第18話 難攻不落の氷姫と激カワ女装メイド

 教室から逃げ去るように休憩に入った俺は中庭に出てきた。


 たまたま俺の休憩時間とあのタイミングが重なったため逃げ去るように見えたかもしれないがたまたまだ。


 うん。たまたまです。


 中庭にももちろん出店は点在しており賑やかだ。


 焼き鳥、クレープ、りんご飴……いい匂いが沢山するな。


 周りからの視線は気になるがそれよりも焼き鳥が食べたい気分になってきた。


 でも驚くほど並んでるから10分の休憩時間じゃ無理なんだよなぁ…。


 ちなみに何人か数少ない友人(顔見知り)が、通り過ぎたが女装しているから全然バレない。


 決して声をかけられるほどの仲じゃないという訳では無い。たぶん。


 でも知らない男の人にはさっき声をかけられた。


 怖かったから逃げちゃった。


 まぁそんなこんなで近くにあったベンチに座ることにした。


「焼き鳥…食べたいなぁ…」


「ん、食べますか?」


 その時ふと声をかけられた。


「へ?」


 急な事だったので間抜けな声が出てしまった。


「乃亜くん、食べたいんでしょう?」


「え……結姫…?」


 俺に声をかけたのは私服で着飾った結姫だった。


 純白のワンピースに身を包んだ結姫はさながら天使のようだった。


「ほら、食べていいですよ」


「え?ちょ、ま…」


「あ〜ん」


 何だこの状況…、結姫に女装中にあーんされかけてる……。


 これは避けるべき…いやでももう遅いな。


 そう思った俺は大人しく結姫のあーんを受け入れた。


「ん、うまい」


 少しだけ熱かったがそれも含めて美味しかった。


 高校生が作った焼き鳥にしては上々のできだった。


 ……って、今はそんなことどうでも良くて!!


 結姫にあーんされた!?え?あーん!?!?


「熱くなかったですか?」


「うん、丁度いい」


 とか言って平静を装ってるけど心の中はそれどころではなかった。


 ちょっと待て、落ち着け、あーんごときで騒ぎ立てるな俺の心臓。


 と、バクバクと今までに聞いた事のないようなスピードで跳ね上がる心臓を宥めるも効果は無いようだ。


「というか俺って分かったんだ」


 このままだと雰囲気に心臓をどうにかされそうだったので強引に話題を変える。


「ん?どうしてですか?」


「いや、この姿じゃ俺って気づく人少ないからさ」


「あぁ、なるほど」


 でも、と言って結姫は続ける。


「気づかないわけないじゃないですか、何年一緒にいると思ってるんですか」


「へ?数週間…」


「冗談ですよ、冗談」


 そう言うと結姫は屈託のない笑顔で笑って見せた。


 その笑顔に妙にドキリと胸が高まってしまったのは気のせいだろうか。


「あ、そろそろ戻らないと怒られちゃう」


 ふとスマホを見ると時間は休憩時間ギリギリまで迫っていた。


「じゃあ私もこのまま一緒に行きます」


「え?」


「このまま乃亜くんのクラスに行きます」


「そっ、か。じゃあ行こっか」


 と言って一緒に教室に向かったのはいいもののよくよく考えたら氷姫連れてくるってすごい状況じゃね?


 まぁいいや、後のことは今は気にしない!!


「ねぇあれ」


「ほんとだ」


「氷姫と、一緒にいる可愛い女の子は誰?」


 あっぶな、これ女装してる時で良かったー。


 もし普通の時だったら危なかった。


 もしそうなったら結姫にも申し訳ないし。


 とりあえず今この状況は感謝するべきなのか。


「どうしたんですか?少し落ち着きがないですよ?」


「え?そう?」


「はい。具合悪いですか?」


「いや、そうじゃないよ。心配かけてごめん」


 結姫に指摘されるってことはよっぽど周りをきょろきょろしてたりしたんだろう。


 挙動不審にならないように気をつけないと。


「ついたよ、ここが俺のクラス」


 数分歩いて休憩時間内ギリギリにクラスの前に到着した。


「ここが…」


「ついてきて」


 そういうと後ろからひょこひょこと結姫がついてきた。


「戻りましたー、お客さんも連れてきたよ」


 と、そこで俺は思った。


 このクラスだったら女装しててもこいつは双葉乃亜ということがバレてるから結姫を連れて行ったら単純に誤解を生むだけではないのか?と。


 でも時すでに遅し。


 結姫がひょっこりとクラスに顔を出していたのだ。


 と同時にクラスの人たちの視線は一斉に俺に向く。


「乃亜ちゃん、お客さん連れてきてくれてありがとうね!話は後でじっくり聞くからねー」


 と、怖い顔(?)の学級委員長。


 ちなみに学級委員長は学年で10本の指には入るだろうというほどの美形だ。


 メガネをかけていて知的なところが男心をくすぐるだとかなんだとか。


 ちなみに俺は一回学級委員長に怒られたことがあるからこの人がすごく怖いということは知っている。


 だから余計今怖い。


 あ、名前は確か……確か…‥なんだっけ。


 そうだ、思い出した。


 名前は姫川瑠夏ひめかわるかだった。…はず。


 いっつも頭の中でも委員長と呼んでるからいざ名前はなんだと問われると思い出せないな。


 まぁそんなこんなで委員長の視線を程よく無視しながら仕事に入る。


 ちなみに今日のシフトは午前中だけなのであと1時間頑張れば解放される。


 その1時間が鬼ほど長く感じるのだが…。


 まぁ、ぼちぼち頑張るか。


「乃亜ちゃん指名入りましたー!!」


 って早速…、誰だよぉ。


「はーい、今行きまーす」


 と言って足取り重く向かった先には


「ゆ…うひ……」


「へへ、指名しちゃいましたっ」


 とお茶目に笑う結姫はとてもとても可愛いのだがそれと相反して俺の心臓は可愛くないほど脈打っていた。


 そこでふと我に帰った俺はとりあえずマニュアル通りに進行させることにした。


「ご指名ありがとうございますお嬢様♡、私乃亜がご案内しますねっ♡」


 きつい…連れてきたのは俺なんだけど流石に結姫にこれを見せるのはキツすぎる……。


 結姫を連れてきた5分前の自分をぶん殴ってやりたい。


「はい、お願いしますね」


 こんな時でも結姫は可愛らしく笑っている。


 いや、良いんだけどさ、良いんだけどね?俺の心臓が持たないってわけよ。


「ではこちらにお座りください♡」


 テーブルまで案内すると結姫はおとなしくちょこんと座った。


「こちらの中からメニューをお決めください♡」


 一つ一つの言葉に女っぽさを込めて話さないといけないのが余計傷をえぐってくる…。


 誰だよこんなマニュアル考えたやつ…山下さんか、覚えておけよ。


 まぁ山下さんとは関わったことがないから何かをする勇気もないんだけどね。


 強いて言うなら心の中で文句言い続けるくらいしかできないんだけどね。


 と、そこで一旦席を離れようとすると早速決まったらしい結姫から裾をキュッと摘まれて戻された。


「お決まりですか?♡」


 見た目では平静を装いつつも心臓はバックバクだ。


 なぜかって?


 結姫があの地獄のような全力萌え萌えオムライスを選ぶかもしれないからだ。


 本当に頼む、あれだけはあの姿だけはせめて結姫には見られたくない。


 それを選んだらこのメニューの発案者呪う。


「じゃあこの全力萌え萌えオムライスってやつでお願いします!」


 …………山下さん覚えておけよ?

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