第48話 如月絃の傲慢
――お久しぶりですね、如月君。
と、彼女がたしかに言っていた。
「わぁ……これが最新式ですか? めっちゃ綺麗な丸み……あと軽量化されてて持ち運びやすいです!」
「如月様、バッテリーは太陽光式と魔力式の両方で充電可能でございます。太陽光だけでも最大30時間ご利用いただけます。また、以前のデータは一切手を付けず、1年分のデータがそのまま残っております」
パワーアップして帰ってきた球体のドローンは輝きを取り戻しており、素人目から見ても素晴らしい物に変化している。
勿論、元のデザインが決して悪かったというわけではない。
「『少し痩せましたか? 顔から疲労がこちらにまで伝わってきます。お忙しいこととは存じますが、ご自身の健康管理にもお気を付けてください』」
「たまちゃんも元気そうで良かった……元々AIだけど。それで、資格の話お願いしますよ水華さん」
ようやくいつもの三人が揃い中断していた話の続きを水華に振ると、彼女は誇らしげに語り出した。
「申し込みとかは勝手に私がやっておいたから気にしないでね。これが公式アカウントなんだけど……んん?」
意気揚々と説明するつもりだった彼女の顔が、一瞬曇る。
如月は彼女のスマホを覗いてアカウントを見てみると、そこには大々的に告知されている自分自身の姿があった。
「ありゃ……今回はいつもとは違うんだね。私のときは10人くらいしかいなかったのに、今回は30人もいるみたい。例年通りなら合格率は10%くらいだけど……いつもより多いんじゃないかなぁ?」
Zの公式アカウントに貼られた1分弱の動画に彼らは没頭する。
音声付きで流れる映像でトップバッターを飾る如月と、見たこともない他の受験者と思われる人達。
それっぽいBGMとなんか格好良い演出によって強そうに見える何十人の表情が映された後、デカデカと『5月3日、配信開始』と文字が大きく映され――
「……は?」
声が思わず漏れて口を抑える如月と、もう1回あちゃーといった様子の顔をする水華。
「なになに……『今回は受験者全員が配信者であるため、特別に全編配信を行います。また、受験者全員からの許諾を得ています。さらに、受験者全員の個人配信も自由です』だって! すごいね〜」
「許諾って……絶対水華さん知ってましたよね? だって僕は何もしてませんから」
今回が特例中の特例だということは、流石に如月も分かっていた。
しかし、それにしてもこの宣伝はやりすぎだ。
こっそりと試験を受ける予定だったのにこれじゃ目立ってしょうがないじゃないか。
だが、裏を返せば受験相手の情報も事前に知ることが出来る。
上手く利用すれば自分の合格率を上げられるかもしれない。
「水華さん、注目すべき人とかいますか? 僕はそういうの疎いんで教えてほしいです」
「良い質問だね! チャンネル登録者が50万人以上……キズラキ君より多い人は何人かいるけど、実力的には勝ってるからなあ。あっ、でも君が知ってる人がいるね! この人……誰か分かる?」
水華が指差したのは、金髪で同年代と思しき好青年だった。
いや、彼女が言う言葉を信じるなら、彼が誰なのか分かるかもしれない。
「もしかして、これがイコカさん?」
「正解!」
如月の想像通りの彼の姿に、つい如月は笑ってしまう。
色々と派手だが、イコカを一言で表すなら『スイカの男性版』と言っても差し支えないレベルで、彼女に見た目の雰囲気が似ていたからだ。
「イコカ=ツミ君ぐらいかな、君と同じくらいかそれよりちょっと強いって言い切れるのは。私の予想だと君とイコカ君が合格すると思ってるよ! それだけキズラキ君は強いし、賢いんだよ」
久しぶりに素直に褒められて赤面した如月は、照れ隠すようにわざとらしくタブレットの画面を指差して、彼女の視線を誘導した。
「例えばこの人とか……僕やイコカさんよりも大人びて見えるというか……明らかに30代以上ぽい人とかも資格取りに来るんですね」
「んー……むしろ私達みたいな未成年の方が珍しいかな。会場に行ったらみんな年上だったし……私のときは杖つきながら試験受けてた人もいたよ?」
さらに話を掘り下げていくと、どうやら受験者の平均年齢は20代後半から40代前半で、チャンネル登録者が100万人に満たないダンジョン配信者の一発逆転を狙う場所にもなっているらしい。
「それだけ資格を有することがステータスになるんですね」
「迷宮に入れるだけじゃなくて、A級ダンジョンも行けるようになるのは大きいからね。国内だけでも6割以上がA級ダンジョンだから、一気に知名度を上げることに繋がるんだ」
現在時刻は16時、集合時間は翌日の9時までかなり時間が残っている。
全員の情報収集をしながら、明日の身支度を済ませて対策を練っているうちにすぐ夜を迎えた。
自信満々な如月と対象的に水華は不安そうな表情でこちらの目を見て言葉を口にする。
「最後にね、キズラキ君。今の君がどう受け取るか分からないけど、試験中は他人を信用しないでね。優しくて賢い君なら協力した方が合格する可能性が上がるって考えてるかもだけど、私はオススメしないよ」
彼女の言葉を聞いても、如月は動じない。
彼女のときとは状況が違う、配信者だけならきっとそれぞれで配信するし、助け合っていくはずだ――と、心の中で如月は思っていたからだ。
だからこそ、如月は二つ返事で答えて忠告を受け入れたフリをして会話を終えてしまった。
――翌日、自分が痛い目に遭うことになるとは知らずに。
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