第33話 配信のことすら考えずガチ攻略

「ギィィィィ!」

「おらっ! はぁ……やっぱり数が増えてる……というより何十匹か生き返ってるな。リッチを先に倒して蘇生を止めないと」


 何度撃破しようとも、上空にいるリッチが魔物を蘇らせる。


 徐々に如月達は囲まれて真ん中に押し込まれていく。


 ジリ貧になりながらも、必死に耐え続けてドローンの帰還を待ち続けた。


 コメントも読めず、スイカと会話もままならない状況下でもオークやゴブリンを斬り続けていると、空中で何かが爆発する音が起こり、即座に如月は空を見上げる。



 リッチの周りを衛星のように周回し続けるドローンの姿。

 そして、それを撃墜しようと必死に魔法を打ち続けるリッチの姿が見えた。



 どうやら追尾機能を利用してリッチに振り落とされないようにたまちゃんは戦っているようだった。


 如月が彼女に頼んだのは攻撃ではなく、偵察。



〈視覚〉を強化すれば視認することは出来るが、それだけでは何も情報を得られない。



 ドローンたまちゃんなら、リッチの細かいデータを収集することが出来ると考えて如月は送り込んだ。


「あははは! 無限に出来ちゃうね! 魔物狩り!」


 リッチ対策を練る一方でスイカは視聴者を含めた誰よりも楽しそうに戦闘を楽しんでいる。



 もし、一瞬この場所から離れることになっても彼女に任せられそうで少し安心だ。


 リッチと雑魚モンスターを交互に見ながら戦い続けていると、何十周もしてデータを取り終わったのかドローンが急降下して如月の元まで帰ってきた。



《くそほど酔った》

《臨場感ありすぎて映画かと思った》

《目が回るから次からはやめてほしい》

《まだリッチの姿が見える気がする》

《知らん間にめちゃめちゃ倒してて草》

《素人だけどあいつが強そうなことだけは分かったぞ!》

《分析完了しました。これから長文で説明します@たまちゃん》



「ありがとう! コメントも固定しなきゃ……」



 片手間で魔物を相手にしながら彼女の分析した内容を待つ。

 そして、送りつけられた長文を読む前に固定し声に出して読み上げた。



「結論から申し上げますと、私達に見えていたリッチは実体ではありません。あれは分身体の可能性が高く、魔物を効率的に操るために監視していると思われます。本体の方も完全に魔力を持っていないとは考えられません、必ずどこかに潜伏していると思われます。@たまちゃん……」


《実体じゃないとは》

《本体がどこかにいんのか……》

《こっから町中を探すのきつくね?w》

《表情はガチだね》

《キズラキもなんか閃いた感じか?》


 やはり、イコカのアドバイスは的確だった。リッチも如月の思考に気が付いたようなタイミングで右手に持っている杖をこちらへ向けてきている。


「スイカさん! 上からの攻撃を避けながらモンスターを狩っておいてほしいです! 僕はその間こいつら蘇生させてる奴を倒してきます!」

「分かったよ! スイカを舐めないでよ? 多分……500体くらい相手なら前にも戦ったこともあるしいけそう!」



 そう言って彼女は余裕そうに微笑み、殺戮の限りを尽くすために戦う手を止めない。


 杖の先から放たれる魔法を〈触覚〉を強化して魔物の隙間を通って回避し、ある場所を探し回る。


《俺らみたいな視聴者にも出来ることはあるか!?》


「そうだな……スイカさんと一時的に離れるから速報だけ頼みたいかも。ただ、嘘はだめね」

「『地下鉄への階段はここから100メートル先を右に曲がったすぐにあります。そこから下りましょう』」

「オッケー。行くぞっ!」


 魔物を切り倒していきながら全速力で魔物の群れを突破し、駅構内へと侵入した途端に漂っていた空気が変わった。



 今まで町全体を覆っていた悪臭が強くなり、〈嗅覚〉を強化していた場合失神してもおかしくなかったかもしれない。


 この状況を鑑みるに如月の考えは正しかったようだ。



「たまちゃん、君ならどこに隠れる?」

「『私なら……路線ですかね。そこなら常に逃げ回ることも可能ですし。ただ、分身体をわざわざ用意していることも考慮すると、逃げ道の多い路線よりも、構内のどこかに隠れている可能性がかなり高いと考えられます』」

「……臭いを辿ったら見つかるかなぁ……そうだ、たまちゃんは電波が途切れないところを動き回って探してほしい! 僕が見つけたら音を出すからそれを聞き取って……出来る?」

「『はい、勿論です。反対に私が発見した場合はわざと機体を壁にぶつけて音を出しますので、捉えてください』」


 それは無理かも……と、弱音を吐くわけにもいかず、如月は首を縦に振る。



 視聴者のコメントをしっかりと目に焼き付けて別々の行動を開始した。


 この地下鉄は、迷宮全体を巡る環状線になっており、逃げようと思えばどこにも逃げられるはず。



 しかし、如月達はそれを追いかけている時間などはない。仮に追いかけて『エリア9』辺りまで戻されてしまった場合、これまでの行いが全て無意味になってしまう。



 かと言ってトイレや待合室のような場所に隠れているような気もしないが、ひとまず【五感強化】して探してみるか。



 そう考えて如月は〈視覚〉と〈聴覚〉を強化する。


 どこかに糸口がきっとあるはずだ――と考えて行動開始から10分経過し、あることに気が付いた。



 ひたすらリッチの本体を探し回った。少なくとも『エリア11』内の構内は全て自分の目で確認し終えたのだ。


 しかし、それでも本体はおろか魔物の気配すら一向に掴めない。


 地下にリッチがいるという考察は間違っていないはずだというのに、本体は『エリア11』にいないのなら、自分達が彼らと戦ったことすら間違いだったということになる。


 焦る思考をフル回転させながら、もう一度同じ場所を探し回っていると、同様に1周し終わったドローンが通常よりも速いスピードで如月に向かって飛んできた。


「『イコカ様のコメントが数件送られてきていたので、全て保存しておきました。こちらをご覧ください』」



 そう表示された画面のほかに、初期機能で存在しているアプリが勝手に開かれ、びっしりと書き込まれたメモが映し出されていた。

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