第2話 人は己の死期を悟る

前回は桶星が救急搬送された話し

今回は・・・


********


救急車から降ろされ夜間診察室へGO!


診察室での細かい遣り取りは忘れた~

桶星は病院が嫌いだから~

病院へ足を踏み入れるだけで緊張するから~


取り敢えず痛み止めを点滴され

レントゲンとMRI撮影会

痛み止めがま~ったく効かない

ので今度は造影剤を打ってMRI撮影


医師が見つめるMRI写真を横目で覗く桶星

そして気付く

腸が写って無い・・・

腸の真ん中辺りが無い・・・あーー!


医師

「うーん、腸閉塞だねぇ。

 ここが黒くなってるでしょ」

桶星

「はい。(知ってる。腸に異常があるのは

 自分で痛いほど分かってる)」

医師

「入院だな」

桶星

「はい。(こんなに痛いのに

 家に帰されても困りますから)」

外来看護師さん

「じゃあドレーンしますね」

医師

「やってくれるの?」

外来看護師さん

「やりますよ」

医師

「助かるなぁこの病院は」


(あぁ、バイト医師かぁ~

 だよねぇ夜勤は大概バイトだよねぇ~)


ドレーンとは

簡単に説明すると、鼻から胃へ管を通し

胃の中の物を体外へ出す為の処置

気道確保より、めちゃ簡単


しかし、このドレーン挿入が悪かった

いや、やらないといけない処置だから

やるべき事なんですよ

でもね、

ドレーンした事で

胃の中の物を引き出そうとする動きが

腸を刺激し、痛みが超絶に増し悶絶・・・


そうそう、

MRI撮影に行く途中で元夫と遭遇

桶星、作り笑いで

「悪いね夜中に」

と一応お礼を申し上げた

(もっと感謝しろよ人でなし!

 とか他人様に言われるかも笑笑)


********


午前6時13分めでたく入院


痛い痛い痛い!

激しい痛みで救急車呼んだのに

更に痛みが増して地獄の痛みと嘔吐


ベットの上でうめき声を上げながら

膿盆を抱え、うつ伏せで膝を折り曲げ

ひたすらに痛みに耐える・・・耐える


今まで、この世で一番痛いのは陣痛

と思って生きてきたが

まさか陣痛より痛い痛みが有ったとは!


痛みには波があり

超~激しい痛みと激しい痛み

痛みで全身が硬直し息も浅くなる

激しい痛みに移行している間に

ハァーハァーと呼吸を整え

次に襲ってくる超激痛に備える

の繰り返しで体力が消耗していく一方


人間、自分の体は自分で良く分かると言うが

全くその通りである

桶星は

❝このまま放置されたら死ぬなぁ

 この痛みに耐え抜くのは無理だなぁ

 体力は、もって夕方までだなぁ

 間違いなく夕方までには死ぬなぁ

 あぁそうかぁこのまま死ぬのかぁ❞

静かに冷静に己の死を覚悟した

不思議なんです

死を覚悟すると心は穏やかになるのです


********


午前9時

突如、背中から声を掛けられる

「桶星さん、痛いでしょ?」


桶星もう既にまともに声が発せない

力を振り絞り

「はい」

と答えた、ってか誰⁉


「これねぇ腹膜が剝がれて

 腸に巻き付いてるんだよねぇ」

「はい(ああ!そうか、それかぁ!

 それは見落としていたわぁ~

 絞扼こうやく性イレウスだわ~)」


「手術して腹膜を取り除かないと

 痛みは取れないんだよ」

「はい(知ってる。取らないと死ぬやつ)」


「僕これから一件手術があるので

 桶星さんは12時から手術をするね」

「はい(もしかしたら死なずに済むかも)」


「それまで頑張って!」

「はい(これ以上頑張れないけど

 あと3時間耐えてみせます!)」


ここまで会話して、やっと気付いた

❝この人、外科医だ私の担当医師なんだ❞と


担当の看護師さんが

「手術を怖がらなくて大丈夫だからね」

と励ましてくれた

それに対し桶星は

「大丈夫、術後の痛みは、数日すれば

 良くなるから」

と訳の分からない言葉を発しながら

体位を仰向けにした

(いやね、3時間も膝曲げてうつ伏せだったから

 膝が限界だったんですわ)


