第23話 リベンジマッチと新たな仲間

 三か月後———。


 ゲーム内時間で、十二万時間以上を費やし、ようやく自己及第点に達した。

 現在のプレイヤーランクは【1008】、他惑星の惑星ボスや強敵の討伐だけでここまで上げるのに相当、骨が折れた。二重の意味で。

 時間と苦労は、その費やしたプレイ時間を見れば分かるだろう。それに加え、痛覚がレベル上げ効率の低下に拍車を掛けていた。

 時には両腕を切断され、またある時にはゆっくりと潰され、またまたある時には全身を焼かれたりもした。そしてその度に、激痛に脳を持って行かれ、気絶による強制ログアウトが発生した。

 ショック死しなかったのが奇跡に感じる。

 しかし、おかげでプレイヤーランクも当初の目標に達し、戦闘経験を更に多く積むことが出来た。

 残念ながら、痛みに慣れる事は出来なかったが、多くの痛みを経験したことで、最小限の被弾に抑える動きを嫌でも体に覚えさせることも出来た。


「三か月だ……。三か月分の恨みを今日、晴らしてやる! 待ってろよ、カニ野郎」


 湧き上がる闘志を携え、日没直後の海岸を進む。

 俺の現在の装備構成は、防具が星六レアリティの【ファルフギウム】。武器はストーカーからドロップする、月光シリーズからレアリティ【レア】の大太刀【下弦】を装備している。

 防具には、被ダメージ時に減少する体力を軽減させるアビリティがパッシブで付与されている。これによって万が一、カニの大爪の重い一撃が直撃しても体力的には致命傷には繋がらないだろう。

 勿論、痛みは別問題だが……。


「ん? 話し声? 先客が居るのか?」


 声に釣られて夜闇の中で目を凝らす。場所は入り江の入り口、例のカニが出現するボス部屋の目の前だ。内容的には、誰かを𠮟責しているように聞こえる。

 月が昇り始め、徐々に声の主の姿が露わになってきた。

 足元を照らす月明かりで複数人であることが分かると同時に、プレイヤーネームの表示距離に入った。


「あっ……」


 目の前に現れた声の主が、予想外の人物で、つい声が漏れてしまった。


「あ? ……お前、この前の―――」

「あの時はどうも……。キングさん」


 なんと、声の主は以前、俺に喧嘩を吹っ掛けて来たクラン【ホーリーナイツ】のクランリーダー、キングだったのだ。


「えっと……ここで何をしてるんだ?」

「チッ!」


 状況を聞いただけなのに舌打ちをされた。

 どんだけ根に持ってるんだ?


「ここのボスに負けて、今からもう一度挑戦しようとしてるとこだよ」


 キングはこちらに鬱陶しそうな表情を作りながらぶっきら棒に答えた。


「左様ですか……」


 だとすれば、相当コテンパンにされたのだろう。ボスの出現時間である日没から然程、時間は経っていない。

 でも、一つ気になることがある。

 この場に居るのは五人。俺とキング本人を除いた残り三人のクランメンバーの装備を見るに、そこまで苦戦するとは思えない。

 そう思う要因は二つ。一つはタンク職が一人居ること。二つ目にタンク以外のメンバーすべてが遠距離武器を使っている事だ。

 しっかりとタンクがタゲ取りを行い、他三名が距離を保ちつつ、上手く波状攻撃を行えば、討伐は容易い。筈なのだが……。

 あれやこれやと推察を行っている俺に、キングはパーティーの招待を送って来た。


「え?」


 突然の事に戸惑う俺を見て、キングは又してもぶっきら棒にこう言った。


「手伝え」



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