第4話 いつかきっと伝えたい
「乃亜くんおはようございます」
「おはよう……」
すっかり風邪も治って眠い目をこすりながらリビングに行くとそこには結姫がいた。
………結姫がいた!?
「え!?何してるの?」
「え?何って朝ごはん作ってますけど?」
「いや、そうじゃなくて……あ、もしかして昨日のってガチのやつだったの?」
「はい。そのつもりでしたが……」
何か問題でも?と首を傾げる結姫。
いや、問題はありありだよ。
このことがバレたら世の男子に背中を刺されかねん。
しかも俺の心臓が持たない。
「ていうかどうやって入ってきたの?」
「え?昨日鍵貸してくれたじゃないですか」
全然記憶にない……昨日の俺何してんだか。
「そうだったっけ?」
「そうですよ、まだ寝ぼけてるんですか?」
「いや、まぁ」
「ほら、もうすぐで出来上がるので着替えてきてくださいね」
なんだろう、なんかこう……新妻感が凄いというかなんというか……
まぁせっかく作ってくれてるんだし有難くいただくことにしよう。
♢♢♢
「はぁ美味しかった。ご馳走様でした」
相変わらず結姫の作るご飯は美味しかった。
「それにしても、本当にいいの?」
「はい、お礼の一環ということで」
「明らかに比率会ってない気がする……」
「あ、でもさすがにご飯代だけは折半でお願いします」
「いや、こんなにしてもらってるんだから俺が全部払うよ。そうじゃないと割に合わないから」
「でも…」
「俺の良心が許さないからさ、ね?」
「そこまで言うなら……」
「とりあえずこれからの分食材買わなきゃいけないのでこのあと一緒に買い出し行きませんか」
買い出し……行くのは全然いいんだけど結姫の隣をこんなモブが歩いてたらどんな目をされるか……そもそも知り合いにバレたらやばいし。
どうしよう、バレないようにしないと。
「分かった、でもちょっとまってて」
「……?」
♢♢♢
「おまたせ」
とりあえずバレないように髪だけ上げてセットしてきた。
あと普段は着ないような俺が持っている中で1番マシな服も着てきた。
「!!」
「どう?ちょっとはマシかな」
「買い物行くだけだからそのままでも大丈夫でしたのに」
「いや、でもさすがにこんな可愛い子の隣に陰キャがいたら変な目で見られるし」
クラスのヤツらにバレても困るしね。
「かわっ……か……」
すると結姫はそっぽを向いてしまった。
「ん?どうしたの?大丈夫?」
「だ、大丈夫ですのであんまり近づかないでください……!」
やべっ、さすがに軽率すぎた。
「ごめん、これからは気をつける」
いくら少し他の人より結姫との関係があると言っても結姫にとってはこれがあくまでお礼なんだから調子に乗りすぎたらダメだ。
気をつけなきゃ。
「じゃあ行こっか」
「はい」
気を取り直して俺たちは買い出しに出かけた。
周りからの視線がすごい。
やっぱり結姫は凄いなぁ。
まぁこんだけ可愛いんだし当たり前っちゃ当たり前だけど。
なんか嫌な感じがする。
なんて言うかあんまり見ないで欲しいというか。
本人じゃないくせになんでなんだろ。
なんだろうこの感情。
「乃亜くんはどうして一人暮らししてるのか聞いていいですか?」
「うん、俺の両親は海外で働く研究員?みたいなのでさ、ちっちゃい時から転校ばっかだったんだ。それこそ海外の学校にも行ったりしててさ」
そうだな、確かその時はたくさん友達もいたはずだ。
忙しい日々だった。
「でも小学生3年生の時やっと日本に帰ってこれたんだ。その時は周りとの疎外感っていうのがあってね、あまり馴染めなかったんだ。」
そうだ、名前で虐められていたのもこの時だったかもしれない。
「でもそんな俺と一緒に過ごしてくれたたった1人の友達がいたんだ。もう随分前のことになるから顔も思い出せないんだけどね」
でも名前だけは覚えてる。
確かゆーちゃん、って呼んでたはずだ。
「結局その後すぐ転勤になっちゃって日本からは離れることになっちゃったんだけど」
でも、と言って俺は続ける。
「その子のことがいつになっても忘れられなくて、日本に行ったらその子と会えるんじゃないかって、確証もないのにそう思っちゃってね」
結姫は静かに俺の話に耳を傾けてくれる。
「だから高校生になったら日本で一人暮らししたいって親に直談判したわけ」
「そういう、事だったんですね…」
「うん。でも今になって思うよ、多分無理だろうなって」
今日本で過ごしていたらわかる。
その子と会える確率は極めて低いだろう。
きっと可能性は0に近い。
でも…それでも俺は、その子が幸せに生きているならそれでいい、そう思っている。
「乃亜くんはその子に今も会いたいですか?」
「そりゃ…会いたいよ」
「そうですか」
すると結姫は空気を切り替えるように声を弾ませて言った。
「いつか会えますよ!きっと!」
「そうかな……?」
「はい!私が保証します!」
そう言って笑って見せた結姫の姿に、今は顔も思い出せないあの子の面影が見えた気がした。
「はは、保証って」
「私の保証ほど信頼出来るものはありませんよ?」
イタズラな笑みを浮かべる結姫は桜散る季節には勿体ないほど輝いて見えた。
「ほら、買い出ししますよ」
「そうだな」
そう言って俺たちはスーパーに足を踏み入れた。
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