クリスマスツリーのお星さまとサンタクロース

結来月ひろは/いけよし! 花咲中学華道部

クリスマスツリーのお星さまとサンタクロース

 ある街の広場の真ん中に大きなクリスマスツリー。

 だけど、そのクリスマスツリーはクリスマス以外にもずっと広場に飾られていて、クリスマスツリーのてっぺんにあるはずのお星さまがない、ちょっとふしぎなクリスマスツリーです。


 これはそんなちょっとふしぎなクリスマスツリーのお話です。


***


「今年もクリスマスの時期がやってきな。よーし、一生懸命光って、今年もみんなを喜ばせるんだ!」

 

 そのクリスマスツリーのてっぺんにはキラキラに輝くお星さまがいて、街の子供たちを見守っていました。

 お星さまの役目はクリスマスツリーのてっぺんでピカピカ光ってみせること。



 ピカピカピカピカ。

 クリスマスツリーのてっぺんのお星さまが光ってみせると、街の子供たちは大喜び。


「お母さん、お星さまが光ってるよ!」

「本当、今年もきれいね」

「お父さんが子供の頃から、あの星はずっとピカピカ光ってたんだぞ」

「そうなんだ!」


 嬉しそうな声がツリーの下から聞こえてきて、お星さまは嬉しくなりました。


「よしよし、今年もみんな喜んでくれてるな。今年は去年よりも、もっともっと頑張って、いっぱい明るくしてみせるぞ! それ!」


 ピカピカ、ピカピカ!

 お星さまが頑張って光ってみせるたびに聞こえてくる嬉しそうな声にこたえるようにお星さまは頑張って光ってみせました。けれど、そんな声は時間がたつにつれて減っていき、とうとうお星さまがどんなに光ってみせてもなにも聞こえてこなくなりました。


「……あれ?」


 去年はあんなにもクリスマスツリーを、そしてお星さまが光るのを楽しんでくれていたはずなのに、街の人達の姿が見当たりません。


「みんなどうしちゃったんだろう……」


 お星さまがきょろきょろあたりを見てみるとおうちの窓から楽しそうに笑う子供たちの姿が見えました。

 みんなはあたたかいおうちの中でクリスマスを楽しんでいるのです。


「いいなあ、みんな楽しそうで」


 お星さまはクリスマスツリーのてっぺんでひとりぼっち。

 誰もお星さまを見てはいません。


 

「ううん、でもそれが僕の仕事なんだ。これまでだって、ずーっとここで過ごしてきたじゃないか」


 お星さまは自分を励ますようにピカピカと光り始めました。


 ピカピカピカピカ

 ピカピカピカ

 ピカピカ

 ピカ


 頑張って光っていたお星さまですが、とうとう光るのをやめてしまいました。


「ずーっとここで過ごしてきたけど、さみしいなぁ……」


 ポロポロ、ポロポロ。


 お星さまの目から涙がクリスマスツリーにこぼれていきます。


「僕だって、誰かと一緒に過ごしてみたいなあ。いっぱいお話をしておいしいものを食べて笑ってみたいな」


 クリスマスツリーのてっぺんにいるお星さまの声は子供たちには届きません。

 

「おやおや、どうしたんだい? そんなに泣いて」


シャンシャンシャン。

鈴の音がお星さまのすぐそばで聞こえました。

お星さまは鈴の音がした方を見てびっくり。

そこにいたのはトナカイの引く空を走るソリに乗ったサンタクロースでした。


「僕はクリスマスツリーのお星さまです。ピカピカ光ってあたりを明るくするのが僕のお仕事で、ずっと頑張ってきたのになんだかすごくさみしくて、ピカピカ光れないんです……僕は悪い子です」


