第40話 迷宮攻略最終日
「配信つける前に今から入る中央のエリアについて聞いてもいい?」
ドローンを起動しようとする手を止めて、水華の質問に耳を貸す。
「答えられる範囲なら……」
「ねね、ボスの姿は見たことがあるの? 立ち入ったことがないらしいけど鳴き声とかで予測出来たりするかもしれないし」
「いや……それが……前に近くまでいったときは声も聞こえなかったんです。何というか……そこだけは立ち入ってはいけない雰囲気だったというか、その中を覗こうとしただけで殺される……そんな空間でした」
誇張した表現は一切ない。
率直な感想を如月が述べると、彼女も何となく察したようで眉間にシワを寄せて悩む素振りを見せた。
「なるほどー? 巨人族が封印されている可能性があるね。それを解放した段階で倒さないといけないのかも」
「それなら……僕達で勝てそうですね」
とにかく、如月でも想像できる魔物ならまだ勝機はあるかもしれない。
しかし、如月が感じたのはそういった類の恐怖などではなかった。
殺意とは違う感覚……例えようと思っても難しいもの。
などと考えているうちに、スイカが勝手にドローンの電源を付けて無理やり配信を開始する。
「みんなおはよー! 迷宮攻略7日目! ちょうど1週間だね、今日でクリアする予定だからみんなよろしくね!」
「……おはラギ。昨日は想定よりも戦って体力を消耗しちゃったけど、心配はいりませんから。この三人でダンジョンから脱出します」
声高々に宣言して視聴者の士気を鼓舞する如月。
《いくぞおおおおおおおおおおお》
《絶対に生きて帰ってこい》
《スイカだけは自分の体盾にして守れな》
様々な反応がある中、如月の目を引いたのはどこかで見たことがある名前のコメントだった。
《応援してます。必ず生きてください》
何てことはないコメント、だがハーキマーという名前は聞き覚えがある。
文章とともに【初めてのコメント】と強調表示が配信者側で表示されていることが、如月の想像する人物だと何よりも証明になっていた。
このコメントを残したユーザーはたまちゃんを除いた唯一の如月の視聴者だった人だ。
普段はコメントをせず(ロム専)、チャンネル登録とZのアカウントをフォローだけをしてくれた人の名前まで一致している。
特に、Zでフォローしてくれたアイコンと完全に一致していることから、同一人物だと理解した。
かといって、他の視聴者から見れば彼が如月の古参なんだと知らないし、当人も普段はコメントを残さないところから目立つのを嫌っているかもしれない。
色々悩んだ末に如月はそのコメントを読み上げず、覚悟を決めて中央エリアへ足を踏み入れた。
「この中央エリアってどんなところなの?」
「中央区はこの迷宮内で最も栄えていたといっても過言じゃありませんね。まあ……今じゃ原型がないくらいモンスターに破壊され尽くされましたけど」
そうして如月は過去の思い出語りをしながら、目的地に向かっていく。
道中で様々なモンスターに遭遇したが、度重なる戦闘を経て連携するようになった三人にとって最早敵ではなかった。
やがて片手間に処理するようになった段階で如月はあることに気が付く。
「今日平日だよね? なんか人多くない?」
純粋な疑問で尋ねただけなのだが、それだけでコメントの流れがいきなり速くなり久しぶりにチャット欄が荒れだした。
《お前さ、舐めてんの?》
《ズル休みしてるよー》
《体調悪い中見てます》
《リモート最高やぞ^^》
《それ以上は止めてください、苦しくなります》
「ああ……なんか、すみません。定期的に傷付けてる気がするから気を付ける。……とか言ってたら見えてきたな」
如月達は一旦足を止めて目的地の建物を遠くから見つめる。
そこはパンテオンスタジアム。
どの競技なのか忘れたが世界大会の会場にもなっていたし、かつてはそれなりに国内でもかなり大きいスタジアムだった。
それが今では……ということもなく、周辺の建築物が崩壊している中無傷で放置されている稀有な土地であるため、遠くからでも視認出来るようになっていた。
初めて現場を直視したスイカも気配までは感じていなくとも明らかに嫌な表情を見せ、視聴者に向かって珍しく不安を口にする。
「あれは……すごいね。今まで見てきたどの町よりもめちゃくちゃだし『ここにボスがいますよ〜』って感じがひしひしと伝わってくるよ……! 戦いたい気持ちと戦うのが怖いなって気持ちが半々なのいつぶりだろう……!」
無理やりテンションを上げているように見えなくもない。
しかし、如月の思考とは裏腹に二人のチャット欄は盛り上がり続け、配信を開始してから1時間も経っていないのにも関わらず、合計の視聴者数が20万人を超えていた。
《地上波デビューおめでとう如月!》
《日本中がお前に注目しているぞ!》
《私達は必ず生きて帰ります@たまちゃん》
《うおおおおおおお》
《たまちゃんを信じとるよ》
《普通の日常が送れるよう願っております》
「ああ、生きるよ。だから……今から応援頼むよ」
「おっ? こいつは鬼だよ! オーガ! でもボスモンスターっぽくないし、門番……なのかな!?」
大柄の体型に2本角が生えた人型の鬼――オーガが三人の行く手を阻んだ。
如月とスイカは武器を構えて2体のオーガと対峙し向かい合う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます