第3章
第1話 寝ぼけたポヤポヤヒロインは悪女?
「寝れなかった……」
夜が明ける。
ようやく日の光が窓から差し込んできた頃には、すっかりと寝るのを諦めて疲れきっていた。
鏡で見たわけではないが、その顔は相当酷い顔をしていると思う。目の下に隈でもできるんじゃなかろうか。
ベッドを椅子にして腰掛けたまま、くあっと眠気ばかりが口から漏れる。
今、何時だろう。
昨日の執務室っぽい部屋に時計はあったが、ここには見当たらない。ゲームの背景なんて細かく見ていないからわからないが、高級品だったりするのだろうか。各部屋に、なんて置けないぐらいには。
頭が重い。
ズキズキと頭痛がする。
この世界って頭痛薬とかあるのかな。もしくは栄養ドリンク的な物とか。思っていると、部屋の扉がノックされる。
「おはようございます、ご主人様」
許しもなく入って来たのは、予想通り銀髪メイドだった。
相変わらず、その顔には愛想がなく、冷ややか。
見ているだけで冷水を浴びたような気分になって、目が少しだけ冴える。
こんな朝から何の用だろう。
ハッキリしない頭のまま、今にも瞼が落ちそうな目で彼女を見ると、半眼になった銀月の瞳が隣を。もっと言うなら、俺のベッドで、すやすやと眠るメリアを捉えた。
暫しの沈黙。どこからか聞こえてくる鳥の鳴き声だけが爽やかだ。
俺に戻ってきた瞳は、研いだように鋭利に細められ、眉間に皺が寄って汚物でも見るような眼差しに変わっていた。
いや、いや。いやいや。
「なにもしてないからね?」
「メリア様は鍵付きの客室にご案内したはずですが?
どうしてこちらに?」
まるっきり信用がなかった。
「いや、メリアから来てね?
だからって、夜這いとかそういうはしたない真似とかじゃないから誤解しないで」
「手を出したと?」
「これ、会話成立してる?
してないから。指先一つ――」
は、触れたか。手は。
「――……エッチな行為はしてません」
「………………」
吹雪にも負けない冷ややかな視線に、背中を伝う冷や汗の温度が下がっていくようだった。
痛みすら感じる視線に晒されて酸素が薄い。
寝不足で頭は死んでいる。上手い釈明なんて思いつきもしない。
どうしようかなと、朝っぱらから窮地に立たされてしまったのだけど、もぞりとメリアが起き上がった。
「……(ぼー)」
視点が定まらないまま、こくんこくんっと船を漕いでいたが、銀髪メイドを見つけるとにへぇっと頬を緩めた。
「おはよう、ございまふ」
「……おはよう、ございます」
銀髪メイドも、ぽやぽやと寝ぼけたメリアには毒気が抜けるのか、声に戸惑いが混じる。
眠そうに目を擦る。
幼児か、仔猫のような仕草に愛らしさを感じていると、きょろきょろとなにかを探すように顔を動かす。
俺に顔を向けたところで、ピタッと止まる。
そのまま、四つん這いで1歩、2歩と近づいてくると、手をぎゅっと握って――ばふっ。と、落ちるように、夢の世界に旅立ってしまった。
寝起きが悪いのかなんなのか。
さっきまでとは違う理由で気まずい空気になってしまい、ただただ時間だけが過ぎていく。
すー、すーとメリアの寝息だけがやけに大きく聞こえる。
別の意味でどうしようかなって思っていると、「はぁ……」と諦めたようなため息がどこかで漏れた。
「朝の準備が整いましたので、ご用意が出来ましたら食堂にいらしてください」
沈黙を破った銀髪メイドはそれだけ言い残していくと、
けれど、去り際。
扉の隙間から「……申し訳ございませんでした」と決まりが悪そうにしながらも、謝罪の言葉を残していった。
音を立てず、扉が閉まる。
「……良い子では、あるんだよなぁ」
嫌いだと。
態度で明確に訴えているのに、自分が間違えているとわかればしっかりと謝れる。うん。良い子だ。
屋敷の
これからここで生活していくのなら、出来れば仲良くしていきたい。けど、付け入る隙もないぐらいに毛嫌いされていて、どうしようもないように思う。
視線を落とす。
手を握ったまま、ベッドで丸々メリア。
「今回はメリアのお陰で助かったけど」
と、口にしたところで、そもそも誤解された原因であり元凶はメリアでは? という真実に辿り着く。
本人にその意識はないだろうけど。
なんだかマッチポンプみたいで、昨夜の告白を含めて狙ってやったとすればとんだ悪女だった。
「ま、悪女というには子供っぽ過ぎるか」
健やかに眠る彼女を見て、ちょっとだけ肩の力が抜ける。
指先を伸ばす。
ちょんっと鼻先を
■■
この世界に来てから今日で3日。
たったそれだけの時間なのに、頭を抱えてばかりな気がする。
祝日含めた3連休で頭空っぽにしてエロゲー全ヒロイン攻略耐久していたのが遠い昔のようだ。
「どうすりゃいいんのよほんと……」
朝食を終えて案内された執務室。
誰にも聞こえないよう口の中でぼやきながら、領主の仕事を前に途方に暮れるしかなかった。
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