第41話 最初で最後の告白タイム
「スイカさん……オーガは僕でも見たことがありますよ。純粋なタイマンだと相当面倒ですが……仲間がいれば、全く苦でも魔物です」
「そうなんだ! スイカはいっつも力比べしてたから分からなかったよ!」
何度もフィジカルで解決してきたスイカに驚かされることばかりだが、今回に限っては例外。
オーガとタイマンで殴り合えるなんて、まさか配信者最強なんじゃないか?と、言いたくなるほど彼女はめちゃくちゃなことをしている。
しかし、今から行うのは共闘だ。
昨夜二人で遅くまで考え抜いた対ボスの作戦を試す絶好の機会だろうと思い、如月が合図を出す。
まず標的を1体に絞るため、比較して若干小柄な方に向かって如月は先制攻撃を放った。
「
オーガの右肩に切りかかる。だが、如月の刃は強靭な肉体を通らない。
この魔物は正面からの攻撃を防ぐ特殊性質を持つ。
まあ、ここまでは想定通りだ。
如月は〈触覚〉を強化して2体同時に仕掛けてくる攻撃を回避し続けヘイトを買う。
その間にスイカが【武器創造】を行い、完成した新武器を異空間から取り出して大声を上げた。
「撃つよー!!」
「……来てください! たまちゃんは上に!!」
オーガ達が陽動に釣られたことに気が付いたのはそのときだ。
照準内にいた彼らは避けることも出来ず、彼女が担いだロケットランチャーからロケット弾が放たれ、見事にオーガの胴体に着弾する。
「……ァァッ」
声にならない声を上げてオーガは絶命。
一方の如月は着弾こそ避けたが爆風は避けられず、砂煙の中に塗れてしまった。
「キズラキ君ー! 大丈夫だよねー!?」
流石のスイカも心配した声色で如月に声をかけてくる。
塵埃に塗れつつ如月は少し焦りが混じった声で返答しながら五体満足に立ち上がった。
「……これいけますよ! お互いの弱点を完璧に補い合えてます!」
《何が起きた?》
《今の爆風に巻き込まれなかったの?》
《FF注意しろ》
ここまで二人の作戦を理解出来ていない様子の視聴者が大量発生し、内心ニヤニヤとしながらコメントを拾い上げる。
「これが僕達の作戦なんだよ。足元に落っこちてるオーガの肉塊を見て? 物理攻撃は効かなくても魔力で出来た弾丸なら攻撃が通用することを利用したんだ」
《どうあがいても如月君も巻き込まれてると思うのですが、どう対処していますか?@たまちゃん》
「それは爆風が当たった瞬間に回復魔法を使ってなかったことにするんだよ! あれだよ! 阿吽の呼吸ってやつ!」
如月の代わりにスイカが理由を述べると同士にコメントが一時的に停止し、理由が分からず二人して目を合わせて困惑していると、爆発的にチャット欄が沸き立った。
《は?》
《それを作戦と称していいものなんかwww》
《アドリブでやる作戦の方が上手く行くだろwwww危ねえwwwwww》
《脳筋と常識知らずのチームだってこと忘れてたわ……orz》
《たまちゃんも次から話し合いに入れようね……》
《どんな作戦やねん!!》
《めちゃくちゃ怖かったので2度とやらないでください》
《激ヤバタッグ》
《頭お花畑コンビ》
《フィジカルゴリラデュオ》
《一連の流れ草すぎる》
「え、ええ……? 僕発案なんだけど駄目だった? 通用するんだけどなぁ……」
視聴者からのウケが悪すぎて落ち込んだままの如月は、足元に転がっている消えかけの肉体を眺めて考え直す。
(昔はもっと強くて大量のオーガが棲みついてたはずなのに、今日は全然いないな……スタジアムの中にいるのか? それとも……)
嫌な予感までしてきたが、パンテオンスタジアムから漂っている異様な雰囲気は以前と変わっていない。
ということは、オーガとは違う魔物が棲みついたままだということ。
「それと……パンテオンスタジアムに入ったらコメントを読むことが出来なくなると思う。だから事前に伝えておきたいことは今のうちに言っといてほしい」
俄然スタジアムに対する警戒度が増していく中、如月は息を呑んでドローンに向き合い覚悟を告げる。
それからパンテオンスタジアムに向かうまでの間、告白とも受け取れるような様々なコメントに配信が埋め尽くされた。
《なんだかんだお前のこと好きになったから生きて帰ってこい》
《お願い、またコメント読んでね》
しかし、如月のコメントはこれくらいで止まり、スイカの方に大量の告白が届けられていた。
数分もしないうちに静かな町を歩み続け、ついにスタジアムの前に到着する。
眼前で嫌な雰囲気が蠢き、すぐに立ち退きたい気持ちになったとしても彼らは退くことが出来ない。
改めて如月は配信画面をちら見し、その視聴者数に驚愕する。
同接15万人、コメントは目視不可能。
ヒシヒシと重圧を感じながらも如月は足を止めない。
「いくよ……スイカ達の最後の戦い! どんなボスが来ようと絶対に勝つよ!」
「……生きて帰る。迷宮なんて……ブッ壊してやる」
そう言って二人はスタジアムの中へ入っていく。
入り口には大きな受付ロビーが広がっていた。そこに魔物の姿も気配もなく、特別異変が起きているわけでもなかった。
それなのに、如月の嫌な予感が止まらない。
彼らは受付ロビーを抜けてスタンドに足を運び、周囲の様子を見下ろして魔物がいないか確認してみるが、またしてもモンスターの跡すら残っていなかった。
こんな簡単に侵入できていいのか、本当は罠にハマっているだけなんじゃないかと思考しているうちにスイカがある物に気付いて声を上げた。
「あっ! すごいすごい! 実はこういうところに来たの初めてでさ……ワクワクする! フィールドで戦うのが夢だった!」
「戦うのが……?」
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