第12話 愛すべきリスナーと呼びたい気持ち
「僕は人を殺してねえええってえェェェェッ!!」
迫真の絶叫に一瞬、コメントの流れが止まった。
そして、ダムの水が放流されたような勢いでコメントが大量に溢れだす。
《きたああああああああああああああああああ》
《神回》
《めちゃくちゃ効いてんじゃん……》
「大体さぁ!? なんで1年も孤独に生きてきてこんなこと言われないといけないの!? 366日目だぞ!?」
どれだけ叫ぼうとも怒りが収まる気配が感じられない。
それどころか、吠えるたびにまた新たな苛立ちが沸いてくるのだ。
(ああああああああああイライラするううううう!!)
「どれだけ惨めな気持ちで生きてきたか! こんなメンタルだからずっと見続けてくれた2人の視聴者を傷付けそうになったし、理不尽だよ世界は!」
配信上でストレスを発散をしているうちにますます日が暮れ、あっという間に夜を迎えてしまっていた。
「はあ……はあ……」
いつになく汗をかくほど激しく叫んだあと、如月は冷静さを取り戻す。
(何してんだよ僕は)
画面の右下をちらりと見ると、時刻はもう7時を過ぎていた。
そういえば、スイカと離れて1、2時間は経過しているはずだが、彼女は今も配信しているのだろうか。
配信をしながら、ドローンを操作して同時に彼女の配信画面を開いた。
『ねー! スイカも山の中って絶対怖いよ〜って思ってたけど、空と町の景色が綺麗でワクワクするんだよ! 小さなモンスターもちょくちょくいるけど……ね!』
(良かった、やっぱり僕が嫌われてるだけなんだ。良くは……ないか)
そしてまた、こっそりと自分のチャット欄を覗き、コメントの様子を観察してみる。
《そういやお前視聴者一人だけじゃねえんだ》
《俺も知らんかった》
《@姉以外にもいるのわろた》
――もしかして、彼らは視聴者が二人いたことも知らなかったのか?
そう察してからは次に何を言うべきか、理解するのが早かった。
「……ねっ!? みんな僕のことを何も知らないくせして妄想を押し付けてただけなんだよ! 僕の配信を見てたら全部嘘だって分かるから! だから見てってよ……」
渾身の発言が視聴者には刺さったらしく、チャット欄の雰囲気は良い方に一変する。
《何だかんだ好きになってきたから応援する》
《多分半分はネタで言ってるだけやで》
《お前も大変だな》
「実は本気でみんなにムカついてたけど、逆にスッキリしたよありがとう。こんなに感情を出したのは久しぶりだ」
良いように捉えれば、視聴者のおかげでストレスが解消出来たのだ。
まだわずかに連投や誹謗中傷が残ってはいるが、最早気になる量ではなくなったため、なにも思わなくなった。
だがしかし、安堵したのもつかの間、犬のような唸り声がどこかから聞こえたような気がした。
それは配信でもしっかり乗ったようで、彼らの心配そうなコメントが増えだす。
《何だ今の!?》
《スイカの配信では聞こえんかったぞ》
《キズラキスイカから遠すぎね?》
《お前気を付けろよ叫び過ぎだぞ》
如月はこのとき、嫌な予想が脳裏に
今まではただの妄想に過ぎなかったが、ここ最近は如月の中でそれはかなり真実味を帯びてきている。
如月はカメラに向かってあることを聞いてみた。
「ねえ……スイカさん以外にこのダンジョンに入った人はいるの?」
一見シンプルな質問に思えるが、如月の予想に反して視聴者達は揃ってこう答える。
《スイカが初めての攻略者だからいるわけないよ》
それもそうだよな、と思いつつ拭えない不審感を胸に、如月は思考し続けた。
自分であれだけ否定しておきながら、こういった結論に落ち着くのは良くないと思うが、間違いない。
このダンジョンの中に三人目が紛れている。
……スイカと急いで合流しなければ。
そう考え行動を起こそうとした矢先、目線をカメラに向けると怒涛の速さでコメントが押し寄せていた。
《後ろ》
《逃げろ》
《やばい》
「え――」
如月の声よりも先に、鈍い金属が重なり合う衝撃が全身に走った。
「誰だ……?」
何とか振り向いて正面から受け止めた如月だったが、魔物の剣にジリジリと押し戻されていく。
その魔物は全身に鎧を纏い、兜は着けているが中身は何もなくからっぽだ。
恐らくゾンビの類なんだろうが、こんな魔物は見たことがない。
「アア……アア……」
「どこから声出してんだこいつ!」
純粋な力勝負ではやりあえないと判断し、モンスターの剣を受け流して本体を薙ぎ倒す。
幸運なことに、彼の鎧は脆く一撃で倒すことが出来たが、森の空気が変化し、今までよりも遥かに重苦しい。
崩れ落ちた肉体から魔力が消滅したことを確認するとすぐにドローンに視線を向け直す。
「みんなのおかげで助かったありがとう! とりあえずスイカさんにも伝えてくれ、ダンジョンで一度も見たことがない魔物が現れ始めていると!」
《リビングメイルを一撃で……?》
《スイカの剣とはいえ魔法なしで倒せるのか……》
ああみんなは知ってたんだ、と落ち込みつつも〈視覚〉と〈聴覚〉を強化。
早急にスイカと他の魔物を探さなければ。
「あ、お前らリビングメイルってやつ? 来いよ」
10メートル先に木々の隙間から覗いている9体のリビングメイルの姿があった。
彼らは先程の個体と同じような装備を纏い、進路を塞いでいる。
「…………」
そのうちの1体がブツブツと唱えながら、じわじわとこちらへ近付いて、何かを口(があるだろう場所)から魔法を放ってきた。
しかし、その攻撃は如月に対してではなく、撮影を続けているドローンに被弾してしまう。
辛うじて浮遊は続けているが、レンズの部分がヘドロで汚され配信が停止したようだ。
突然配信が終わり、配信の画面には状況が理解出来ないまま困惑する視聴者だけが残された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます