第24話 リベンジマッチと新たな仲間

 旅は道連れ世は情けと言うけれど、俺の現状は情けなんて無いし、ただの受難でしかない。

 ナイトキャンサーとの戦闘を開始した俺とキング率いるホーリーナイツの面々だが、既にメンバーの一人が【ダウン】状態に陥っている。

 ダウン状態のプレイヤーを復帰させるには、最低でも一人のプレイヤーに助けて貰うしかない。


「ほら、起きろ」

「助かった」


 口では礼を言うが、こいつらは誰かがダウンしても誰も起こそうとしないのだ。早々に負けるのも仕方が無い。

 そしてこれを起点に悪循環が始まっている。ダウンでパーティー全体の火力が落ち、ボスとの戦闘が長引く。ダウンを防ごうとタンクが過剰にタゲ取りを行い、徐々に体力を削られる。ダウンしても助けないような連中がタンクの体力管理を行う筈も無く、一人、また一人と減っていき、最終的には全滅。

 控えめに戦闘に参加しながら、こいつらの動きを観察していたが、正直、ルナやルカの方がよっぽど良い動きをする。


「困ったな……」


 これでは勝てないと判断し、急いでタンク役のプレイヤーの元に駆け寄る。そのついでにタンクが受け止めるであろうカニの攻撃を、大太刀の一振りで弾き返す。

 突然、割り込んできた俺に呆然としているタンク役に、俺は少し茶目っ気を出す。


「おい、あんた。その槍、仕舞えよ」

「は? いきなり何を言ってるんだ?」


 その疑問に答える前に、カニからの追撃を全て容易く往なして見せる。


「だから! 攻撃に参加しなくて良いんだよ。全部一人でやろうとしなくて良いんだ」

「でも――—」

「他の奴は下がらせる。そっちの方がやりやすいんだろ?」


 タンク役は静かに頷く。


「おい、キング。他の奴らも、ボスとの距離を十分に取れ」

「あ? 何でお前が指示してるんだよ! リーダーは俺だぞ?」

「良いから言う通りにしろ! 勝ちたくないのか?」


 俺の一喝にキングたちは言葉を飲み込む。それを了解と受け取った俺は早速、攻略へ動く。

 まずはタンク役にタゲ取りをしてもらう。俺の見立てでは、このタンク役プレイヤーはだ。ただ問題だったのは欲をかき過ぎるとこで、タンクとしての技量はトップ帯と何ら遜色ない。それは今までの彼の立ち回りと彼の装備している装備品から分かる。

 彼のスーツは星六唯一の星座シリーズ【スクートム】だろう。アビリティに装備した盾の耐久値を無制限にするという能力がある。

 このザ・タンク職の様な性能のスーツを選んでいるあたり、相当な変態だ。勿論、誉め言葉的な意味で。

 そして、こう言った尖った性能を扱う変態プレイヤーは、総じて能力値は高い。それはアタッカーを兼任していたところを見れば一目瞭然だ。

 俺に対してのカニの反撃を肩代わりしようとタンク役が動く。


「来るなっ!」


 助けを拒否し、敢えて少し大げさに躱し、この程度は避けれるという事を見せつける。


「あんた……」

「よそ見すんな!」


 追撃を躱し、ボスの体力を確認する。

 キングたちの援護射撃もあってボスの体力は半分を切った。


「合わせろっ!」

「えっ!? ちょっ―――!」


 押し切れると判断した俺は、砂塵を巻き上げながら目にも止まらぬ速さでボスの懐に潜り込む。

 間合いに踏み込んできた敵に、カニは自慢の大爪を目一杯開いて挟み潰そうとする。

 しかし、自慢の大爪は俺に届く事無く、硬い何かに阻まれる。そう、タンクの盾に。


「てあああっ!」


 脇に構えた大太刀を渾身の力で斬り上げる。

 大太刀は自身の耐久値を大きく減らしながらも、狙い通り大爪の関節に入り込み、奴のリーサルウェポンを切り落とした。


「すげぇ……」


 タンク役が感嘆の言葉を呟くが、安心するにはまだ早い。今の一撃で奴の体力は大きく削れたものの、未だ瀕死状態で生きている。

 まだ油断は―――……。


「あぶねぇ!」

「っ!?」


 タンクを信頼し、少々リスクを孕む動きを成功させたことに、ほんの一瞬だけ気を抜いた途端、ボスの口から勢いよく吐き出された毒性の泡に包まれてしまった。


「おい、あんた。無事か?」

「あ、ああ……。無事だ」


 タンク役が咄嗟に庇ってくれたことで九死に一生を得れた。

 ほんと、死ぬかと思った……。

 しかし安堵するのはまだ早い。未だ毒の泡は吐き出され続けており、タンクプレイヤーの体力を徐々に奪っていっている。

 また吐き出される大量の泡の所為で、左右に逃げる事も出来ず、視界不良で反撃も出来ない。

 どうするかと悩んだ直後、突如としてタンクの目の前に爆発が起きる。


「何だ?!」


 その正体はすぐに分かった。

 よろめくカニに向かって弓を構えるキングの姿が見えた。どうやらキングがカニの口元に向かって爆発矢を撃ち込んだようだ。


「キング……」

「リーダー……」


 泡が晴れ、自由に動けるようになった今、反撃にはこれ以上の無いタイミングだ。


「てりゃあああっ!」


 携えた大太刀を勢いよくカニの口に突き刺す。

 カニは暴れるが、構わず大太刀を捻る。すると、カニの動きはピタリと止まり、ゆっくりと砂浜に沈み込んだ。


「勝った……」


 惑星ボス討伐のファンファーレを聞きながら一息つく。


「ありがとうな、助っ人さん」

「いやぁ、大したことはしてないですよ。お疲れ様でした、えっと―――」

「ブラックルーク。ルークって呼んでくれ」

「分かった、カズだ。お疲れ様、ルーク」

「お疲れ、カズ」


 こうして俺のリベンジマッチは果たされた。

 健闘を称え合う刀と盾が、差し込む朝日に照らされて輝いて見えた。



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