第47話 ダンジョン配信者になるために
「……水華さん、今日もよろしくお願いします」
暗闇に包まれた真っ白のボックスの中に、一筋の光が差し込まれる。
後光に照らされ黄金に輝く彼女の姿は、以前と変わらず麗しき肉体を保っていた。
「じゃあ今日も戦おっか? どうかな、症状は落ち着いてきた?」
「はい、大分落ち着いてきましたね……おかげで予測が全く出来なくなってしまいましたけど」
如月は口を動かしながらも、彼女から投げ渡された木刀を手に向かい合う。
そして、戦闘は開始する。
すぐさま水華が飛びかかってきたため、反射的に木刀で受け流したが上手くカウンターを与えられず、再び攻撃の隙を生み出してしまい、彼女に距離を取られてしまった。
数日前の如月なら一度たりとも負けるはずがないのだが、軟禁され続け意図的に弱体化させられている今の如月では、手も足も出ない相手だ。
それでも如月は【五感強化】を発動し、反撃のチャンスをうかがう。
しかし、迷宮の外に出てからの彼女は本来の力を取り戻したように強く、防戦一方の戦いが続いた。
「向こうではあんまり戦えてなかったけど! 本当の私はもっと強いんだからね!」
「速っ……あ」
一瞬の不意を突かれた如月は木刀を吹き飛ばされ、首元に剣先を触れられて白旗を上げる。
「……勝った。やっと勝った! ようやくだ、久しぶりに勝ったんだ! それと完璧に【第六感】は治まったみたいだね!」
「みたいですね……あの、そろそろ降りてもらえると嬉しいです」
如月がそう言うと水華は心底嬉しそうに跳ね上がって部屋の外まで飛び出していった。
あの時、白髪の魔物と対峙していたときのような景色を見ることはもう出来ない。
どうやらその能力は【第六感】と呼ばれているらしく、これのおかげで相手の攻撃を完璧に予測出来たりとにかく自分の思い通りになったりしていたようだ。
しかし、迷宮をクリアしてすぐに黒金財閥まで運ばれて【第六感】の解明を行った結果、脳の負担があまりにも大きいことが発覚し解除せざるを得なかった。
ただ、その手段が如月には分からないまま1週間が過ぎてしまったが、スイカとの戦闘を繰り返していくうちに自然と元の状態に戻っていた。
「如月様、こちらの衣服をご着用ください」
しばらく部屋の中で考え込んでいると、黒いスーツを纏った老執事がこちらに話しかけてくる。
彼の手元にはシワ1つなく丁寧に折り畳まれた最新式の戦闘服だった。
執事から手渡されてすぐに着替えてみたが、たしかにこれは戦いやすいだろう。
以前スイカから貰ったパワースーツと比較しても着心地が良くとても軽い。
それに加えて、手の甲で胸部分を叩いてみた感触が前よりも伝わりにくく強度が格段に高まっていることが分かる。
感謝の言葉を述べながら如月は部屋の外に出ると、真っ先に飛び込んできた光景に圧巻された。
「ここ……水華さんの自室? めちゃくちゃ大きいですね……」
「そう! そっちの部屋は私の練習部屋ね。便利でしょう?」
「質の良い牢屋かと思ってましたよ。それと……もう5月ですよね? 全くネットに触れてなくて全然外の情報が分からなくて……あと、僕のドローンはどうなりました? 無事でしたか?」
怒涛の質問にたじろぎつつも、水華は端的に答えてくれる。
どうやらたまちゃんの入ったドローン自体にかなりガタがきていたようで、データやAIを搭載させたまま別の機体に移してくれるらしい。
そして、肝心の外の情報についてだが、黒金財閥が手を回していたらしく、世間で如月は入院していることになっているらしい。
「あ、あとね! 私はスイカとしての活動を一時休止することになったから! 休止期間は君が1人前になるまでサポートするよ」
「……活動休止? 何で……? てか、約束はどうなるんですか!?」
「約束はまた今度ね、私もやらないといけないことがあってさ。それとね、もしこれからダンジョン攻略をして生きていくなら、資格が必要だよ? 国家資格」
初見の情報に驚き動揺してしまう如月に対し、水華は淡々と資格について語り出した。
「正式名称はダンジョン攻略士って言って、その資格がないとキズラキ君がいた迷宮に入ることも出来ないし、ダンジョンもA級以上は配信も攻略も出来ないからね! 私は資格を当然持ってるし、何なら【Aランク】なんだよ!? 筆記試験と実技試験があるんだけど……君の頭脳なら筆記試験は後で平気だね! あと……」
「――ちょっと待ってください! 色々情報量が多すぎます。その……試験っていつですか?」
1週間ぶりだからかやけに早口で彼女は興奮している。
背後の執事もニコニコと聞いているだけで何もしない。
仕方なく彼女を制止して日程を聞くと、あまりにも意外な返答が返ってきた。
「試験日? え、明日だよ? 5月3日の祝日! ゴールデンウィーク中だし受験者多いだろうね〜有名人だから目立っちゃうかもね! 初受験だ!」
「明日!? まだ会場も分からないんですけど……!?」
「大丈夫! 今日私が仕上げるよ」
そう言って水華は如月の手を優しく掴んだ。
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