第7話 君のために張り切って
「おい聞いたか?あの噂」
「氷姫のやつか?」
「そうそう!あれやばいよな」
「1回も男の影見せなかったのにな」
次の日の朝月曜日ということもあって憂鬱な気持ちとともに学校に登校すると話題は結姫の噂で持ち切りになっていた。
「はぁ、最悪だ」
「どうかしたのか?」
頭を抱えてため息をつくとそばにいた高木が不思議そうに訪ねてきた。
「いや、なんでもない」
「いいじゃん、親友なんだし教えてくれよー」
「いくら高木でもこればかりは言えない」
「えーけち」
「ただ申し訳ないことしたなって」
「お?喧嘩でもしたのか?」
「さすがにこれ以上は無理」
「ふーん?まぁなんでもいいんだけどさ」
「何でもいいのかよ」
なんだよこいつと思いつつも高木のそのスタンスに好感を覚える。
一見何も考えてなさそうで実は相手のこと思いやって会話してるところとかはさすが陽キャだなとは思う。
まぁこいつのそういうところが好きなんだけど。
「それにしても聞いたか?氷姫のあの噂」
「こんだけ噂になってれば嫌でも聞くわ」
「まぁそうだな、相手はどんなやつなんだろうな」
「さぁね?」
「聞くところによるとすごいイケメンだったらしいぞ」
「は?」
「遠目だからはっきりとは分からないらしいけどね」
「どうせどこにでもいるようなパッとしない男子高校生だろ」
「お?なんだ?乃亜嫉妬してんのか?」
「そんなんじゃないし」
自分のことを勘違いでもイケメンと言われるとむず痒い感じがしてつい否定してしまったけどあらぬ誤解を生んでしまったな。
「まぁ乃亜は氷姫のこと好きだもんな」
「はぁ?違うし、結姫はただの……」
「ゆうひ?」
「やべっ…」
やってしまった、ついいつもの流れで名前で呼んでしまった。
まだ名前すら明らかになってないっていうのに。
「あれ、あのー…『言うてただの美女』って言おうとして噛んだだけ!」
「あ、そっかそっか」
耐えたぁ、良かった…単純で助かった。
あまりにも酷すぎる逃げだったが単純な高木のおかげで何とかなった。
「そういえば胡桃さんとはどうよ」
俺は話題を逃げるように変えて話を高木に振る。
「まぁ今のところはラブラブかな」
「くっそ、羨ましい野郎め」
「いっつも言ってるやん乃亜は素はイケメンなんだからもっと自信持てばいいのにって」
「そんなわけないのに」
「ほれ」
「やめっ…」
高木は手を伸ばして髪を上げさせてくる。
パシャッ
それを振り払って逃げれた頃にはもう遅い。
既に高木に写真を撮られた後だった。
「おい、消せ」
「やだね〜、俺の愛すべき親友コレクションに入れるんだ」
「なんだその気持ち悪いコレクション、いいから早く消せ」
「わーったよー…今消すから」
そう言うと高木は渋々俺の写真をフォルダから消す。
「これでいい?」
「うん」
「本当にちょっと手入れするだけでだいぶ変わると思うのになー……」
また高木がなにかブツブツと言っているがどうせしょうもないことなのでスルーしといた。
♢♢♢
「結姫」
駅前できょろきょろと周りを伺っている白いセーラー服に身を包んだ結姫に声をかける。
「あ、乃亜くん!」
こちらに気づくとぱあっと顔を明るくして駆け寄ってきた。
「ごめん待った?」
「いえ、今来たばかりです!」
「そうか、なら良かった」
「はい!では帰りましょうか!」
「うん」
今日はやけにテンションが高い結姫と共に改札を通り過ぎる。
「ちなみにテンション高い理由を聞いてもいいか?」
「え?テンション高いですか?」
「うん」
無自覚だったか……明らかにいつもと違うのにな。
「んー、強いて言うなら乃亜くんと会えるのを楽しみにしてたことが関係してるかもです!」
その言葉にドキリと胸が高まる。
「そっか…」
「それがどうかしたんですか?」
「いや、ただ気になっただけだ」
そんな会話をしていると電車がホーム来たので2人で乗り込む。
帰宅する生徒で車内は混雑しているため俺と結姫は立って端っこに移動した。
ちなみに同じ学校の生徒も多いから見た目は例のスタイルでいる。
「混んでますね」
「そうだな、大丈夫か?」
「はい、乃亜くんがいますので」
「なんだそれ」
何故か自信満々に言う結姫がおかしくて小さく笑う。
それを見た結姫も微笑んできた。
あぁ、可愛いな。
胸の鼓動が早くなっていくのが自分でもわかる。
ましてやここは混雑した電車の中。
結姫にこの胸の高まりがバレないか心配で気が気じゃない。
「あ、結姫髪型いつもと違う」
いつもはセミロングの長さの髪を巻いていたのに今日はポニーテールに結ってある。
「ポニーテール、可愛いよ」
「えへへ、そう言って貰えて嬉しいです」
今日はちょっと張り切ったので、とはにかむ結姫。
髪型も相まってか、ものすごく可愛く見える。
「そう言う乃亜くんもその髪型かっこいいですよ」
その言葉にまた胸の鼓動が早くなる。
「うん、ありがとな」
どこか初々しげな雰囲気を纏った2人は楽しげに会話を弾ませる。
「あ、もう着いたみたいですね」
「そうだな、降りるか」
そう言って俺は結姫の手を掴んで電車から降りた。
「混んでたけど大丈夫だった?」
「は…はい」
俺が聞くと結姫は顔を赤らめてそっぽを向く。
なんでだろうと考えていると降りる時はぐれないように繋いでいた手が未だそのままだということに気づいた。
「あっ、ごめん」
「いえ…」
先程までとは一転、どこか他所他所しい雰囲気を纏った2人はゆっくりと改札に向かっていく。
改札を通り抜け外に出ると辺りはまだ明るかった。
「だんだん日も長くなってきましたね」
「そうだな、春ももうそろそろ終わるな」
「そうですね。……乃亜くんは春は好きですか?」
「まぁ程々かな」
「実は私は春はそんなに好きじゃなかったんです」
するとふと結姫はゆっくりと話し始めた。
「友達を作るのが苦手で、どうも毎年春が憂鬱だったんです」
そこで俺は何となく察した。
恐らく結姫はその他人より圧倒的に秀でた容姿により周りの人間は簡単には関わりずらいと思っていたのだろう。
だから結姫は友達を作るのが苦手だと、そう言っているのだろうと。
「でも今は好きなんです」
「そうなのか?」
「はい、乃亜くんと出会えた季節になったので」
言われてみれば今はまだ5月が始まったばかり。
夏と言うにはまだまだ早いだろう。
「それを言うなら俺も同じだな、俺も結姫と出会えたから春は大好きだ」
そう言って俺たちは顔を見合わせ微笑み合う。
まだ微かに残る暖かな春風が通り過ぎ結姫のポニーテールが風に靡く。
「ふふっ、帰りましょうか」
「そうだな」
例えお礼の一環だとしても俺はこの幸せな毎日を手離したくない、そう思った——
♢♢♢
「あれはゆーちゃん?もしかしてあの子彼氏出来たの〜!?」
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