異世界旅はニワトリスと共に

浅葱

プロローグ~ニワトリスと駆ける

――夜逃げするしかない。


 それが十歳になったばかりの、俺の出した結論だった。


 しかし夜逃げするとなると準備がいる。食いもんは森に入ればどうにかなるとして、飲み水は……川の水に浄化魔法をかければいいか。となると必要なのは火種と服、それからいくらでも駆ける為の靴だな。俺が使っている薄い毛布も持っていこう。

 獲物解体用のナイフもあるし、砥石もある。火種は……火打石もくすねて行けばいいか。


「いてぇっ! このニワトリスめっ、いいかげん俺に懐きやがれっ!」

「ヤダー」

「オトカー」


 ニワトリスは背後からガバッと捕まえようとしてきた俺の兄貴に気づき、尾でバシバシと叩く。あれでもかなり手加減してるんだよな。

 ……うちの兄貴は相変わらずバカだ。俺の大事なニワトリス(ニワトリに似た魔物)を捕まえようとするとか何考えてんだ。ただまぁバカだけど長男だし、魔法は五つも覚えられるらしいから家を継ぐのには何も問題がない。俺のすぐ上の兄貴も魔法は四つ覚えられるみたいだから将来安泰だよなー。

 ニワトリスたちは兄貴をつつき始めた。


「シロちゃん、クロちゃん、つつかないでやってよ。……面倒だから」

「いてっ! か、身体がっ……」


 すでに俺の身長に迫るぐらい成長している白いのと黒いニワトリスに声をかける。

 そしてニワトリスにつつかれて身体が麻痺した兄貴の肩をポン、と叩いた。


「おおっ? わぁっ!」


 麻痺した身体を無理矢理動かそうとしていたせいか、兄貴は麻痺が解除された途端にこけた。ドダーン! と派手な音を立てて、兄貴は畑に顔を突っ込んだ。受け身ぐらい取ってほしい。

 ニワトリスの嘴につつかれると最低でも五回に一回は麻痺状態になるのだ。

 兄貴は顔を上げてべっべっと土を吐き出すと、忌々しそうに俺を睨んだ。汚くてやだなぁ。


「オトカ! ニワトリスの躾ぐらいしっかりしろ!」

「躾って……いきなり捕まえようとする人がいたら攻撃するか逃げるのは当たり前じゃないかな?」


 首を傾げる。ニワトリスたちも俺の真似をしてコキャッと首を傾げた。身長は俺よりちょっと低い程度だけど、そういう仕草をするととてもかわいい。嘴の中には鋭利なギザギザの歯があるんだけどね。さすがは魔物だ。


「お前ら首傾げるんじゃねえ! いいかげん俺が主人だって言い聞かせろと言ってるんだ!」

「……ニワトリスは自分が認めた相手しか主人とは認識しないって知ってるはずだよね?」


 元々魔物だし。元々じゃなくても魔物だし。(大事なことなので二度言いました)

 家の陰から父さんとすぐ上の兄貴が顔を覗かせてこちらの様子を窺っている。それらの目もまた、俺に懐いているでっかいニワトリスを狙っているのはわかっている。なにせ毎日卵を産むし。

 ……そろそろ潮時かな。

 十三歳になったら家を出ていくようには言われているから、それまでは家にいようと思ったんだけど。

 俺のかわいいシロちゃんとクロちゃんは絶対に渡せないし。

 残念に思いながら数日かけてこっそり準備をし、月のない真夜中、俺はでっかいニワトリス二羽と共に家を出たのだった。



ーーーーー

カクヨムコン9に参戦します。よろしくー

FFのとは別の独自設定ですー


本日は後ほどもう1話上げます~

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