4話 面倒な亀

 俺が今通っている千葉県立四葉よつばきた高校、落ち着いた校風に魅力を感じて受験したものの俺の周りは落ち着き過ぎている気がしていたがそんな日常にも変化が訪れた。


 なんと、クリスマスでもないのに幼馴染ができた。五月だから春がやって来たと表現した方が良いのかもしれない。


 ただ、浮かれている訳ではない。


 俺のような陰キャラと鶴岡のような他クラスでも有名な陽キャラが交じりあってはいけないのだ。校則よりも守らないといけない暗黙のルールを俺は破ってしまった。


 昼休み、俺と鶴岡は一年A組で机をくっつけて一緒にお弁当を食べている。


「あ、亀山くんの卵焼き美味しそう。一つもらって良い?」


 周りの目など気にせずに鶴岡はそう言ってから俺の卵焼きを箸でつまむ。


「良いよ、と言う前に取ってるじゃねえか」


 卵焼きを口に運ぶと鶴岡はほっぺたに手を当てて唸る。


「美味しい! 亀山くん、この卵焼きとても美味しいよ!」

「ああ、そうか。それは良かった。マズイと言われたら作っている身からしたら悲しいからな」

「え、この卵焼き、亀山くんが作ってるの?」

「卵焼きだけでなく弁当は毎日、俺が作ってる」


 バランスと色味を考え、体への吸収率にも配慮した素晴らしい弁当を毎日作って持ってきている。


「一人暮らしだからな。自分がやるしかないんだよ」


 どうせ、人間いつかは自立しないといけないのだから早いことに越したことはない。料理のスキルも上がっているので悪いことはない。


「でも、大変じゃない?」

「もう慣れた。弁当に飽きたらコンビニでパンでも買うよ」


 俺がそう言うと鶴岡が何か閃いたように口を開く。


「私が今度、亀山くんにお弁当を作ってきてあげるよ」

「いや、いいよ。それこそ大変だと思うし」


 それに俺は他人が作った料理を食べたいとは思わない。おにぎりはラップを使って握っているかなどの衛生面を細かく気にしてしまうからだ。


「えー、幼馴染ってお弁当を作ってきたりするじゃん」


 そう言われれば漫画とかだとそうだった気がする。でも、これは現実だから気持ちだけ頂くことにしよう。


「本物の幼馴染じゃないから遠慮するよ」


 俺はそう言って、弁当を食べ終える。


「それで足りる? 足りないなら私のあげるよ。卵焼きのお返しとして」

「あー、それも大丈夫。もうお腹いっぱいだから」

「毒なんて入ってないよ」

「まあ、鶴岡がパクパク食べているからそれはわかる」


 鶴岡は苦笑して言う。


「君は本当に警戒心が強いね、昔から」

「昔の俺なんて知らないだろ」


 鶴岡は何も言わずに弁当をまた食べ始めた。




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