英雄と讃えられた勇者、社会人になる。

なに。

第1話 勇者、敗北

 …………ああ、こんなはずじゃなかったんだ。


 仲間が1人ずつ倒れていって…俺は全く仲間を守れなくて……


 俺達が弱かったせいか…?


 ……いや、違う。アイツが強すぎだんだ…そう、

 魔王が。全く歯が立たなかった。


 おかしいなぁ、俺達、割と冒険してきたつもりだったのになぁ……

 おかしいなぁ、俺、聖剣引っこ抜いてさぁ!

「お前こそが真の勇者だ!魔王を倒して世界を救ってくれ!」とか、「キャー!勇者様かっこいい〜!」って賞賛されたのになぁ…


 聖剣だよ?かの有名なエクスなんちゃらだよ?

 それもなんでか知らないけど一振で真っ二つに折れたし。どうかしてるよ、マジで。


 俺がもっと鍛錬して力をつけるべきだったのか?

 それとも、仲間との協力が足りなかったのか?


 いや、むしろ、仲間はとても頑張ってくれてたな。

 俺にバフかけてくれたし。すぐ無効化されたけど。

 どうかしてるよ、マジで。



 ……考えるだけ無駄かもしれない。

 なぜなら、どう足掻いても勝てなかったからだ。


 おそらく、倒せる方法はちゃんとあるのだろう。

 だがしかし、それを知らない、聞いたこともなかった俺達には最初から勝ち筋がなかったという訳だ。


 俺の勇者人生はこれで終わりだなぁ。

 はぁ、こんなあっけなく死ぬのはごめんだよ、マジで。


 あ〜あ、せめて戦いのない世界で程よく仕事して程よいお礼をもらって素敵な家を持って平凡な日常を送っていずれ運命の人に在って結婚していい感じの家庭築けたらなぁ……


 強欲すぎたな。まぁいっか、どうせ死ぬんだし。


 あれ?


 ……俺、今どうなってるんだ?

 体が見当たらない…というか何もわからない…

 意識だけがある…?


 じゃあ、この空間はなんだ?

 なんで俺は意識だけ存在してるんだ?


 きっと神様が俺を哀れんでこの空間を作ってくださったんだな……

 あっけなく死んだ俺を…


「んなわけないでしょ笑」

 なっ、、、誰だ?なぜ、声が聞こえる…?

「そう混乱しないでよ〜あれだよ、キミが言うその、〝カミサマ〟みたいなもんだよ」

 神様で?何を言っているんだ、コイツは。

 正直、こういうのには関わりたくない。お帰り願おう。

「おい、今キミはボクを変人と思ったな!?

 ホントにボクはカミサマ…に似たようなもんなん だよ!」

 なんだよ、似たようなもんって。

 というか、俺の考えてることが知られてる!?

「キミの考えていることはボクには筒抜けなんだよ!キミはボクのこと完全にを舐め腐っているな…!?

 こうなったら…

 ボクが今からこの空間を消し去って、キミのなん とか保てている意識を途切らせちゃおっかな!

 というか〜?この空間ごと消し去っちゃおっか〜?

 …よし!そうしちゃおう!」

 そう言うと、開いた掌をを前に出しゆっくりと掌を閉じていく。

 すると何故だか分からないが、意識が少しずつ遠のいていくような感覚に見舞われた。


 ちょ、ちょっと待ってくれ…!

 俺はまだ、死にたくないっ…!


 遠のいていく意識の中でそう思った。すると、

「死にたくないのぉ〜?じゃあボクのことバカにしないで欲しいな!

 あっ、そうだ!今だったらオマケ付きで転生させてあげなくもないかなぁ〜?」


 は?…………転生?

「うん、転生。別の人間とかに唐突に憑依したり名誉ある家系の子供になったり最強無敵の勇者になったりするやつ!」


 最強無敵の…勇者…

「そう、運が良ければなれるよぉ〜?多分ね!」

 なれたらなりたいよ…そりゃ……

「じゃあ、転生しちゃう?」

 …へ?そんな軽くできるもんなの?

「そりゃあね、ボク、カミサマみたいなもんだし。」

 ………はぁ。

「まだ信用してないのかなぁ〜?消されたいかなぁ〜?」

 …い、いや、お、俺が悪かったです…。

 貴方はきっと…神様に似た存在なんですね…

「分かってくれたならいいんだ!

 よ〜し!キミのことをつよつよ勇者に転生させちゃうぞ〜!」

 マジか!これで魔王を倒せる……!

「うんうん、その心意気だ!」

 そういって謎の声の存在は人間では全然聞き取れない言語の呪文を唱えた。

 すると、意識しかない存在ではあるが、自分が発光し始めたことに気づいた。


 …これで、魔王を倒せる…!

 段々と光の強さが増し、己の肉体が意識に合わさるような感じがした。

 次の瞬間、魔法陣が俺の足元に広がるように出てきて、大きな光を放ち、俺を包んだ。その魔法陣の光が、俺の新たな人生へと誘うのだった。

 光に包まれる前に、

「あっ、ボクは完璧な存在じゃないから何に転生するかはわからないよ〜!別世界の住人になったりするし〜!頑張ってね〜!!」

 と聞こえたのは…おそらく気の所為だろう。

 そう思いたい。思いたかった。


 光が消えたあと、目を開く。

 すると、これまで生きていたカラフルな世界とは大きく異なり、とても大きな灰色の長い建物がずらっと並んでいて、道が入り組んでいる訳の分からない空間に俺は突っ立っていた。


 終わったわ。絶対これ別世界だわ。

 俺、この世界でやっていけるかな…まぁ、何とかするしかないよな…

 なんてことを考え、好きなように生きていこうと思った。

 だが、そうはいかなかった。

 …俺はこの世界を甘く見ていた。

 そう、ここからが地獄だったのだ。魔王よりも恐ろしい、「ゲンダイシャカイ」というものに飲まれ、「サラリーマン」となった俺は、毎日働き三昧で残業あり、休みの取り消しありで自分の小さなアパートに帰り寝て次の日まで寝るという地獄のような毎日を過ごすことになってしまったのだ。


 最悪だよ、マジで。

 …俺は、そうボヤいて家の鍵を占め、会社に出向くのであった。

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英雄と讃えられた勇者、社会人になる。 なに。 @hasirusakana

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