第22話 10万人到達記念配信はNGなし

「おはおはー配信付いてるよね?」


《もう夜な》

《よっすー10万人記念らしいけど何するん?》



 慣れた手つきで配信を開始しコメントを読み上げる。



「内容はタイトル見て! 今日は10万人達成記念としてこれをやるから」


《【NGなし】100個の質問答えます【如月絃】》

《ど定番のネタ知ってたんだな……感動した》

《マジで100個質問してやるわ》


 いつかやりたいと思っていたネタの1つ、それが『100個の質問』だ。


 念願の夢がようやく叶いそうでニヤケが止まらない。



 自信満々に次の台詞を読み上げ、カメラに向かってリアクションする。


「……勿論、スペシャルゲストもいますよ? 誰だろーなー?」

「じゃじゃーん! スイカでーす!」



《うおおおおおおおおお》

《うん、知ってた》

《でしょうね》

《板についてきたなそのコント芸》


(よし、いい感触だな)



 どんな質問が来るのか、二人でワクワクしながら待っていると予想通りの爆弾が投下された。



《お前らって付き合ってんの?》


「『お前らって付き合って……』付き合ってません。はい。残念……あなた達の期待通りにはなってませんから。スイカさんは清純派なので」

「清純派って何ー? どっちかというと武闘派ってよく呼ばれる!」


《清純派は清純じゃないのが通説だからな……》

《オタクにしか伝わらんて》

《たしかに武闘派だわあの暴れっぷり》


 1問1分程度、これならゆっくり答えていっても2時間くらいで終わりそうだ。


 数のカウントは誰かがやってくれるはず……



《今ので1つ目@姉》


 と、思っていたら1番頼れる存在がコメントしてくれた。


 次の視聴者からの質問は何にしようかとコメントを凝視していると、続いてスイカがコメントを拾う。


《今はどこ向かって歩いてるの?》


「いい質問! みんなは気付けた? スイカ達ね、実はもう銀翼山を下りきって『エリア10』に入りそうなんだよね!」

「怖いくらいに順調ですよね、僕達。あっ、僕だけだとしても苦戦する相手ではなかったですけどね? 本当に」


 怖いくらいに順調……実際はそうでもなかったが視聴者の前で弱音はこれ以上吐きたくない。

 それは彼女も同じで、今朝までの暗い雰囲気を一蹴するように明るく振る舞っている。



 この配信を始める直前に如月は一人反省会で決めたことを教えてもらっていた。


 5時間にも及ぶ反省会で定めたルールは3つ。


 笑顔を絶やさない、嘘を吐かない、カメラの前では配信者――簡潔に表すとそうなるらしい。


 ただ、彼女いわくここまで思い悩んだことはないらしく、自分に話しているときもどこか暗い面持ちをしていた。


(これが配信者ってやつか……)


 如月はその姿勢に深く感心しながら、続々と質問を答えていく。


《身長と体重は?》

《家族構成教えて》

《趣味とかある?》

《彼女っていた?》

《これからもキズラキって呼んでいいかキズラキ?》



「身長は180弱で体重は平均より少し軽いくらい多分! 家族構成はお母さんとお父さんとお姉ちゃんがいた! 趣味……中学の頃はバレーやってたぞ! 彼女はノーコメントで。それと別にキズラキ呼びでも構わないよ」

「スイカも1問答えたい! みんなスイカになんか質問してみてよ」


《スリーサイズ》

《ベンチプレス何キロいける?》

《今まで1番倒すのに苦労したモンスター教えてください》


 変なセクハラコメやスイカの体験談を求めるコメントがある中で彼女が選んだのは意外なものだった。


「『好きな異性のタイプ教えて』だって! ふふーん、スイカ答えられるよ?」

「え……それ読んじゃっていいんデスカ?」



 癖がありすぎるコメントを拾ったせいで如月は思わず焦り、彼女の目をガン見してしまう。


 僕よりも格上の配信者だと思っていたのに、と脳内で頭を抱えていると彼女の口からは純朴無垢な言葉が出てきた。



「第1の条件、スイカと同じくらい強いこと! 第2の条件、スイカに嘘を吐かない!」

「……普通だ。普通……普通だよね?」


《普通ではない》

《異性より先に異種族の方が見つかるんじゃないかな》

《俺だねその特徴は完璧に》

《スイカちゃんのも合わせたらこれで30個目の質問ですね@姉》


 まあ、恋愛関係のコメントを拾ったにしてはネタとして消化は出来ているように見える。


 それにしてもこの行動は意外だ。普段の彼女の口ぶりからして、こういったコメントは拾わないだろうと思いこんでいた。


 むしろ定期的に拾うことで視聴者の欲を発散させているのだろうか、とにかく配信する上で見習うべきポイントだな。



 如月は空を見上げて月を眺めながら、ポエムでも出来そうな心情の中、そのことを脳にはっきりと記憶させた。


 その調子で如月は生まれたときの話から迷宮生活1周年の質問まで、まるで尋問を受けているかのように答えていく。



《『人生で1番焦った瞬間』、意外だった@姉》

《個人的には配信を切り忘れて全裸で暴れていたのを見て血の気が引いた覚えがあります。あとこれで99問目でしたね@姉》



 とうとう99問まで答え終わり、最後の100問目を吟味する。



 そして、最後に相応しい質問を見つけそれを読み上げた。



「『同接が急に増えたのは嬉しいって言ってたけど、減ったらどうするの?』いい質問だね」


 同接――配信者にとって最も大切な数字といっても過言ではない。


 今現在如月の配信は同接12万人を達成しており、これは自己最高記録を大幅に塗り替えるものだった。



 スイカから直接伝授された配信魂から出てくる言葉は既に決まっている。


 如月は堂々とした態度で宣言する。



「減らせない。僕はスイカさんを超えるからね、何もかも!」

「……だって!」

「はい! 100個の質問終わり! 僕の配信は一旦閉じますので、また見に来てね!」


 こうして如月の10万人記念配信は、視聴者の困惑を生み出して放置したまま終わりを迎えた。



 そして、すぐに配信枠を切り替えたのにも関わらず視聴者の大半がスイカの方に流れたことで早速同接が逆転され、天然の烙印を押されることになるのだった。

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