第32話 大物関西弁配信者からのアドバイス

「……数、多すぎだろ」


 剣を振りかざしながら如月は小言を漏らした。


 斬っても斬っても敵の数が全く減る気配がなく、それどころかますます勢力を増している気がする。


 だがそんなことお構いなしにスイカは魔物を蹂躙し続けていた。


「これ何百匹目!? めちゃめちゃいるんだけど!」

「スイカさん、様子がおかしいです! ちょっと距離を取った方が……」


 しかし、彼女は如月の静止を聞かずに戦う手を止めない。


《二人で合わせて254匹撃破。全体の45%を撃破したことになります。@たまちゃん》


 たまちゃんのデータを聞き、さらに加速していくスイカだったが、反対に如月の思考は回転を開始する。



 まず、自分の経験から物事を予測してみるか。



 以前あったことだが、『エリア4』の地下鉄でゾンビに囲まれたことがあった。


 今の状況はそのときに少し似ている。


 最初は単純に数が多いだけと錯覚していたが、途中から自然と囲まれだし、致命傷とまではいかないが死にかけたあの日に。


 つまり……経験談からすると、注視すべきなのは目の前の魔物ではなく、周囲の様子だ。



 たまらず如月は【五感強化】を発動し、〈視覚〉を強化する。

 たまちゃんが町全体を視認しても、他の魔物の姿は見つからなかった。



 となると、ありえるのが二ヶ所のみ。如月は暗い空を見上げる。


 もし、ドローンよりも高い位置にいるならそれの存在を発見することは不可能。


 地下にいる可能性もゼロではないが、やはり直接視認できる場所ではなければ魔物だろうと指揮を取るのは難しい。


 過去に戦ったゾンビ集団も結局地下鉄の中に潜んでいたのだから、今回もそのはず。


 そう考えて見上げた視界の先には、邪悪なオーラを纏ったモンスターが浮遊していた。


「また新種の魔物だ……たまちゃん、あれは何か教えてほしい!」

「『今から調べてみます』」


 機械音を上げて謎の魔物の正体を検索するたまちゃんを待ちながら、近寄ってくる雑魚を散らしていく。


 その光景を見て視聴者はまだ呑気に戦いを楽しんでいるようだ。


《いけいけー》

《やれるぞーー》

《スイカの無双劇きたあああああああああああ》

《キズラキももっと真剣に戦え〜?》


(はっきり映ってないし気付いてないのか……)


 それに、戦ってみて思ったのだが、この魔物達はいつもより弱い。

 というか、明らかにスイカがより強めに暴れているのもそれが原因なのかもしれないな。


「『如月君。データの抽出が完了しました。あのモンスターはです。種族はアンデッド……つまり膨大な魔力を抱えて亡くなった死体が正体のようです』」

「……は、死体?  それってゾンビと一緒なのか? それ、コメントしてほしい」

「『分かりました』」


《何、どうしたの?》



 二人の会話を聞いた視聴者が疑問に思っているようなので、たまちゃんが何を調べていたのか説明する。


 連続して新種の魔力と戦い続けていた如月は、スイカの邪魔にならないためにも視聴者に弱点などを尋ねるほかなかった。


 たまちゃんに聞いてみるのも悪くないと思うが、やっぱり現場で戦った経験がある配信者が見ているのならばそっちに聞くのが信頼出来る。


《有識者求ム》

《8万も見てたら誰か一人くらいいるだろ!》

《新人を助けるベテランの展開来い》

《リッチの対処法なら知っとるで。そいつは魔物を蘇生させて数で襲って来る。物理攻撃のみやと相当苦戦することになるんや。やから魔力を扱って魔法攻撃でリッチ本体を撃破すんのが有効やな。》

《おっ》


 配信では見たことないほどコテコテの関西弁。コメント主のユーザー名を確認するよりも早く、チャット欄の彼らがすぐに教えてくれた。


《イコカきたーーーーー!?》

《イコカ!?》

《イコカ=ツミマジかよwwwwwww》

《人の配信でコメントしてるの初めて見た》

《アンタもコメントしてないで配信してなーー?》

《なんや、交友関係あったんか?》

《よりにもよってスイカとコラボしてるの草》

《あれ、スイカと仲悪いんじゃないっけ?》

《なんでやねん、接点何もないのに勝手に騒がれてるだけやんか。そんなん言うたら誰とも会話できへんって。第一な、今日も明日も平日やで? もう日が暮れとるしダンジョンには行けん。そしたらやれるのは人助けくらいやろ?》


 初対面の相手にこんなことを言える人に悪い奴はいないと16年間生きてきた勘が言っている。


 イコカに一瞬で落とされた如月は、満面の笑みでコメントを返していた。


「ありがとうございますイコカ先輩! でも……スイカさんはともかく僕は攻撃する手段がないんですけど、どうすればいいですかね? あの高さじゃ何やっても届かないですし」


 相変わらず戦闘の鬼と化しているスイカを横目に如月は相談を持ちかけてみる。


 様々な視聴者がいるが、今現れた彼ほど頼れる存在はいないだろう。


《そうやなーたしかに槍投げみたいに剣を投げてみるか? まあ当たらんやろうし、こないだ使ってた銃も威力はあれど命中させんのは至難の業やね。いっそのことカメラ本体を突っ込ませるのもアリかもしれへんなぁ!》


 若干投げやりなコメントにも見えるが、案外的を射ているかもしれない。


 が、このドローン自体は魔力を持っていないしリッチに攻撃を通すにはあと一つ何かが必要だ。


 思い切ってドローンに乗っかってリッチに向かって行くのもありか。だとしても、ドローンが負荷に耐えられるとは思えないし、仮に攻撃が通っても隙があまりにも大きすぎる。


 導き出された結論は一つ、


「……無理だな」


《無理なんかい》

《カメラで見えてないし無理》

《せやな、アンタには無理や。そもそもオレも分からんで? そんなとこに魔物がいる経験あるわけないやんか笑》


「そ、そんな……イコカ先輩でもそう思うなら……はっ」



 諦めかけたその瞬間、如月はイコカのコメントの真意に気が付いた。


 咄嗟にドローンに向かってたまちゃんにだけ伝わるように文字を打ち込み指示をする。


「ありがとうございますイコカ先輩! おかげで上手く行きそうです! たまちゃん、よろしくね」


《はい、任せてください如月君。@たまちゃん》

《お?》

《今から何が起こるんだ?》

《なんやなんや? 知らん間にアドバイスになっとったようやな? そないならええわ〜もうちょい配信見させてもらおうかな》


 急浮上していくドローンに向かって手を振り、如月はもう一度周囲の雑魚魔物を相手にスイカと共闘し始めた。

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