせいで量は少ない上に一日二回だ。(食事が一日二回なのはこの辺りでは普通)それだけではとてもおなかいっぱいにならないので、畑仕事を終えた後はいつもこうして森に来ている。

 食べられる木の実とか草とかキノコとかは、村の雑貨屋を営んでいるばあちゃんから教えてもらった。それでもキノコは失敗することが多いから、今は俺だけが食うことにしている。食べられる草を持ち帰れば家族に喜ばれるし、森に遊びに来ていることも容認されるから食糧探しは大事だった。


「あ、あのキノコうまいんだよな」


 今日は村の人が絶対に食べないキノコを見つけた。なんで食べないかって? 毒があるからだよ。

 でも俺は毒が効かない体質みたいで、何を食っても腹を下したこともないし、病気にかかったこともない。とにかく丈夫なのが取り柄だった。

 だから毒キノコとか毒がある食べ物は俺専用の食糧なんだよな。あ、森の魔物も毒有りのは食べられるらしいけど。

 虹色に光るキノコを見つけて、採る。その先にも点々と生えているのを見つけたからつい普段は入らないような場所まで入ってしまった。

 虹色の毒キノコが沢山採れたーと思った時、俺はやっと自分がまずいことをしたということに気づいた。


「あ、やべーかも……」


 この辺て確か、なんかの魔物のナワバリなんじゃ? と思った時、少し離れた木の上から何かがポスポスッと落ちてきたのが見えた。

 声が出そうになったけどどうにか堪える。

 何が落ちたのだろうとその先を見れば、羽毛のある小さな生き物の姿が見えた。

 一瞬ガーコ? かと思った。でもガーコは魔物じゃないし、こんなところにいるはずは……と思っていたら、小さな生き物はジタバタして体勢を整えたみたいだった。

 ガーコのヒナに見えるけどガーコではなさそうだ。何故ならあの二羽のヒナには灰色、というか黒っぽい尾が見える。

 ってことは、ニワトリスかもしれない。

 黄色と黒のヒナは辺りを見回した。

 ニワトリスは魔物で、その卵はおいしいらしいけどけっこう強いからうちの村の大人程度では歯が立たないと聞いている。弓で狙っても、あの羽毛の下は硬くて矢がなかなか刺さらないらしいし、動きも素早い。大人のニワトリスだと体高は村の大人程もあり、ギザギザの歯と鋭い鉤爪、そして長い尾で攻撃してくるからとても危険だと聞いたことがある。しかもその嘴でつつかれると身体が動かなくなったりもするんだとか。

 ヒナがいるってことはニワトリスの大人も近くにいるんだろうし、どうにかして逃げないとなと思った。

 でもあのヒナの動きとかかわいいな。もふもふしてるし……。

 ああっ、尾をうまく振れなくてこけた。ピィピィ鳴いて怒ってる。超かわいいんですけど。

 そんなことを思いながら木の陰からヒナたちを見ていたら、そのヒナを狙っている存在に気づいた。

 ヒナたちの後ろから大きな黄土色っぽいヘビが近付いている。あのヘビは魔物じゃないけど、魔物の子どもぐらいなら簡単に飲み込めそうな大きさに見えた。

 ニワトリスは魔物だし、こういうのは弱肉強食だってわかってるけど……でも。

 俺は自分の周りに石がいくつか落ちているのを確認した。今日は弓は持ってきていないけど、物を投げてうまく命中させるのは得意だ。大きめの石を握り、ヘビの頭に落ちるように距離を測る。

 一回で決めないとあのヘビはニワトリスのヒナを飲み込んでしまうだろう。

 的であるヘビの頭をよーく見て石を振りかぶり勢いよく――投げた。

 果たして、石はうまくヘビの頭に当たった。勢いもよくついていたらしく、頭がそのまま地面に落ちる。(取れたわけではない)その身体はぐねぐね動いていたが、もう大丈夫だろうと思った。

 ほっとした途端、ピイピイピイとヒナたちが大きな声で鳴き始めた。

 ええええ、と思った。

 バサッバササッと音がする。

 ヒナのいる地面の上の木から、でっかいニワトリスが羽ばたきながら降りてきた。

 俺死んだ、と思った。



 せっかくヒナを助けたけど、そのヒナの餌になっちゃうのかへへへーと思ったのだが、なんとニワトリスはそのヒナたちを咥え、俺の目の前にボスボスッと落とした。


「うわわっ!? な、何するんだよっ?」


 思わず文句を言ってしまう。こんなにかわいいのに。

 俺は慌ててヒナたちを腕に抱えた。ヒナも抗議するようにピイピイと鳴いている。つつくなつつくな痛いって。


「オマエ、ニンゲン」

「え? あ、うん……」


 目の前にいるでっかいニワトリスがしゃべった。

 ニワトリスってしゃべるのかと感動すら覚えた。

 じゃなくてさぁ。

 目つきはとても鋭い。


「オマエ、ヒナ、タスケタ」

「アッ、ハイ……」


 見てたんですね。じゃあなんで助けなかったんだよー。俺、泣きそうである。


「か、返します……」


 腕の中のヒナを差し出そうとしたら、ヒナはまたピイピイと鳴き、ニワトリスは首を振った。


「オマエ、ヤル」

「えええ?」

「クウ、ソダテル、オマエ、オモウ」

「えっ、そんなー!?」


 食ってもいいとかどういうことー?

 頭の中がぐちゃぐちゃだ。だけどこれだけは言わなければいけないと思った。


「食べない! 絶対に食べない! ちゃんと育てるよ。こんなにかわいいんだから!」


 するとニワトリスは満足そうに首を前に動かし、俺の額を嘴でつついた。

 え? つつかれたら身体が動かなくなるんじゃ……と思った時、頭の中にアイテムボックスという言葉が浮かんだ。


「……え?」

「タッシャ、クラセ」


 ニワトリスはそう言うと、バサバサと羽ばたいて森の奥へと飛んでいってしまった。


「えええええ……」


 腕の中のヒナたちを見る。一羽は黄色くて、一羽は黒い。両方ともなんか灰色というか黒に近い色の尾があるけど、とてもかわいかった。そのヒナたちがじーっと俺を見上げている。


「ニワトリスって何食うんだ? このキノコとか? ってさすがにだめかー」


 と虹色のキノコを取り出したら、ヒナたちは跳びついて俺から奪い、ガツガツと食べ始めた。


「はは……さすが魔物。毒キノコも食べるんだなぁ」


 名前決めないとな、と思った時、突然ひどい頭痛に襲われて俺はその場にうずくまってしまった。

 もう、なんなんだよいったい。

 なんか、ラノベみたいな展開だな。



 ……え? ラノベってなんだ?

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