第51話 歴戦の戦士とキズラキ
《うおおおおおおお》
《まじか……》
《絶対他の奴らの配信でバラすんじゃねえぞ》
《もう遅いよw鳩がすごいんだからw》
《最速到達ポイントでっか》
「う……っわあ……!」
様々な反応を示すコメントに、目を輝かせるミソラ。
彼女にとってはこれが初めての体験だから、ここまで大袈裟なのも納得だ。
いつの間にか如月の視聴者は5万人に到達しており、明らかに自分以外のファンも見に来ているようだった。
「あ……それと……もし……配信を見に来た人が……なら……風に……気を付けろ……言ってね」
この階層は上の階層とは違って暴風が吹き荒れていた。
そのせいで、如月の声がかき消されて配信に声が乗りにくくなってしまう。
近距離でも聞き取りにくいような状況だったため、ミソラと如月は向かい合って目で合図を送り合った。
(先に進もう。魔物が現れたら武器を取り出して)
分かった、と言うように首を縦に振り、凄まじい風圧に耐えながら二人は先を急いだ。
1階層のとき同様に魔物の気配が一切感じ取れない。
それは、良くも悪くもそういったルートを通っているだけに過ぎないのか、あるいは一方的に狙われているのか分からないことだけが不安だ。
しばらく進んでいると、二人の足元が不安定になり出した。
どうやら地面が湿った泥道を歩いていたようだ。
「なんか……汚いな。空気が淀んでるのが風の影響もあるだろうけど、かなり感じる」
「……あ! 声聞こえます! やっぱり変な匂いがしますよね! なんだろう……」
如月は【五感強化】を発動し、〈嗅覚〉で何者かの正体を探知しようと行動する。
そして、如月は安易に能力を使ってしまったことにすぐさま後悔することになった。
嫌な香りというにはあまりにも不可解すぎるし、心地よい香りというにはあまりにも邪悪なそれは、こちらに向かって襲い掛かってくる。
「なんか……変な感じがします……」
「ちょっとミソラさん……? っ、そっちは駄目だ……」
《どうした?》
《ミソラちゃん?》
《おいおい何か見つけたんか?》
《急がないと先越されるぞ》
視聴者の誰一人にこの状況が伝わらない。
そうなると、如月が声を上げて警告しなければ、上の受験者達にも伝えることは不可能になる。
なのに、声が出ない。
如月は地面に膝をつきながら、先に行ってしまったミソラに向けて手を伸ばしドローンを見つめて精一杯主張する。
だが、その思いは誰にも届かなかった。
「……お、君が如月君か? 良かった、君のお陰でここまで来れた……ん? どうしたんだ?」
「……ポラ……ロさん、やばい……です」
「なんて?」
ぬるりと天井から生えてきた長身の男が如月を見つけて困惑した様子で話しかけてくる。
彼の名前はポラロ。チャンネル登録者数は65万人と受験者の中で最も人気と知名度を兼ね備えた超人男である。
あのスイカが言うには、彼が今回の試験で誰よりも合格確率が高いらしい。
それ故に、この状況を察する能力も高かったようだ。
ポラロは自身の口と鼻を手で塞ぎ、肩に背負っていた太刀を握り周囲を見渡した。
そしてただ時が過ぎるのを待ち、這いよってくる何かを捉えようと鋭い眼差しで彼方を凝視する。
「……そこか。消えろサキュバス!」
魔物の名前を叫ぶと同時に彼の太刀が空を切った。
その斬撃は何もない空間で破裂して轟音とともに悲鳴が鳴り響く。
当然、その嬌声は人間の声などではなく気味の悪い悪魔の声だった。
やけに不気味な表情をしたサキュバスが暗闇から現れ、二人の前に対峙する。
「こいつだけか。如月君立てるか? 無理そうなら俺がこいつのポイント貰うぞ?」
「……お願いします」
「任せろ。俺はこう見えてダンジョン歴15年だからな」
そう言うとポラロは空中に飛び上がり、右手をサキュバスに翳して、詠唱を唱えた。
「【呪縛】。こうすると……ッ、魔物は拘束されるッ! そして……叩き斬るのみ!」
全体重のかかった一撃がサキュバスの脳天に直撃し、断末魔を上げて特に抵抗もせずに絶命する。
《さすポラ》
《こりゃつえーわ》
《何ポイントだった?》
「お、そうだったな。ポイントは……5ポイントか。みんなの予想通り上よりもポイントが大きいな」
「う……気分悪いな……」
如月はフラフラとした足取りで立ち上がり、ポラロの隣に立った。
ポラロも如月に見えるようにバングルを傾け、合計ポイントを見せつける。
如月とのポイント差はわずか5ポイント。あと1体倒すだけで彼に追いつかれてしまう。
「先を急ぐ前に彼女を……ミソラさんを助けに行きませんか? 試験の期間は2日間、初日くらいは協力し合っても問題ないと思います」
だが、如月はいたって冷静にミソラ救出を提案する。
――試験中は他人を信用しないでね。
たしかに、スイカの発言は間違っていないと分かっていた。
しかし、今回の試験ではそうじゃない。
ただの攻略者じゃない、配信者同士だからこそ助け合えるのだと、如月は信じていた。
「その提案、いいね。こんな上層で争っても仕方なさそうだしな」
「えっと……ポラロさん。体調が戻るまで前は任せます」
「おう」
如月の提案に対してポラロは快諾し、笑顔を見せる。
そうして、ポラロが差し伸べた如月よりも一回り大きな手を、如月は力強く握り締めた。
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