国家試験編
第49話 国家資格を取れる器
清々しいほどの晴天が会場全体を優しく照らす午前9時前。
如月はマスクと帽子で顔を隠しながらコソコソ向かったせいで遅刻寸前の時間に到着してしまった。
しかし、心情では焦り1つなく自信に満ちており、堂々とエントランスホールに足を踏み入れる。
既に受験者は大体揃っている様子で、一同がこちらを見て様々な反応を示した。
同世代の参加者は目を丸くさせる一方、ベテランの人々は目の敵にしているような表情でこちらをじっと睨みつけてくる。
そうした中、会場の奥から眼鏡かけ書類を持つ壮年の女性に如月は声をかけられた。
「あなたが受験番号30番ね? 集合時間ギリギリよ、気を付けなさい。……9時になりましたので、事前に説明ルールを改めて説明します」
そう言うと試験監督は書類のページを開いてルールブックの音読を始める。
だが、その内容は如月が前日に聞いたものと全く同じであり、注意こそされたが動揺はしなかった。
この空間には自分を含めて30名、もう誰も如月の方を見ようとはしない。
「今回の試験は、2日間にわたって10階層のダンジョンに挑戦し、最もポイントを獲得した上位5名を無条件で合格とされます。ポイントは魔物にとどめを刺すか、ボスモンスターの討伐に成功することで得られます。また、各階層に最速で到達した者にもポイントが与えられます」
(……水華さんのときより倍率が下がったな)
説明を軽く聞き流そうとしていた如月は初見の情報に驚き、慌てて集中して耳を傾けた。
淡々と試験監督は説明を続けていく。
「――そして、あなた方にはこのバングルを着けてもらいます。これは命綱の代わりでもありますので、絶対に外さないでください。魔物から基準値を超える攻撃を受けた瞬間に【転移魔法】が発動してこのエントランスホールに転移するようになっています。この【転移魔法】が2度発動してしまった時点で失格となります。そして、少し複雑な話をしますが、これを着けている皆様の番号の状態が分かるようになっています」
それぞれに時計のようなバングルが配布され、着用すると画面上に如月の受験番号である30番が表示されてすぐに1から30までの数字が表示された画面に切り替わった。
「数字が表示されている方は生存中、この数字が点滅している方は1度だけ【転移魔法】が発動しています。そして、数字が表示されなくなった者はその時点で失格となったことが他の受験者にも分かるようになっています」
すごく簡潔な言葉で伝えられたおかげで、途中から話を聞き出した如月にも理解が出来ており、それは周囲の彼らも同様に安堵の様子だった。
その後、ちょっとした説明が数分間行われていよいよ開幕の合図が上がる。
「では、第107回ダンジョン攻略士国家試験の開始を宣言します。今より配信を許可します。ダンジョン内は複数の隠しカメラによってライブ配信されているので、くれぐれも攻略者としての行いには注意してください」
宣言とともに多くの受験者達が配信を初めてダンジョンの入り口に向かっていった。
そして、一歩遅れて数人が行動を開始し、ゆっくりと配信を始める。
その中に、如月も紛れていた。
「……お久しぶりです、みなさん。あれ、どんな感じで配信してたっけ。まあいいか。2日間よろしくね」
最新式のドローンに追加された新機能である透明化を解除し、1週間ぶりに配信を始めると、すぐさま大量のコメントが飛び込んでくる。
《おはラギーーーー!! やっと言えたぜ》
《生きとったんかワレェ!》
《スイカはどうした》
《あれで資格持ってなかったのか……(恐怖)》
《イコカも会場にいねえか?》
「イコカさん? あーもう行ったみたいだね。残ってるのは……」
残っているのは、自分を含めて初受験者しかおらず、控えめに言っても合格確率が低い者だけが動けていない状況だ。
だからといって、警戒すべき相手がいないとは言い切れない。
背後から近付いてくる特徴的な足音が、警戒すべき相手の一人である彼女の証明だ。
「君って、こないだ話題になってた如月って人だよね? そうだよね、見たことあるもん君の顔!」
「えっと……ミソラさんですよね? ダンジョンに潜らなくていいんですか?」
ミソラは戦闘服にしては派手すぎるドレスを身に纏い、歩くたびに甲高い金属音が響くヒールを履いている。
チャンネル登録者数も1.5万人と参加者の中でも少ない方だが、スイカが彼女のことを注目すべき人物だと特に推していた。
「大丈夫! 徒競走じゃないし、先遣隊の情報は視聴者さんから聞けばいいじゃん! ゲームオーバーにならないことが1番大切なんだから」
「それは……たしかに。ダンジョン自体に初見殺しが仕掛けられていたら危険ですしゆっくり行くのも策ですね」
言動を見ている限り、単純な力で戦うタイプじゃなく頭を使って立ち回るタイプのようだが、どうしてこの試験を受けに来たのか全く分からない。
彼女に受かる算段やら能力が足りているのかが如月には判断出来なかった。
(まあ……わざわざ国家試験を受けに来るってことは相応の実力は絶対あるよな)
気付いたときには如月とミソラだけになっており、二人はお互いの配信が動いているのを確認すると軽く会話を交わしながらダンジョンに潜っていった。
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