第13話 配信者も死にたくない
「人数だけ……烏合の衆」
まるで何かの時間稼ぎかのように一斉に群がってくるリビングメイル達。
しかし、彼らの攻撃に知性を感じられないため、容易に回避したり反撃を食らわせ撃破を図る。
如月は覚悟を決めて、誰も見ていない中で技名を叫んだ。
「――
剣に力を込めて空を切り裂き、魔力混じりの斬撃を飛ばす。
これに触れた鎧は貫通し、金属が割れる音とともに砕け散った。
斬り裂かれた鎧の残骸だけが地面に残る。
この技を奇跡的に避けた2体のリビングメイルも、こちらを見て恐怖しているように後退りを始めた。
「トドメを刺さなきゃ……」
如月が確実に倒すため一歩前に足を運んだ途端、彼らは恐怖心を捨てたのか、はたまた狙っていたのか不明だが、2体同時にこちらへ飛びかかってくる。
避けられる――避けられるはずだったのに、右足が動かない。
動揺しながら右足を見下ろすと、かかとから足の甲全体が紫のスライムで固定されていた。
どうして、と口に出すことも出来ず、咄嗟に防御態勢を取り攻撃を防ぐ――これも防いだつもりになっていただけだったようだ。
最初に浮かんだ感想は、『やられた』だった。
彼らが仕掛けてきた攻撃はいわゆる自爆行為で、自らの体を犠牲に魔力を体内から爆発させて突撃してきたのだ。
「くっそ……」
数分の時が経過し、再び如月が目を覚ましたときには全く知らない木に寝そべっていた。
全身が痺れ立ち上がろうとするも起き上がれず、身体の違和感に気付く。
如月は吹き飛ばされ、木に打ち付けられた衝撃で意識を失い、さらには致命傷になりかねない傷を腹部に負っていたのだ。
辺りにはドローンもなければスイカから貰った剣もなくなっており、身を守る術も情報も失ったも同然だった。
そこに近付いてくる足音。死を覚悟しつつ待ち構えると、目の前に現れたのは金髪のツインテールの少女――つまり、スイカだ。
彼女はカメラも持たずフラフラとした様子でこちらに向かってくる。
その表情は無表情に近く、目もほとんど笑っていない。
「何か……あったんですか……?」
「それはこっちの台詞だよ。君のお腹はどうしたの」
そう言うとスイカは如月の血まみれになった腹部を指差した。
大丈夫かどうかでいうと全然大丈夫じゃないが、如月は作り笑顔で言葉を返す。
「平気、平気です……」
「そっか、平気なんだ。じゃあ私の話も聞いてもらえる?」
「別に……大丈夫ですよ」
嘘偽りない瞳のまま、本心から聞いてほしそうにいきなり彼女は語り出した。
「私ね、小さな頃からお母さんとか色んな人に『変わってるね』って言われてきたの。だってどうしても自分以外の人に興味が持てなかったから」
「そのときから【武器創造】は出来たけど、実用性がなくて、仕方なく道具入れみたいに使ってて」
「けどね……そんな私でも、そういう感情を持つチャンスが与えられたんだ」
それでもどこか、不安げで彼女らしくない雰囲気で淡々と物語った。
「何もやることがなくて、何となく見つけた配信を見て思ったんだ。配信者って神様みたいだな……って」
「神様?」
(あ……やばい、ちょっと眠くなってきたかも)
ここまでの怪我は人生で一度も経験したことがないから、流石にそろそろ怖くなってきた。
もしかすると、体内の魔力をどうにかすれば治療出来るかもしれない。が、それよりも何故だろう、もっと水華のことを知りたいと思うのは。
如月の疑問を彼女は鼻で笑い、さらに一歩距離を詰める。
そして、水華はちょっとだけ寂しそうに言った。
「そうだよ、神様。視聴者が神様みたいにその人のことを信仰してて、私が配信者になったらどうなるのかを知りたかったの」
「そうしたら、自分自身が他人に興味が持てるかもしれないって。誰も私を止める人はいないし……それで、気が付いたらこうなってた!」
両手を広げて配信でよく見せる表情を如月に見せつける。
何故ここまでの自分語りを唐突に始めたのか、彼女にとっての正解が分からない。
ただ一つ、分かっているのは彼女の思うように答えられなければ、如月は終わるということ。
水華は如月を殺すつもりだ。
「ねえ、キズラキ君。私はどう見える?」
すごく怖い質問をする水華だったが、彼女の青い瞳は震えていた。
慎重に、かといって嘘をつくわけでもなく如月はストレートな感情を吐き出す。
「『助けようとしなくていい』……最初にスイカさんが言った言葉です。それを聞いたとき本当は……死にに来たんじゃないかって思ってたんです」
「けど……そうじゃないんですよね? あなたは僕と真逆だ。誰かのために命を賭けられる人なんですよね、スイカさんは」
「僕はあなたとは違う。だから……」
「そんなあなたに嫉妬してます。完璧じゃないことを認められて、それでも自分でどうにかしようと藻掻けるのが羨ましい」
「これが僕の気持ちだ。僕にとって水華さんはこのゴミみたいな人生から救ってくれた救世主で嫉妬する相手なんです」
如月は朦朧とした意識の中、決して腹から手を離さないまま、最後に意識を失った。
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