第5話 君みたいになれたらいいのに

「ふぅ、疲れましたね」


「そうだな」


 買い出しを終えたあと俺たちはソファに座って一息ついていた。


 何気なくつけたテレビには土日のお昼ならではのほんわかした番組が流れていた。


「結姫」


「なんですか?」


「どうして俺にそこまでお礼をしたがるのか聞いてもいいか?」


「ダメです」


「え?」


 まさかダメと言われるとは思ってなかった。


「その理由は聞いていいか?」


「乙女には秘密も必要なんです。秘密を着飾るほど綺麗になるって言いますしね」


「それ嘘の間違いじゃないか?」


「もー、そこつっこまないでくださいよ」


「それに結姫はそんなものなくても綺麗だと思うけどな」


「っ……!……乃亜くん良く女たらしって言われません?」


「言われないな、あいにく女友達がいないもので」


「そうなんですね、意外…」


「そんな意外か?」


「はい、だって……やっぱなんでもないです」


 なんだよ、そこまで来たら気になるじゃん。


「教えて」


「嫌です」


「お願い」


「これだけは無理です、私は乃亜くんみたいにはなれないので」


「……?まぁ無理ならしょうがないか」


 正直気になるが無理と言われればしょうがない。


 大人しく引き下がるか。


 つん、とした表情でそっぽを向いている結姫。


「ごめんー、謝るから機嫌直してー」


「ふふっ、怒ってはいませんよ」


「なんだ、良かった」


 柔らかい表情に戻った結姫を見て胸を撫で下ろす。


「さてと、昼ごはん作りますかね」


「俺にもなにか手伝えることある?」


 うーん、と首をひねらせる結姫。


「では大人しくソファーで休んでいてください」


「へ?」


「よろしくお願いしますねっ」


 そう言ってウインクしてくる。


 やばい、いくらなんでも可愛すぎるだろ!!


 俺の心臓殺しにかかってる。


「分かった」


 そんな彼女の前では大人しく従うしか俺にはできなかった。


♢♢♢


「乃亜くん、私たち友達になってから何一つ友達らしいことしてないですよね」


「まぁ、そうだな」


 夕食後少しダラダラとしていると結姫がふと口を開いた。


「そこで私から提案なんですが」


「うん」


「明日どこかに遊びに行きませんか?」


「うん、………うん!?」


「いいんですか!ありがとうございます。では早速……」


「ちょっとまてちょっとまて、もう1回言ってくれ」


「だから一緒に遊びに行こうって言う話です」


「あーなるほどなー」


 これは正直行きたい、一緒に遊びたい。


 でもな、でもなんだよ。


 これは俺の心臓が持つか持たないか、それと学校のやつらにバレるかバレないかの問題がある。


 結構ふたつとも大問題だから悩ましいがこれはそれを全て覆い隠してしまうほど魅力的な選択肢だ。


「行きたい…んだけどもしクラスのヤツらにバレたらって考えると」


「……?バレたらダメなんですか?」


「結姫自分の影響力どれぐらい凄いか分かってる?」


「まぁ、ほどほどには」


「結姫と一緒に遊んでるなんてことクラスのヤツらにバレたら社会的に抹殺されてしまうかもしれない…いや、物理的にも……」


「ちょっとちょっと、怖いこと言わないでくださいよ」


「でもそれくらいバレるのは危険ってことだ」


「じゃあ今日みたく髪をセットすればいいじゃないですか?そうすればだいぶ見た目も変わるし印象も変わるので分からないと思いますよ?」


 結構悩ましいところだな。


 少しリスクを背負って遊びに行くか……


 自分の気持ち的には遊びたい気持ちでいっぱいだ。


 よし、それなら。


「分かった、じゃあ今日みたくして行くか」


「本当ですか!」


「うん」


「やった!嬉しい」


 そこまで喜んでくれると勘違いしてしまいそうだ。


 でも俺はあくまでお礼ということを忘れては行けない。


 それで下手に彼女に想いを伝えて困らせてしまうのは本当に申し訳なさすぎる。


 変にこの気持ちが大きくなってしまう前に押し隠してしまう方がいい。


「じゃあどこいく?」


「乃亜くんが行きたいところはありますか?」


「うーん、結姫の行きたいところかな」


「じゃあ私駅前に新しく出来たパフェ行きたいです!」


「じゃあそこ行くか」


「やった!その帰りに出来ればお洋服も買いたいです」


「わかった、じゃあ明日はパフェいって服買う、でいい?」


「はい!ありがとうございます!」


「じゃあ今日はもう7時だし解散にするか」


「そうですね」


 今日はここで解散、ということにした。


 結姫を玄関まで送り届けてから明日の準備でもしようかな。


「じゃあね」


「はい、それではまた…」


 玄関先で結姫を見届けてから俺は部屋に戻る。


 今日は濃い一日だったな。


 こんな毎日がずっと続けばいいのに。


「さてと、明日の準備でもするか」


 なかなかに急展開な1日だったけどそれはそれで楽しく過ごせたからいいだろう。


 結姫には感謝してもしきれないくらいだ。


「どれ着てこうかな…」


 結姫と隣に並んでも遜色ないようなものにしないとな。


 少し上機嫌で鼻歌を鳴らしながら明日の準備を進めるのだった。

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