 そう話すお星さまにサンタクロースは言いました。


「お星さま、君は決して悪い子なんかじゃないよ」

「どうして?」

「ずっと街の人や子供たちのために頑張ってきたことを私は知っているからさ」


 サンタクロースに続いてトナカイが言いました。


「俺だって知ってるぞ。雪の日だってピカピカ光ってたのを。おかげで俺達が迷わずにこの街に来れたんだ」

「そうだったんだ」


 そんなふうにほめてもらったのは初めてでお星さまはなんだか照れくさくなってしまいました。


「これまでずっと頑張ってきたいい子のお星さま、よかったら私達と一緒に来ないかい?」

「そうだそうだ。お星さまが俺の前でピカピカ光ってくれたら、どんなところにだってプレゼントを運びに行けるんだ! 一緒に世界中にプレゼントを配って回ろう」


 お星さまにとってそれはとても嬉しい言葉でした。


「でも、そうしたらクリスマスツリーのてっぺんのお星さまがなくなっちゃう……」


 お星さまはずっとクリスマスツリーのてっぺんで光っていたのです。

 そんなお星さまがいなくなってしまえば、サンタクロースがこの街に来るのが難しくなってしまうかもしれません。

 そうなるとこの街の子ども達はプレゼントをもらえなくなってしまいます。


「それなら心配いらないよ。この街の子ども達はみんないい子だからね。ほら見てごらん」


 サンタクロースがそう言ってお星さまに見せてくれた手紙にはこう書かれていました。



  サンタクロースさんへ



  街の広場にあるクリスマスツリーのてっぺんのお星さまはずっとてっぺんにいて、みんなを明るく照らしてくれます。

  でもお星さまはてっぺんにひとりぼっちで、さみしそうです。

  だからサンタクロースさん、お星さまのお友達になって遊んだり、いろんなところに連れて行ってあげてください。

  みんなはこっそりおうちでお星さまを見守っています。


  街のみんなより



「街のみんなはそんなふうに思ってくれてんだ」


 お星さまは嬉しくてまた涙を流しました。


 ポロポロポロポロ。

 キラキラキラキラ。

 お星さまが流した涙はキラキラ輝く小さな飾りになってクリスマスツリーを輝かせていきます。


「でも僕はずっとクリスマスツリーのてっぺんにいたから。サンタクロースさん達と一緒に行けるかな?」


 お星さまは不安に思いました。トナカイのように空を飛べる自信はありません。


「大丈夫。ゆっくりと飛んでごらん。飛ぼうと思えばきっと飛べる」


 サンタクロースに言われてお星さまは思います。

 サンタクロースさん達と一緒に空を飛んでみたい。

 そう願ったお星さまは気づけばクリスマスツリーのてっぺんから離れて空を飛んでいました。


「すごい、僕、空を飛べたんだね!」


 お星さまは自分が空を飛べたことを初めて知りました。

 嬉しくてその場でくるくると回ってみせると、お星さまの動きに合わせてピカピカとあたりが輝きます。


「すごいや、お星さま! とても明るくてきれいだよ。これなら一緒にどこにでも行けるね。さあ、早く行こう!」

「うん……」


 トナカイに言われたお星さまはまだ少し迷っていました。

 本当に自分がクリスマスツリーや街を離れてサンタクロースと一緒に行ってもいいのかな。


「お星さま、いってらっしゃい!」

「気を付けて行ってきてね」

「クリスマスには帰って来てね」


 そんなお星さまに聞こえてきたのは街の子ども達の声でした。

 クリスマスツリーの下を見るといつの間にか。街の人達が集まっていました。


「街のことなら心配するな。大丈夫だ」

「これまでずっと街を明るく照らしてくれてありがとうね」

「いってらっしゃい」


 街の大人達も子ども達と一緒にお星さまに向かって笑顔で手を振っています。


「サンタクロースさん……僕、サンタクロースさん達と一緒に行きます!」


 お星さまは街の人達への行ってきますのかわりにクリスマスツリーのまわりをくるくると飛び回ります。

 お星さまが残した星の輝きがお星さまの涙でできた飾りにくっついて、クリスマスツリーをピカピカと輝かせます。


「みんな、本当にありがとう! いってきます!」


 お星さまはサンタクロースさん達と一緒に星空を駆けていきました。


 ***


 ある街の広場の真ん中に立っている、大きなクリスマスツリー。

 そのクリスマスツリーはクリスマス以外にもずっと広場に飾られていて、クリスマスツリーのてっぺんにあるはずのお星さまがない、ちょっとふしぎなクリスマスツリーです。


 そのクリスマスツリーはクリスマスになるとお星さまがてっぺんに帰ってきて、街の人達に楽しいお話を聞かせてくれるのです。


 もしもクリスマスツリーのお星さまがいなくなってしまったら、そのお星さまはサンタクロースさん達と一緒に世界中を旅していて、来年のクリスマスに楽しいお話をおみやげに持って帰ってきてくれるかもしれません。


 少しさみしいけれどまた来年、お星さまに会えるのを楽しみにしましょう。

 お星さまがどんな素敵なお話を聞かせてくれるのか楽しみですね。


 おしまい

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