そして、やっと、息子到着

息子、横たわる桶星を見るなり

「お母さん」

と泣きながら手を握ってきたので驚いた


桶星

「これから手術だから叔母さん達(桶星妹)に

 連絡して」

息子

「うん。お母さん大丈夫?」


息子の泣き顔を見たら❝ああ、この子には

まだ私が必要なんだ。絶対に死ねない。

息子のために生きねば!❞と

生への執着心が沸き起こった


桶星

「大丈夫だよ、まだ死なないよ」

息子

「退院したら、お母さんが良くなるまで

 週に一度は行くからね」

と泣きながら約束してくれる

なんと優しい息子・・・


だが、これは噓だった!

まんまと騙されましたよ!

桶星の家は息子の家と会社の中間に位置する

だから仕事帰りに、いくらでも寄れるのに

しかし!

退院してから体が動かず不自由なので

息子に「〇〇〇をして欲しいから来て」

とお願いしても来やしない!

腹が立って

「貴方あの時、週一は来てくれると

 泣きながら言ったでしょ!」

と怒ってやったら

息子曰く

「あの時、母が婆ちゃんが死んだ時と同じ

 顔をしてたから死ぬんだろうと思って

 言った」そうである・・・

なんて息子だ!誰に似たんだ!

大概、息子の思考回路は桶星と同じ・・・


********


さて、いよいよ手術の時間がやって来た

女将さ~ん時間ですよ~!である


オペ室に入るとオペ室長が

「エンドウです。桶星さん安心してください」

桶星

「はい(早く切ってくれー)」


そして裸にされオペ台へ移動

寒さのせいか緊張のせいか痛みのせいか

桶星の両足はブルブルと震える

そして大事な事を思い出した

桶星

「ゴムアレルギーです」


大事なことなので足を震わせながらもう一度


桶星

「ゴムアレルギーです」


以前アレルギー科の医師から

「手術の時は必ず

 ゴムアレルギーだと伝えなさい

 内蔵をゴム手袋で触られたら死ぬよ」

と言われていた

オペの手袋はゴム製品もあるので

せっかく手術しても

アナフィラキシーショックで死んじまったら

シャレにならん!と必死に訴えた


エンドウさん

「分かりましたゴムは使いませんね」

あ~良かった忘れずに伝えられて~


さあ、オペが始まる

麻酔医

「麻酔入れますよ」


桶星は麻酔が爆発的に効く

その時も麻酔医が麻酔薬を注入した途端

落ちた・・・

わずか一秒で落ちた・・・

きっとオペ室の中では

「おぉもう落ちたよ~」

とか言われてたんだろうなぁ(笑)


いきなり目が開き意識が戻った

麻酔を覚ます薬を打たれたそうだ

これは良い、実に良い

全身麻酔の後、なかなか意識がハッキリせず

頭がボーっとするのは辛いので嬉しかった


目を開けるとエンドウさんの顔が飛び込み

思わず

「あっ、エンドウさん」

と言ったらエンドウさんは

「あら、名前を覚えていてくれたの」

と喜ばれていたのだが

麻酔で眠っていた記憶が無い桶星にとっては

術中の時間は無かった時間なので

❝そりゃ覚えてますよ

 だって、いま会ったばかりじゃないですか❞

なのである(笑)


こうして無事に手術は終わった

終わらせたのは桶星では無く

執刀医と麻酔医と器械出しのエンドウさんです

(器械出しとは執刀医にメスとか鉗子とか

 渡す役で、医師が次に何を要求するかを

 事前に察知して用意する

 この器械出しが上手い人だとオペは

 たいへんスムーズかつ安全に行える

 地味なようだが熟練技を要する

 重要な役目なのだ。

 エンドウさん、ありがとう!)


入院中に面白い事が沢山あったのだが

今回はここまで次回に続くー!

 














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