第56話 奇妙なコラボ

 攻略士試験が始まってから2時間が経過。


 各々が次の階層を目指して孤軍奮闘をしている中、如月は入り口探しよりも優先して受験者を探していた。



「……みんなまだ戦ってるの? ここに来てから20分近く経ってるよね?」



《半々だね》

《テンパってる奴もいるし暴れ回ってる奴もいるな》

《意外と魔法使える組が苦戦してんな》

《こっから急激に難易度上がったね1時間以内に脱出出来ないとやばそう》

《ただでさえ視聴者から見えにくいのに指示なんか出来るわけがねえ》

《高難易度ダンジョンの再現にしても地形終わりすぎじゃね》

《けせら・レボル・フォレストの3人はやばいかもな逃げ続けてる》

《てかお前だけ3匹倒してるの強すぎだろ》



「……有益なコメントありがとう」



 状況を鑑みるに、如月の想像以上にケルベロスの数は少なくポイントを稼ぐのは難しいようだ。


 ケルベロスという存在はどこにでもいる普通のモンスターではなく、ちょっとした中ボス扱いだったのかもしれない。



 そうなると、1匹あたり15ポイントしか貰えないのは渋すぎる、と内心思っていたが口には出さなかった。



「はぁっ……はぁっ……」



 などと考えているうちに、前方から微かに呼吸が乱れた声が聞こえてくる。


 如月は全身の感覚を研ぎ澄まし、声の持ち主の気配を察知すると同時に呪文を唱えた。



「【みぞれの導き】」


 剣を介して発射された魔力が、ケルベロスの身体を捉え一撃で即死させる。


 やがて、突然魔物が消えて困惑した様子の受験者がこちらに気が付き、嬉々とした様子で姿を現した。



「ありが――って、あんた誰ねー……?」



 如月の前に現れたのは、自分よりも1回り小さい少女(といっても同学年)のだった。



「僕はキズラキです。本名は如月絃で、最近まで迷宮の中で生活してました。あなたは……けせらさんですよね。怪我とかないですか?」



 慌てて如月が自己紹介を行ったが、彼女は一切反応を示さず無表情のまま査定するようにこちらの顔面を見つめてくる。



 そしてしばらくの沈黙の後、謎が解決したと言いたげに何かに納得したようにぽんと手を軽く叩いた。



「あー! そっかそっか……いーとーって呼んでいい? いーとーは今のところ何ポイント稼いだのー?」

「え? えっと……660ポイントです……けせらさんはどうですか?」

「けせらでいいよ! けせらーはね、まだ200ポイントしかないんだぁ……」



 まさか、と思い付いた瞬間にチャット欄へ目線を向けると、如月の想像通りのコメントが彼女についての内容で埋め尽くされる。



《その子は沖縄の子だよ》

《話し方本当可愛い》

《ちょっと棘があるのもいいんだよな》

《変態も紛れてますね……》

《空気変わったな》

《有名人しかいねえじゃねえか!!!! どうなってんだ!!!!》

《もしかしてこのメンバーと肩を並べてるキズラキってすごいのでは……》


 けせらの独特なイントネーションは沖縄の訛りだった。


 だからといって、過去に因縁があったわけでも特別興味があるわけでもない。


 何となく、彼女に不思議な違和感を感じ取っただけだ。



「このままじゃ埒が明かないし、とりあえず……みんなを探しませんか?」

「あっ、そうだねー。何かここ臭いし次の階層行きたいね」

「じゃあ、とりあえず……【霙の導き】」



 間髪入れずに、如月は再度魔法を詠唱する。


 周辺にいたケルベロスは全滅させたはずだが、どこからかまた1人逃亡者がいた様子だ。



 ガサーッと地面に倒れ込む音とともに翠色すいしょくの男が豪雪の中から姿を現した。



「……頭が痛ェ、おい逃げねえとあいつが……」

「そいつは僕が殺しましたよ。レボルさん起きてください。もう鳴き声は聞こえないはずです」

「声……声……ッ? ああ……いつの間にか声が消えてやがる……お前、どうやって殺した?」

「いーとーが魔法で倒したんだよー。けせらーもそれで助けられたから感謝しないとね」


《おお……意外な3人だ》

《じゃない方》

《今すっごく失礼なコメントが見えた気がする》

《着々とグループ化が進んでるな》

《誰がゴールに近いのかマジで分からんw》


 視聴者も言っているが、この階層は今までの中でもダントツで現在地が分かりにくい。


 むしろ、同じ場所に立ったまま誰かが接近してくるのを待つ方が効率良いのかもとまで思えてきた。


「……二人は手ぶらですけど、どうやって攻略するつもりなんですか?」

「俺は……武器落としただけだ。一応魔法は使えるが……こりゃ初日にして不合格同然だな。情けねえぜ……ったく」

「けせらーは……ひっちー馬鹿にされるけど、魔法だけはでーじ強いよ」



 恐らく自分はすごく強いと言いたいのだろうが、如月は肝心の彼女の戦闘シーンを見たことがなくコメントに困ってしまった。


 しかも、レボルにいたっては武器を落とすという失態であるため、下手に触れることすら気まずい。


 言葉で言い表しにくい空気になった三人は示し合わせたかのように1方向を向き、出口を探し始めた。

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