第19話 氷姫と家宝
「おまたせしましたお嬢様♡」
俺は何の変哲もないオムライスをテーブルに運んだ。
本当に何の変哲もないのにこれは普通のオムライスより高い値段設定。
それは何故だろうか?
今からすることを見ていたら少しは分かるかもしれない。
いや、やっぱ多分わかんないわ。
だってこれほぼぼったくりだもん。
値段考えたやつ誰だよ、あ、山下さんか。
「全力萌え萌えオムライスです♡」
と言って全力で笑顔で接しているつもりだが俺の笑顔は少し引き攣っているだろう。
なぜって?
そりゃあれだからに決まってるだろ。
今から好きな子の前で全身を使って全力で「萌え萌えきゅん!!美味しくなぁれ♡♡♡」ってやらなきゃいけないからだ。
本当にやだよぉぉおおお!!
とか心の中で文句言っててもしょうがないから大人しくマニュアルをこなそう。
そして見事に砕け散ろう。
「では、今からこのオムライスをもっともぉっと美味しくしますね?♡」
と言うと結姫はこくりとうなづいて真剣な眼差しでこちらを見ていた。
そんな真剣に見てもいいものなんて何も見れないんだけどな……。
「お描きする文字はどうしましょうか?♡」
俺はオムライスの上にケチャップで書く文字の内容を結姫に委ねた。
「んー、せっかくなら大好き♡でお願いします」
あれ?なんかデジャヴ。
どこぞの夜宵さんもおんなじ文字を頼んでた気がする。
「承知しました♡精一杯愛を込めてお描きいたしますね?♡」
「ふふ、お願いします」
そして俺は精一杯の愛を込めてオムライスの上に「大好き♡」と言う文字を書き上げた。
「さらにお料理を美味しくするためにもっともっと美味しくなるとおまじないをおかけいたしますねっ♡」
地獄の始まりだ。
帰ったら結姫と合わせる顔がないよぉ……。
でもぐちぐち言ってても仕方ない。
中途半端な萌えほど需要のないものはない。
やるなら精一杯やろう!!
と、謎のメイド心が芽生えてきたので意を決して右手を振り上げ左足を曲げた。
そして右手で星を描き言葉を紡ぐ。
「美味しさ100倍キューティクル♡」
そして全力内股でハートを天に捧ぐ。
それをおろし左胸の前に掲げる。
「萌え!♡」
そして右胸の前に再度掲げて言葉に思いを込める。
「萌え!♡」
そして目の前のオムライスに突き出し全力で。
「キュン!!!」
そしてまだまだ終わらない。
「美味しくなぁれ!!♡♡♡」
と、本日2度目で慣れた作業を終えると結姫が目を輝かせていた。
そしておもむろに可愛らしくパチパチと小さな拍手をした。
「あ、あのお嬢様?」
「あ、いや、つい可愛かったもので」
てへへ、と頬をかく結姫はやっぱりこの世で一番可愛かった。
女の子からの「可愛い」と言う言葉は「かっこいい」に比例、はたまたそれ以上の意味を持つと聞いたことがある。
普段なら単純に喜んだかもしれないが今の状況を見るとおそらく他意はないのだろう。
そのあとはもろもろオプションなどの説明を一通りした。
すると結姫はチェキに驚くほど食いついた。
一枚200円のぼったくりだよ?と言うことを念入りに確認するもどうやらそんなことは気にしていないようだった。
いや少しは気にして欲しいが。
将来何かしらの詐欺に引っかかりそうで怖い。
まぁ今現在山下トラップに引っかかってるから実質詐欺を受けてるのと同義なんだけどね。
山下さん恐るべし。
「じゃあ撮りますねー!」
と、チェキ担当の人の声が響く。
「笑ってー、はいチーズ!」
と言って撮られた写真には俺と結姫が2人でハートを作っている写真だった。
俺も欲しいくらいだなその写真。
結姫が可愛すぎる。
「ふふ、ありがとうございました」
会計を終わらせた後に結姫は俺に向かってそう言った。
すると結姫はチェキを嬉しそうに抱えて呟く。
「これは家に飾って家宝にしますね!」
「ちょ、ば、何バカなこと言ってるのさ」
突然の結姫の爆弾発言につい素に戻って反応してしまった。
「へへ、また後で乃亜くん!」
「あ、ちょ…」
軽やかな足取りで教室から出ていく結姫を止めることはできずただ呆然とその背中を見てることしかできなかった。
そして俺の内心は当然焦っていた。
なぜかって?
それは結姫がとてつもないほど大きな爆弾を残していったからだ。
「双葉くーん?どうして君はあの氷姫を連れてくることができたのかな?どうして彼女はあんな嬉しそうにチェキを抱えてたのかな?そしてどうして彼女は君のことを君呼びしていたのかなぁ〜?」
聞かせてもらえるかな?と怖い笑顔で迫ってくる委員長。
どんだけ大きな爆弾残していくんだよ結姫〜!!
助けてくれぇ〜〜〜!!!
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